第171回国会(常会)
答弁書第一八六号 内閣参質一七一第一八六号 平成二十一年六月九日 内閣総理大臣 麻生 太郎
参議院議長 江田 五月 殿 参議院議員大河原雅子君提出供用開始遅延ダムおよび八ッ場ダム等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員大河原雅子君提出供用開始遅延ダムおよび八ッ場ダム等に関する質問に対する答弁書 一の1の(一)について お尋ねの「供用開始予定年月」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、大滝ダムの堰堤維持費について初めて予算を計上する予定の年度は、平成二十五年度である。 一の1の(二)について 御指摘の「供用開始」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、白屋地区及び大滝地区においては押え盛土工、鋼管杭工等、迫地区においては押え盛土工、アンカー工等の地滑り対策工事を行うこととしている。当該地滑り対策工事の事業費は約三百八億円であり、お尋ねの「負担割合」は、特定多目的ダム法(昭和三十二年法律第三十五号)第四条に基づく大滝ダムの建設に関する基本計画に定める治水に係る費用の負担者として、国、奈良県、和歌山県がそれぞれ五十五・四四パーセント、七・四八パーセント、十六・二八パーセント、利水に係る費用の負担者として、奈良県、和歌山県、和歌山市、橋本市、関西電力株式会社がそれぞれ十・一五パーセント、一・三〇パーセント、五・九五パーセント、二・九〇パーセント、〇・五○パーセントである。 一の1の(三)について 御指摘の「供用開始」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、大滝ダム建設事業の工期を延長することがないよう、現在予定している地滑り対策工事等を着実に実施していくこととしている。 一の1の(四)について 大滝ダムの貯水池周辺における地滑り調査については、ダム建設等の場合の調査として一般的に採用されている調査方法によって適切に行っていたところ、当該調査によって得たデータからは湛水に伴って地滑りが発生する可能性があるとは判断できなかったことから、ダムの貯水池周辺での地滑りの発生を予見していなかったものであり、「見通しが甘かった」とは考えていない。 一の2の(一)及び(三)について お尋ねの「供用開始予定年月」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、独立行政法人水資源機構(以下「機構」という。)に対する水資源開発事業交付金において滝沢ダムの管理業務に係る予算を初めて計上した年度は、平成二十年度である。なお、機構においては、平成二十二年度までを工期として地滑り対策工事等を実施しているところであり、当該工期を延長することがないよう、当該地滑り対策工事等を着実に実施していくこととしていると承知している。 一の2の(二)について 御指摘の「供用開始」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、滝沢ダムの貯水池周辺の滝ノ沢地区、遊仙橋地区及びノウ沢地区においては、アンカー工、地下水排除工等の地滑り対策工事を行うこととしている。当該地滑り対策工事の事業費は約百四十五億円であり、お尋ねの「負担割合」は、独立行政法人水資源機構法(平成十四年法律第百八十二号)第十三条に基づく滝沢ダム建設事業に関する事業実施計画に定める治水に係る費用の負担者として、国、埼玉県、東京都がそれぞれ三十八・二九パーセント、六・一四パーセント、十・二七パーセント、利水に係る費用の負担者として、埼玉県、東京都、東京発電株式会社がそれぞれ三十六・七パーセント、八・四パーセント、〇・二パーセントである。 一の2の(四)について 機構によると、機構が行った滝沢ダムの貯水池周辺における地滑り調査については、ダム建設等の場合の調査として一般的に採用されている調査方法によって適切に行っていたところ、当該調査によって得たデータからは湛水に伴って地滑りが発生する可能性があるとは判断できなかったことから、ダムの貯水池周辺での地滑りの発生を予見していなかったものであり、「見通しが甘かった」とは考えていないとのことである。 