質問主意書

第171回国会(常会)

質問主意書


質問第二〇七号

サンルダム建設に係るサクラマス保全に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年六月十五日

紙 智子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   サンルダム建設に係るサクラマス保全に関する質問主意書

 サンルダム建設におけるサクラマスの遡上・降下対策を審議する目的で設置された「天塩川魚類生息環境保全に関する専門家会議」(以下、「専門家会議」という。)は、今年四月に「天塩川における魚類等の生息環境保全に関する中間取りまとめ」(以下、「中間取りまとめ」という。)を発表してサクラマス保全に対する考え方を示した。
 しかし、「中間取りまとめ」の既設ダム魚道の評価からは、むしろ実態として魚道が機能していない現状が浮かび上がっており、サンルダム魚道施設において慎重で詳細な検証が求められる。そこで「中間取りまとめ」に関する疑問点など、以下質問する。

一 既設ダム魚道の評価とサンルダム魚道について

1 二風谷ダム魚道の評価について
(1) 「中間取りまとめ」では、二風谷ダムの場合は、魚道上流端がダム湖につながっているため、同様な手法にてサンルダムで整備を行うと、ダム下流側へ降河しにくく回遊魚が陸封化する可能性が高いなど課題があり、二風谷ダムの調査結果をそのままサンルダムに適用するのは適切でない、と述べている。
 この見解は、二風谷ダム魚道がサンルダムに適切でないと指摘したのと同時に、二風谷ダム魚道は沙流川におけるサクラマス保全にも適切でなく、サクラマスは二風谷ダム湖に陸封化したと評価したと受け止められるが、政府の認識を示されたい。
(2) 平成二〇年七月一日付けの「サンルダム建設問題に関する質問に対する答弁書」(内閣参質一六九第一七三号)では、「学識経験者からなる「北海道地方ダム等管理フォローアップ委員会」において・・・サクラマスの遡上については「経年的に遡上していることから、魚道は有効に機能し、魚種の資源維持に大きな役割を果たしているものと判断される」と、降下については「経年的に魚道により降下をしていることから、親魚は沙流川に回帰しているものと判断される」との評価について了承されているところである。北海道開発局としては、これらを総合的に検討し、二風谷ダムの魚道について、サクラマスの遡上及び降下の機能を確認しているものである」と述べていた。
 「中間取りまとめ」の二風谷ダム魚道の評価は、北海道地方ダム等管理フォローアップ委員会の判断及びこれを受けた北海道開発局のダム魚道に関する評価とは相反する評価ではないか。政府の認識を示されたい。政府が「相反する」と認識しない場合は、その根拠を示されたい。
(3) 同答弁書では、スモルト標識魚の回帰率について「遡上までの間に標識が脱落する可能性があること等から、お尋ねの「遡上魚の中の標識魚の割合」については、お答えできない」と述べている。しかしながら一般に放流稚魚の回帰率はサケのみならずサクラマスでも標識放流によって求めている(例えば、真山紘(一九九二)「サクラマスの淡水域の生活および資源培養に関する研究」における尻別川、朱太川、遊楽部川、斜里川などの例、北海道さけ・ますふ化場研究報告四六)。二風谷ダム魚道の評価方法として、なぜ回帰率を求めなかったのか、二風谷ダム魚道にのみ特別の状況があるのか、説明されたい。
2 美利河ダム魚道の評価について
(1) 「中間取りまとめ」では、美利河ダムの場合は、サンルダムと同様にバイパス魚道を通して遡上・降河魚がダム湖に直接入らないようにしているが、ダム下流河川の流況がサンルダムと大きく異なることから、美利河ダムの調査結果をそのままサンルダムに適用するのは適切ではない、と述べている。
 ここで、「ダム下流河川の流況がサンルダムと大きく異なる」点については、北海道開発局が「美利河ダムの魚道については、平常時サンルダムの下流河川には、魚道による水量のほかダム直下に発電放流による水量がありますが、美利河ダムでは発電水の放流口がダム下流約五キロメートルにあることから、ダム直下流の河川には魚道による水量のみであり、ダムの下流河川の流況が大きく異なるものになります」と述べている(六月四日付け自然保護団体への回答)。
 ダムの下流河川の流況が大きく異なると、なぜ美利河ダム魚道がサンルダムに適切でないのか、具体的に示されたい。
(2) このダム直下から約五キロメートルの間は「減水区間」(平成一九年度美利河ダム水産環境影響調査業務報告書、北海道栽培漁業振興公社)とされ水量が少ないことが明示されており、サクラマス親魚の遡上が困難になると考えられるが、この点はどう認識しているか。
(3) サンルダムでは美利河ダムの調査結果をそのまま適用するのは適切でないと述べているが、バイパス魚道、分水施設などの基本的仕組みは美利河ダムと同じではないか。美利河ダム魚道とサンルダムで予定している魚道との相違を具体的に述べられたい。また美利河ダム魚道の分水施設は成果がみられるのか、それをサンルダム魚道の参考にするのか、説明されたい。

