質問主意書

第171回国会(常会)

質問主意書


質問第二三八号

厚生労働省公表の「日本人の食事摂取基準」に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年七月十四日

森田 高   


       参議院議長 江田 五月 殿



   厚生労働省公表の「日本人の食事摂取基準」に関する質問主意書

 五月二十九日付けで「日本人の食事摂取基準」が厚生労働省より公表されている。厚生労働省が国民の健康増進のために様々な情報を提供するのは非常に重要であるということは論をまたないが、一方で、健康増進と食生活上の因果関係を呼びかけるにあたっては、結果として副次的に様々な影響が発生することが想定されることからも、呼びかける側にも学術として「真に確立した論理的背景」が要求されることもまた重要な観点である。今回、右記基準公表にあたって、一部疑義を持たざるを得ない箇所があったため、以下質問し見解をただすものである。

一 「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書の九十~九十一頁の二-六-四において、コレステロール摂取と様々な疾病関連死を議論するにあたり、前提条件として、同八十九頁の二-六-一にあるように経口摂取されるコレステロール量は体内生成分の三分の一~七分の一であることや、二-六-四では、血中総コレステロール値の高い人は薬物治療を行ったり、卵の摂取を控えるようになる、所謂「因果の逆転」があり、単純なコレステロール摂取や鶏卵の摂取と近年の疫学研究の結果を結びつけることが困難であると認めている。しかしながら、有意差さえ検定されなかった(P=0.06)、NIPPON DATA80における鶏卵摂取と女性の癌死相対危険度の増加傾向を文中において、米国での総死亡率の「軽度」上昇傾向と併せて強調することは国民に対する食生活上の正しい見解の伝達を行う態度ではないと思われるが、このような見解を出すに至った理由を明らかにされたい。

二 仮に女性における癌死危険度が増加するとした場合でも、臓器別の分析が行われていなければ、具体的な因果関係を検証することは困難である。また、これらの結果は参照資料となっているNIPPON DATA80やNIPPON DATA90の研究班主任研究者である滋賀医科大学・上島氏らが中心となって比較検討した「NIPPON DATAからみた循環器疾患のエビデンス(日本医事新報社)」における第三章で「卵の摂取と循環器疾患」に記載こそみられるものの、文章を見る限り「女性の癌死リスクが高まる」ということが特段に強調されているものではない。また、引用文献中の資料は調査当時から既に三十年近い歳月が経過していることはもちろん、鶏卵一個/日摂取群(N=1393)と二個/日摂取群の母集団数(N=69)が顕著に異なっていることからも、統計学的にも理想的なサンプルとは言えないという指摘もある。さらに、NIPPON DATA80と併せて引用されている、欧米における症例対照研究のうち、卵巣がんの危険因子を調べた参考文献一四一のカナダにおける研究においても、鶏卵摂取と卵巣がんの因果関係は統計学的には認められていない(P=0.13)。これらの事実を総合すれば、医療供給体制や薬物治療水準が調査当時と大きく異なる現代の我が国における鶏卵摂取の目安をNIPPON DATA80の結果をもって「癌死リスクが高まる」と強調することは不適切と言わざるを得ない。そもそも研究の力点であったはずの循環器疾患上のリスクが高まることがなかったという「純然たる結果」こそ、強調されるべきではなかったのか。

三 今回の「日本人の食事摂取基準」は、今後各地の保健所、保健センター、民間健康増進施設等において、不特定多数の個人や集団を対象に行われるであろう健康増進事業の場において活用されるものであると認識している。その中で、統計情報としては古く、有意差さえ検出されない不確かな情報の下で、「鶏卵摂取と女性の癌死リスク」が一人歩きして伝えられる可能性が払拭出来ないことに不安を覚える。また、厚生労働省は本基準を発表するにあたり、内容に対して一義的な責任を負うばかりではなく、結果として発生するであろう「風評リスク」も含め様々な副次的な影響も考慮すべき立場にあると思料する。今回の鶏卵摂取と癌死リスクとの因果関係に関しては、未だ確認されていないことも多く、今後、表現の訂正を求めたいと思うが見解を示されたい。

  右質問する。