一の3の(一)及び(二)について 御指摘の「ダム本体が完成」、「供用開始」及び「地質上の問題」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、現時点において国土交通省で把握している限り、治水特別会計(平成二十年度からは社会資本整備事業特別会計治水勘定)から予算が支出されたダム建設事業によるダム(以下「国土交通省所管ダム」という。)であって、ダムに初めて湛水を開始した年度以降、ダム本体又はその貯水池周辺の変状、気象等の影響による湛水の遅れ等の不測の事態が発生し、当該年度から維持管理費(堰堤維持費及び水資源開発事業交付金における管理業務に係る予算を含む。以下同じ。)について初めて予算を計上する年度までの期間が平成二十年度末の段階で二年を超えたダムは、大滝ダム以外にはない。 一の3の(三)について 御指摘の「ダム本体が完成」及び「供用開始」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、現時点において国土交通省で把握している限り、国土交通省所管ダムであって、平成元年度以降に、ダムに初めて湛水を開始した年度から維持管理費について初めて予算を計上した年度までの期間に、ダム本体又はその貯水池周辺の変状、気象等の影響による湛水の遅れ等の不測の事態が発生し、当該期間が二年を超えたダムについて、名称、初めて湛水を開始した年度、維持管理費について初めて予算を計上した年度及び維持管理費に係る予算の計上が当初の予定から遅延した主な理由をお示しすると、それぞれ次のとおりである。 八田原ダム、平成六年度、平成十年度、試験湛水の長期化 中筋川ダム、平成七年度、平成十一年度、試験湛水の長期化 滝沢ダム、平成十七年度、平成二十年度、地滑り対策工事の実施 浦山ダム、平成八年度、平成十一年度、試験湛水の長期化 味噌川ダム、平成五年度、平成八年度、試験湛水の長期化 白川ダム、平成六年度、平成十年度、試験湛水の長期化 牛頸ダム、平成元年度、平成四年度、試験湛水の長期化 鳴見ダム、平成元年度、平成四年度、試験湛水の長期化 広渡ダム、平成三年度、平成六年度、地滑り対策工事の実施 一の3の(四)について 御指摘の「供用開始遅延ダム」及び「地質上の問題」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、現時点において国土交通省で把握している限り、一の3の(三)についてでお示ししたダムのうち、初めて湛水を開始した以降に当初は予定していなかった地滑り対策工事を実施したダムについて、名称、当該工事の内容、当該工事の事業費及びダム建設事業の全体事業費をお示しすると、それぞれ次のとおりである。 滝沢ダム、アンカー工等、約百四十五億円、約二千三百二十億円 広渡ダム、押え盛土工等、約十四億円、約百四十五億円 一の4について 八ッ場ダムの貯水池周辺における地滑りに関しては、これまでの調査・検討に加え、現在、地滑りに関する専門家の助言を受けながらより精度の高い調査を実施しているところであり、今後、これらの調査結果を基に更に検討を行い、地滑りの可能性のある箇所については、必要な対策を講じることとしている。 二の1の(一)の(1)及び(2)について 八ッ場ダム建設事業に係る付替道路について、既に完成した区間の延長とその全体に対する割合及び工事に着手している区間の延長とその全体に対する割合は、平成二十年度末現在、一般国道百四十五号の付替道路のうち先行して二車線で完成予定のもの(以下「二車線の付替国道」という。)がそれぞれ約六百メートル、約六パーセント、約七・五キロメートル、約六十九パーセント、一般県道林岩下線の付替道路がそれぞれ零キロメートル、零パーセント、約四・七キロメートル、約六十八パーセント、一般県道林長野原線の付替道路がそれぞれ零キロメートル、零パーセント、約二・九キロメートル、約七十六パーセント、一般県道川原畑大戸線の付替道路がそれぞれ約二百メートル、約十八パーセント、約三十四メートル、約三パーセントである。なお、当該工事については、工事に係る契約の締結をもって工事の着手としており、お尋ねの「工事に着手している区間」と「契約済みの区間」の延長等は同じである。 二の1の(一)の(3)について 八ッ場ダム建設事業に係る東日本旅客鉄道株式会社吾妻線の付替鉄道(以下「付替鉄道」という。)について、既に完成した区間の延長とその全体に対する割合及び工事に着手している区間の延長とその全体に対する割合は、平成二十年度末現在、約七・八キロメートル、約七十五パーセント、約一・二キロメートル、約十二パーセントである。