質問主意書

第173回国会(臨時会)

質問主意書


質問第五六号

住民が住み続けられる夕張市再生計画策定に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年十一月二十五日

紙 智子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   住民が住み続けられる夕張市再生計画策定に関する質問主意書

 夕張市は、本年十一月、新たな財政再生計画の素案策定にむけ、市営住宅再編事業、市立診療所の改築、市職員の人件費の見直しなどに加え、住民からの要求を受けて新規の八十八事業を盛り込んだ案を公表した。あわせて、債務の返済期間を十年程度に短縮し、最終年度の赤字残額約二百四十億円は、国と北海道に支援を要請するとしている。
 十八年間で三百五十三億円の負債を返済する従来の計画は、藤倉肇市長が「単なる借金返済計画」というほど、市民にのみサービス削減と負担増を背負わせたものであった。市民からは「いまの計画では、まるで夕張に残るなといわれているようだ」との声さえ聞かれるように、財政再建団体となって以降、人口は約一割減少して今年十月末には一万千四百人となり、流出は止まっていない。
 夕張市破綻の大きな原因は、国のエネルギー政策の転換にあるが、国と北海道はその後も一体となってリゾート開発を地域振興策として推奨しつづけた。また夕張市の財政状況については、特に北海道は十分に把握できる立場にあった。こうした経過からも、夕張市再生に向けて、国の責任で債務の枠組みを見直す必要がある。
 市民からは、市立診療所の救急体制、学校統廃合問題などに関する要望も出されており、行政がこれらにどう応えるのか、市民への十分な説明ももとめられる。これら諸点について、以下、質問する。

一 債務の枠組みの見直しについて

 夕張市の財政破綻については、自公政権も「国の責任」を表明したが、具体的な方策はとってこなかった。これに対し、新政権では、原口一博総務大臣が地方交付税の抜本的増額を表明し、渡辺周総務副大臣が再建期間の短縮に言及するなど、地域重視の姿勢を示している。
1 夕張市が公表した案は、現行計画が終わる二〇二四年度になっても二百四十四億円の債務が残り返済期間の延長が必要となる。夕張市の毎年度の返済額をこれ以上増やすことは不可能であり、また返済期間の延長は困難である。夕張市は、国と北海道に支援を要請するとしており、政府はこの案に積極的に対応し、北海道、夕張市と協議する場を設置して支援策を講ずるべきではないか。政府の見解を示されたい。
2 国と北海道が夕張市の債務の一部を支援する場合、どのような方策が考えられるか、示されたい。

二 医療・救急体制の充実及び除雪について

 北海学園大学などが中心となった夕張再生市民アンケート実行委員会による調査(本年八月・九月実施、十一月発表。全世帯数の二割に当たる計千百七十世帯が有効回答)によると、市民の七割が「地域が悪化した」と感じており、「不安や困っていること」では、「医療・救急体制の不備」を挙げる人が四十八%と最も多い。
1 夜間救急体制の確保は財政再建団体となった当初からの課題であり、市民からの強い要望を受けて夕張市も積極的に対応しようとしている。この重要性について、政府の認識を示されたい。
2 従前から要望がある夕張市内での人工透析復活については、財政再建団体となっても夕張市で継続するとされていたにもかかわらず、検討事項にあがっていない。週三回、岩見沢市などへ一日がかりで人工透析に通う負担を一日も早く軽減する必要があるのではないか。また国は、市民の命や健康に直結する医療体制の整備について、夕張市が十分な説明を行うよう促すべきではないか。
3 聞き取り調査では、市立診療所で実践されている予防医療への賛同や感謝が語られる一方で、不満の声も少なくないとして、調査実施者は「診療所経営に関する正確な情報の伝達や、いわゆるコンビニ受診等を背景とする医師の負担・疲弊あるいは予防医療に関する考えなど、診療所と住民との間で、時間をかけた対話・信頼感の構築が必要である」と指摘している。こうした指摘をふまえ、市立診療所に関する情報提供について、夕張市がさらに積極的に取り組む必要があるのではないか。政府の見解を示されたい。
4 アンケートでは四十四・六%の人が「冬の除雪・雪下ろし」に不安を感じており、特に高齢者世帯では六割近くにのぼる。渡辺副大臣も市道の除雪基準の見直しを「待ったなしの最優先課題」と発言したと報じられている。除雪への支援策について政府の見解を示されたい。