二 サンルダム魚道施設の効果・検証について

1 暫定水位運用方法について
 「中間取りまとめ」では、魚道についで分水施設を設置し、「ダム本体完成後において魚道施設の効果を把握・検証するまでの措置として、スモルト降下期の貯水位を低下させる運用(暫定水位運用)を行う」とし、暫定水位運用時のイメージ図として、ダム最低水位(貯水位一五八・八メートル)以下などに水位を下げ、最低水位へ上がる図が描かれている。一方、天塩川流域委員会資料(四八-八-五)では、施設として可能な限り水位を低下させた場合、最低水位程度まで低下させた場合、および常時満水位程度の場合など三通りの図があるが、これは「中間取りまとめ」の図とは整合性があるのか。
 魚道の効果を把握・検証する場合の暫定水位運用を具体的にどのように行うのか、説明されたい。
2 魚道施設の効果の把握方法について
(1) 暫定水位運用期間中の魚道試験では、成魚もスモルトも魚道を利用することを前提としている。暫定水位運用期間中は、成魚が河川を遡上しないように、およびスモルトが河川に混入しないように、措置を講じて行うことが必要だが、暫定水位運用期間中の魚道の効果試験を具体的にどのように行おうとしているのか、説明されたい。
(2) 「中間取りまとめ」では、魚道の効果を把握するための把握対象が示されていない。適切に把握するためには、親魚の遡上数、スモルトの降下数、ダム上流の産卵床数、ダム上流のヤマメ密度、スモルトの回帰率を把握する必要があると考えるが、具体的に何を把握するつもりか、説明されたい。
3 魚道効果の検証の意味について
 「中間取りまとめ」では、魚道の効果を検証すると述べているが、具体的にどのような作業を行うのか。サクラマス保全のための方策のための検証を行うのであるから、少なくとも、サクラマスの何割が保全されるかの予測をたて、具体的に調査結果に照らし合わせて確かめて、魚道が機能したかどうかを検証すべきではないか。

三 ダム建設以前の魚道効果の検証の必要性について

1 ダム建設以前の検証の可能性について
 昨年のサンル川の実験用魚道での遡上実験はダム建設前に行われたものであり、また美利河ダムの分水施設の実験もダムが完成していなければできない実験ではないとみられる。したがって、ダム建設前にサンルダム魚道の効果の把握と検証は可能ではないか。認識を示されたい。
2 ダム建設以前の検証の必要性について
 一、二で述べたように、二風谷ダム魚道も美利河ダム魚道もサンルダム魚道の参考にするには適切でないと述べられており、効果のある魚道の例は見当たらない。そうした状況では、サンルダム魚道が効果をもつ可能性も低いと考えられる。
 サンルダム魚道がサクラマス保全機能を有しないことがわかれば、サンルダム計画は根本から見直さなければならない。ダムを一度建設した後、これを破壊することは税金の大きなムダ遣いとなる。そのようなことにならないように、ダム建設後の暫定水位運用による効果の検証はやめて、ダム建設前に魚道の効果の検証を行って、その結果を見てダム建設の是非を決定すべきではないか。
3 魚道効果がない場合の対応について
 二〇〇七年一月の地元での住民説明会において、住民等からの「サクラマス保全が成功しない場合にはどうするのか」という質問に対して、北海道開発局からは回答がなかった。住民等の質問は当然の内容であり、これでは説明責任を果たしていない。サクラマス保全が成功しない場合にはサンルダム建設をどうするのか、答弁されたい。
4 サンルダム魚道の建設費について
 先の答弁書では、「サンルダム建設事業において魚道に係る費用は約八億円と見込んでいる」と答弁している。この約八億円は、ダム下流から階段魚道と八キロメートルの魚道すべてを含んで見込んだ額であるのか、二風谷ダム魚道および美利河ダム魚道とあわせて答弁されたい。

  右質問する。