なお、当該工事については、工事に係る契約の締結をもって工事の着手としており、お尋ねの「工事に着手している区間」と「契約済みの区間」の延長等は同じである。 また、お尋ねの「新川原湯温泉駅の工事進捗率」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、付替鉄道に新たに設置される駅については、現在、用地買収と造成工事を進めているところである。 二の1の(一)の(4)について 八ッ場ダム建設事業に係る代替地については、すべての地区で分譲を開始しており、各地区の「分譲を開始している面積とその分譲を予定している全体の面積に対する割合」は、平成二十年度末現在、川原畑地区が約六千百平方メートル、約十パーセント、川原湯地区が約九千八百平方メートル、約十パーセント、横壁地区が約六千九百平方メートル、約二十パーセント、林地区が約五千五百平方メートル、約七パーセント、長野原地区が約六千二百平方メートル、約九パーセントである。 また、お尋ねの「完成済み家屋数と居住済み家屋数」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、代替地に移転が完了している世帯数は、国土交通省が把握している限り、平成二十年度末現在、川原畑地区で零世帯、川原湯地区で二世帯、横壁地区で二世帯、林地区で六世帯、長野原地区で六世帯である。 二の1の(二)及び(三)について お尋ねの「未買収地の距離数」については、多数の未買収の土地と買収した土地が混在しており、未買収地の距離を正確に算定するためには膨大な作業が必要となることから、お答えすることは困難である。 また、二車線の付替国道、一般県道林岩下線の付替道路及び付替鉄道は平成二十二年度末まで、一般県道林長野原線の付替道路は平成二十四年度末まで、一般県道川原畑大戸線の付替道路は平成二十六年度末までに工事を完了する予定であり、それぞれ、それまでに必要となる用地の買収を進めることとしている。 二車線の付替国道の群馬県吾妻郡長野原町長野原から同町横壁までの区間の一部、一般県道林岩下線の付替道路の同町川原湯地区内の区間の一部等については、既に暫定的に供用しており、二車線の付替国道の同町横壁から同郡東吾妻町松谷までの区間、一般県道林岩下線の付替道路の同郡長野原町林から同郡東吾妻町三島までの区間等については、平成二十二年度には暫定的に供用する予定である。 また、代替地については、すべての地区で、平成二十一年度末までにおおむね造成が完了する予定である。 二の1の(四)について 「水没予定地住民の移転」は、平成二十四年度に開始する予定である八ッ場ダムの本体となるコンクリートの打設までに、おおむね完了していることを予定している。 二の1の(五)について 前回答弁書(平成二十一年二月六日内閣参質一七一第一九号)二の1の(六)及び(七)についてで述べたとおりである。 二の2について 前回答弁書二の1の(五)についてで述べたとおりである。 三の1の(一)の(1)について 御指摘の洪水について、御指摘のブロックごとに氾濫により浸水した面積を把握しておらず、お尋ねについてお答えすることは困難である。 三の1の(一)の(2)について 国土交通省が平成二十一年三月に八ッ場ダム建設事業の再評価(以下「再評価」という。)を行うに当たって前提とした一級河川利根川水系利根川(以下「利根川」という。)及び一級河川利根川水系江戸川(以下「江戸川」という。)の氾濫計算(以下「今回の氾濫計算」という。)は、「治水経済調査マニュアル(案)」(平成十七年四月一日付け国河計調第二号国土交通省河川局河川計画課長通知。以下「マニュアル」という。)に従って実施しており、原則として、氾濫ブロックにおいて、想定する洪水の水位が安全に流下できると評価した水位を超える地点がある場合に、当該氾濫ブロックのあらゆる地点において破堤又は越水が生じる可能性があると仮定して計算したものである。 三の1の(一)の(3)について 御指摘の「毎秒九二二二立方メートル」に対する年超過確率は計算しておらず、お尋ねについてお答えすることは困難である。 三の1の(一)の(4)について お尋ねの「氾濫開始流量」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、今回の氾濫計算で、御指摘の「八斗島地点から栗橋地点までの区間」の大部分を占める氾濫ブロックとして設定した左岸側、右岸側各一ブロックの氾濫ブロックにおいて、洪水により堤防が破堤して氾濫が始まると設定した流量は、左岸側が毎秒九千八百五十立方メートル、右岸側が毎秒一万千百六十五立方メートル及び一万四千六百八十六立方メートルである。 