三 保育料引き上げの見直しについて

 財政破綻後三年間据え置かれている保育料の保護者負担が来年度から引き上げとなれば、例えば現行で月額三万千円の保育料が国基準の四万千五百円になり年額十二万六千円の負担増となる。保育料引き上げは子育て世代の流出をさらに促す懸念があることから、夕張市は新規にこの見直しを盛り込んだ。夕張市再生に向けては、子育て世代が定住しやすい対策を手厚くする必要があるが、政府の認識を示されたい。

四 小学校一校化について

 南北三十五キロ、東西二十五キロに広がり東京二十三区を超える広さの夕張市で、平成二十三年度から小学校六校を一校にする統廃合計画には、依然として強い懸念がある。「小学校の三校存続を求める要請署名」は三千二百三十八筆(二〇〇八年十二月)にのぼり、市議会の地域懇談会(今年七月)、市民説明会(今年十月)でも批判の声があがった。夕張市が小学校を複数校存続させることによる負担増や、スクールバス導入から突如、路線バスに転換した根拠など、市民に十分説明していない問題もある。
 夕張市を訪れた渡辺副大臣は、「老人や子供の生活を第一に考え、再生計画ではできるだけのことをしていきたい」と発言しており、政府の積極的な対応が必要である。
1 民主党は第一六六回国会及び第一六九回国会に「財政が破綻状態にある市町村の義務教育関係事務の国への移管制度の創設に関する法律案」を参議院に提出しており、同院文教科学委員会(二〇〇八年五月二十七日)での質疑において、発議者の鈴木寛議員(現文部科学副大臣)は、夕張市の小中学校統廃合について、「地形とか道路状況とかを見ますと、やはり三校ずつ、要するに七校を一校じゃなくて、七校を三校、あるいは四校を三校というのが大体望ましい」と答弁している。政府として、現在もこうした認識を持っているか。また内閣として同様の法案を提出する予定はあるか。
2 小学校の運営経費の国、北海道、夕張市の費用負担について
(1) 文部科学省の地方教育費調査(平成二十年度)において、小学校一校の運営費総額における人件費、教育活動費、管理経費(修繕費等)、補助活動費(スクールバス、健康診断等)、土地・建築・備品費、図書購入費、債務償還費の構成比はどうなっているか。また各費目ごとの国庫補助金・都道府県支出金、市町村の負担割合の現状を説明されたい。
(2) 先述した国会答弁で、鈴木議員は夕張市立小学校一校当たりの市負担額は約七千万円から八千万円、中学校一校は約一億円と述べているが、この金額は現状もほぼ同様とみてよいか。
(3) 学校耐震化工事の国の補助割合、都道府県、市の負担割合を説明されたい。
3 夕張市の説明責任について
(1) 「北海道子どもの本のつどい 夕張大会 第九分科会」が調査した「地域 夕張の子どもたちとその未来」アンケート調査(本年六月実施、八月二日発表)では、保護者が小学校一校化にきわめて強い危惧を抱き、百八十五名の回答のうち百名が反対・不安、他の八十五名の中でも積極的な賛成は約二十名にすぎず、自由記載欄には「一校は無理」「せめて二校・三校に」の声が渦巻いている。政府はこうした保護者らの声をどう受け止めるか。
(2) 住民からは、小学校を一校化する場合、または、二~三校存続する場合のそれぞれの夕張市の負担増について詳しい説明をもとめる声が出されている。国として、夕張市が学校統廃合や同市の負担増について住民に詳細なデータをあげた説明を行うよう促すべきではないか。
(3) 路線バスへの「方針転換」についても、財政面を含めた詳細な説明はされていない。
 スクールバス導入には、国からバス購入費補助がある他、運営費(運転手、ガソリン代)への特別交付税措置もあり、国として、夕張市にこれらを含め詳細な説明を促すべきではないか。

五 夕張市職員の増員、給与改定について

 年収の四割減から夕張市職員の退職が後を絶たず、二十人の応援体制で成り立っている同市の行政の体制は他に例がない。同市が案に盛り込んだ職員増員、給与のカット率縮減について、政府の認識を示されたい。

六 銀行の貸し手責任について

 夕張市の財政状況が急速に悪化した大きな原因の一つには、北海道の金融機関が融資を見合わせた中で、みずほ、三菱UFJ信託など大銀行がホテルシューパロ(十五億円)やマウントレースイスキー場(二十億円)の買い取りなど、市の観光投資にその後も巨額の資金を貸し付け続けたことがある。
 こうした銀行の不適切な貸付にみられる貸し手責任を国はどう認識しているか。また貸し手責任の明確化を研究すべきではないか。

  右質問する。