質問主意書

第174回国会(常会)

質問主意書


質問第二二号

公立高校の授業料無料化及び高等学校等就学支援金に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年二月十二日

山下 栄一   


       参議院議長 江田 五月 殿



   公立高校の授業料無料化及び高等学校等就学支援金に関する質問主意書

 鳩山総理は、第百七十四回国会の施政方針演説において「すべての意志ある若者が教育を受けられるよう、高校の実質無償化を開始」するとした。今般、政府より、家庭の状況にかかわらず、全ての意志ある高校生等が安心して勉学に打ち込める社会をつくるためとして、公立高等学校の授業料を不徴収とするとともに私立高等学校等の生徒を対象に就学支援金を支給する法律案(以下「本法律案」という。)が提出されている。
 本法律案に基づく制度(以下「本制度」という。)は、新年度からの運用開始が予定されているにもかかわらず、現行の学校教育法令との関係等制度の理念についていまだ明確な説明がなされていない。そこで以下のとおり質問する。

一 憲法第二十六条第二項では、「義務教育は、これを無償とする。」と定め、教育基本法第五条第四項では、国公立の義務教育については授業料を徴収しない旨定めている。一方、本制度では、公立高等学校の授業料を不徴収とし、高等学校の課程に類する課程を含む私立高等学校等の生徒については原則として公立高等学校授業料相当の就学支援金が措置される。本制度により義務教育の教育費負担の現状に近づくこととなるが、義務教育とは異なり、公私間の入学定員調整により公立高等学校への進学機会は地域間で大きな差が生じている。

1 国の責務としてともに授業料不徴収としながら、義務教育とは異なり、公立高等学校への進学に際しては入学定員の制限があり、そこに地域間の差が生じることの妥当性について政府の見解を示されたい。
2 義務教育無償と公立高等学校の授業料不徴収の考え方の相違を明らかにされたい。

二 政府は、公立高校の実質無償化について、「財務省公表資料「平成二十二年度予算編成上の主な個別論点(文部科学省予算について)」(平成二十一年十二月三日)に対する文部科学省の見解」の中で、「後期中等教育の無償は世界的な常識」として、国際人権A規約に「中等教育における無償化の漸進的導入」を定めた規定があることを挙げている。

1 政府は、本法律案の提出の理由として、国際人権A規約の当該規定の留保撤回を考えているのか。また、本法律案の提出の理由と国際人権A規約との関係について、政府の見解を示されたい。
2 政府における中等教育の定義とは何か。我が国において中等教育を行う教育施設とは何か。本制度の対象となる教育施設以外に後期中等教育を行うものはあるか、明らかにされたい。
3 高等学校の課程に類する課程か否かを峻別する基準は何か。また、当該基準に教科等の教育内容に係るものはあるか、教育内容に係る基準は誰がどのように審査するのか、明らかにされたい。
4 高等学校卒業程度認定試験、専修学校高等課程の設置認可及び本制度による高等学校の課程に類する課程の指定について、それぞれの求める教育内容の違いを明らかにされたい。
5 学校教育法以外の法律に基づく特定教育施設への就学を本制度により支援する考え方を明らかにされたい。

三 本制度は、高等学校等の教育費のうち、授業料に限って家庭の負担軽減を図ろうとするものであるが、「高校の実質無償化」は何をもって達成されるのか。実質無償化の対象とは何か。「実質無償化」、「無償化」と「無料化」の三者の違いは何か、明らかにされたい。

四 予定される公立高等学校基礎授業料月額を上回る授業料を現に徴収している地方公共団体は、その差額を補てんするため別の費目で徴収することは可能か。その場合、本制度による授業料不徴収規定との整合性をどのように考えるか、政府の見解を示されたい。

五 高額所得世帯の生徒を本制度による支援の対象とする必要性を明らかにされたい。

六 政府は、「地域主権」の確立を政策目標に掲げている。従来、高等学校等の設置・運営は設置者の責任において実施されているが、本制度により高等学校等に係る地方行政に対して国の関与が強まることが懸念される。教育行政における地域主権の考え方と本制度の理念との関係を明らかにされたい。

七 現在、義務教育修了後の教育費負担軽減に係る施策の目的には、家計負担の軽減と教育を受ける者の自立支援の両面がある。日本学生支援機構や地方公共団体が実施している奨学金事業は、その債務を生徒・学生が負う仕組みである。本制度も就学支援金の受給者は生徒本人であり、当該生徒の属する世帯ではない。これらの制度の本来の目的は、本人の自立支援にあるのか、家計負担の軽減にあるのか、政府の見解を示されたい。

八 義務教育修了後、学ぶ意志のある若者が受けたい教育は高等学校に類するものに限らないのではないか。若者に対する支援を公平に保障しようとするならば、高等学校の課程に類する課程に限らず多様な学びに対応した制度設計が必要となる。本制度の対象外である教育施設での学びの方が学習意欲を高める場合もある。

1 本制度は、入学選抜競争の激化等により、高等学校への不本意入学、学校生活・学業不適応による中途退学の現状をより悪化させることになるのではないか。今以上に、生徒の意志にかかわらず高等学校への進学が求められる事態となり、特に、意欲の低い生徒にとっては、更に学ぶ意志を阻害し、若者のためにならないのではないか。政府は、学校現場に与える影響をどのように検討したのか。具体的な検討の成果とその根拠を明らかにされたい。
2 いわゆる高校無償化法案の提出に至る経緯については、当初、全国ほぼ一律の授業料を徴収してきた公立高等学校の授業料負担軽減が目的であったと思われる。本法律案の対象としている学校、教育施設の多様な実態にかんがみて、高等学校に類する教育に拘泥せず、義務教育修了後の学びの支援、生涯学習支援の仕組みとして位置づけし直した方が、現在の義務教育修了後の若者の実態に即していると考えるが、政府の見解を示されたい。

九 国際人権A規約には、高等教育についても「無償教育の漸進的な導入」が規定されている。今後の我が国の高等教育の授業料の在り方について、政府の見解を示されたい。

  右質問する。