質問主意書

第174回国会(常会)

質問主意書


質問第七号

天下り問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年一月二十五日

山下 栄一   


       参議院議長 江田 五月 殿



   天下り問題に関する質問主意書

 主権在民の民主主義国家においては、本来「特権者」の存在は認められない。また、公務員の本来の仕事は、全国民に共通する社会一般の利益である「公共の利益」(国家公務員法第九十六条第一項)を実現することであり、特定の者の利益の実現を図ってはならない。そうであるからこそ、公務員は「全体の奉仕者」であって、「一部の奉仕者」ではなく(日本国憲法第十五条第二項)、公務は「民主的且つ能率的」に運営されなければならないのである(国家公務員法第一条第一項)。
 しかし今日、いわゆる天下り問題は、「公共の利益」の実現を大きく妨げる原因となっている。特に、「天下り」が主権在民に反する「特権者である公務員」を生み出していることについての認識が、重要である。特定の行政権限の行使を通じて生まれる「特権者である公務員」は、本質的に「一部の奉仕者」でしかあり得ず、公務は結果として「非民主的で非能率的」になるからである。そこで、「主権在民に基づく全体の奉仕者である公務員」の観点から、以下のとおり質問する。

一 平成二十一年十一月十日、参議院議院運営委員会の理事会において、松井孝治内閣官房副長官は、天下り問題に関し次のように説明している。
 「「天下り」とは、府省庁が退職後の職員を企業、団体等に再就職させることをいう。したがって、公務員が、法令に違反することなく、府省庁によるあっせんを受けずに、再就職先の地位や職務内容等に照らし適材適所の再就職をすることは、天下りには該当しない。」
 しかし、問題の本質は、「公務の民主的で能率的な運営」の実現を妨げる公務員の再就職とはどのようなものか、また、それを防ぐためにどうすべきかである。したがって、「天下り」の定義について議論しても無意味であり、問題の解決につながらないと考えるが、いかがか。

二 「公務の民主的で能率的な運営」の実現を妨げる公務員の再就職とは、許認可権等の行使により特定の民間企業との間に癒着が生じ、又は、予算権限の行使により独立行政法人等を通じ税金の無駄が発生する原因となる公務員の再就職のことであり、その場合「特権者である公務員」が生まれることになる。これらは「府省庁によるあっせん」の有無とは無関係と考えるが、いかがか。

三 そもそも「天下り」は、明治憲法下の「天皇の官吏」の発想の言葉であり、「主権在民に基づく全体の奉仕者である公務員」に、まったくふさわしくない。「天下り」の観念を認めることは、「特権者である公務員」という考えを認めることになり、主権在民に反すると考えるが、いかがか。

四 「主権在民に基づく全体の奉仕者である公務員」の観点からは、いわゆる「渡り」を含め、「公務の民主的で能率的な運営」の実現を妨げる公務員の再就職を規制する法的仕組みをどのようにつくるか、が最重要である。特に民主党は平成十九年、有害な結果を招く公務員の再就職の全面的禁止を目的とする内容の「天下り根絶法案」を衆議院に提出している。同法案は、公務員の再就職に関する事前規制の強化を含んでいた点について、評価できる良い内容のものであったと思うが、現行の政策は事前規制どころか、天下りの自由化とも言うべき内容である。この矛盾について、政府として、どのように考えているか。

五 最近の日本郵政株式会社の社長人事は、郵政民営化法第二条の「基本理念」に反する政府の異常な介入による人事であり、また、政府自ら「渡り」を禁止する趣旨に反し、「特権者である公務員」を認める結果となり、「公共の利益」に反する重大な問題を残したと考えるが、いかがか。

六 国家公務員法第十八条の五(平成十九年改正で導入)は、内閣総理大臣が職員の再就職援助をすることを規定しているが、国家公務員は原則六十歳定年(同法第八十一条の二第二項)であるから、まずその完全実施の実現を図り、勧奨退職を行わないことにするべきである。また、定年制が完全に実施されれば、再就職援助は不要となるはずであるが、いかがか。

七 行政府の職員にだけ再就職援助が行われるのは、法の下の平等に反する。立法府や司法府の職員も原則六十歳定年であり、同様に再就職問題を抱えているからである。また、「特権者である公務員」を認めることにもなりかねない。とすれば、再就職援助規定(国家公務員法第十八条の五)は、官の一方的都合により定年制が完全実施できない場合であって、やむを得ないと認められるときに限定して、使われるべきであると考えるが、いかがか。

八 社会保険庁職員の再就職問題では、懲戒処分を受けた職員に対してまで政府が積極的に再就職の援助をしたが、この問題と、極めて限定的に運用されるべき再就職援助規定(国家公務員法第十八条の五)との関係については、どのように考えているか。

九 内閣総理大臣が職員の再就職援助をするという規定には、重大な意味がある。かつてあったように公務員の再就職のために官製談合が蔓延する事態となれば、直に内閣総理大臣の責任が問われ、内閣の倒壊につながることも大いにあり得るからである。この点については、平成十九年六月の国家公務員法改正の際に、参議院内閣委員会で風間昶議員が、官民癒着を防止するための措置を求める議論を展開している。その意味でも、有害な結果を招く公務員の再就職を規制する仕組みを法律でつくることが不可欠であろう。特に、許認可権等の行使により特定の民間企業との間に癒着が生じ、又は、予算権限の行使により独立行政法人等を通じ税金の無駄が発生する原因となる公務員の再就職について、判断する基準を明確に定めることが必須である。野党時代の民主党の「天下り根絶法案」はその趣旨の法案であったと思うが、政府として、現在どのように考えているか。

  右質問する。