また、当該氾濫ブロックにおいて、洪水時に堤防の安全性が低下することを考慮せず、洪水の水位が堤防天端まで上昇すると想定した場合の流量のうち最小の流量は、毎秒一万八千百七十二立方メートルである。 三の1の(一)の(5)について 今回の氾濫計算は、マニュアルに基づき氾濫ブロックごとに実施しており、当該氾濫ブロックの上流部における破堤による氾濫は想定していないものの、当該上流部における越水又は溢水により生じる下流への流量の低減は考慮している。 三の1の(二)の(1)について 今回の氾濫計算においては、過去に生起した十の洪水時における降雨パターンを用いて、利根川水系に年超過確率二百分の一までの洪水が生起した場合について、八ッ場ダムがあるとき及び八ッ場ダムがないときにおける八斗島地点のピーク流量を一般的な流出計算手法を用いて算出している。 三の1の(二)の(2)について お尋ねの趣旨が明らかではなく、お答えすることは困難である。 三の1の(三)の(1)及び(4)について 国土交通省が平成十五年十二月及び平成二十年三月に再評価を行うに当たって前提とした洪水調節に係る便益の算定においては、利根川水系工事実施基本計画における八斗島地点の計画高水流量より小さな流量の部分に係る年平均被害軽減期待額を利根川及び江戸川の河川改修に係る便益とし、計画高水流量から基本高水のピーク流量の部分に係る年平均被害軽減期待額を八斗島地点の上流のダム等に係る便益としていた。平成二十一年三月に再評価を行うに当たって前提とした洪水調節に係る便益の算定においても、その基本的な考え方を踏襲したものであり、「恣意的な計算」であるとは考えていない。 三の1の(三)の(2)について 計画高水流量より小さな流量の部分に係る年平均被害軽減期待額を含めた場合の八ッ場ダムの治水に係る費用便益比は、十四・六である。 三の1の(三)の(3)について 計画高水流量については、長期にわたる河川整備の目標を明らかにする利根川水系河川整備基本方針において定めているが、「計画高水流量に対応できる河道改修の完了時期の見通し」については定めておらず、お示しすることは困難である。また、「河道で対応する八斗島地点の目標流量」については、現在、利根川水系河川整備計画の策定に向け作業を行っているところであり、現時点でお示しすることはできない。 三の2の(一)について 国土交通省関東地方整備局八ッ場ダム工事事務所が平成二十年十一月に実施した吾妻渓谷の景観改善への取組に関するアンケート調査(以下「アンケート調査」という。)は、渇水時の吾妻川の景観改善のために必要な吾妻川の維持流量を八ッ場ダムから補給する場合の景観改善の効果に着目し、その便益を算出するために実施したものであり、アンケート調査の項目については、当該便益の算定に資するものを設定したものである。 三の2の(二)について 御指摘の約五十七万人という観光客数は、吾妻渓谷の年間観光客数を実測した資料が存在しないため、アンケート調査の結果及び川原湯温泉に宿泊する観光客数を基に算出したものであるが、御指摘の「景観改善の便益」の算定手法については、必要に応じて今後検討してまいりたい。 三の2の(三)の(1)について 御指摘の松谷発電所に関する水利権の許可期間は、平成二十三年度末までであり、東京電力株式会社からの申請があれば、必要な審査を行い、許可の更新について判断することとなる。 三の2の(三)の(2)及び(3)について 東京電力株式会社から水利権の許可の更新についての申請を受けていない現時点において、許可の条件についてお答えすることは困難である。なお、渇水時にも安定的に吾妻川に維持流量を確保するためには、八ッ場ダムが必要であると考えている。 四の1について 国土交通省としては、都道府県による特定多目的ダム法第十条第一項の負担金(以下「受益者負担金」という。)の徴収状況について把握しておらず、お尋ねについてお答えできない。 四の2について 都道府県知事が徴収する受益者負担金の徴収の方法については、特定多目的ダム法第十条第三項において準用する同法第九条第二項の規定により、都道府県の条例で定めるものとされている。 四の3について 御指摘の「受益者負担金を肩代わり」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、国土交通省としては、都道府県の条例で受益者負担金を免除することを定めた事例は承知していない。 |