質問主意書

第171回国会(常会)

質問主意書


質問第一六九号

与党提出「水俣病の被害者の救済及び水俣病問題の最終解決に関する特別措置法案」と汚染者負担原則に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年五月十八日

松野 信夫   


       参議院議長 江田 五月 殿



   与党提出「水俣病の被害者の救済及び水俣病問題の最終解決に関する特別措置法案」と汚染者負担原則に関する質問主意書

 我が国では、公害問題の発生を契機として、汚染環境の修復費用や公害被害者の補償費用は汚染者が負担することを基本とする考え方が一般的であるが、この原則をどこまで遵守するか、射程範囲はどの程度か等は必ずしも明確ではない。
 現在、自民党及び公明党は「水俣病の被害者の救済及び水俣病問題の最終解決に関する特別措置法案」(以下、「与党法案」という。)を衆議院に提出している。この法案は、①水俣病未認定患者の救済、②汚染者である加害企業チッソ株式会社(以下、「チッソ」という。)の分社化、③公害健康被害の補償等に関する法律(以下、「公健法」という。)における水俣病の地域指定解除の三つをセットとするものである。その結果、法案提出者は三年以内を目途とするとしている期限の後は、既に公健法による認定を受けた水俣病患者へは認定患者とチッソとの間で締結された補償協定に基づいた補償を支給するが、新たに名乗り出た被害者の認定申請や救済等は受け付けない、行わないというものである。
 そこで、以下のとおり質問する。

一 汚染者負担の原則とは、政府が本年四月二十四日付「汚染者負担原則に関する質問に対する答弁書」(内閣参質一七一第一三七号)で述べているように、一九七六(昭和五十一)年三月十日に中央公害対策審議会(当時)から答申された「公害に関する費用負担の今後のあり方について」において示された、汚染防除費用のほか、環境復元費用や被害救済費用も汚染者に負担させる原則ではないか。
 そうだとすれば、汚染者である加害者が被害者への補償をはじめ前記費用負担の責任を完全に果たすことが確認される前に、加害者である法人を消滅させることを容認する法案ないしはスキームを制定することは、汚染者負担の原則を逸脱することにはならないか。加害企業を、保証責任を全うする以前に法律を定めて消滅させることは、少なくとも汚染者負担原則からして望ましくないという理解でよいか。政府の見解を求める。

二 与党法案には、汚染者が負担すべき環境復元費用等について規定する条文はないが、政府は、チッソ水俣病問題においては環境復元は既になされていると認識していると理解してよいか。
 チッソが排出した高濃度なメチル水銀を含有する水俣湾の汚泥、ヘドロの浚渫・埋立処理は、一九七七(昭和五十二)年から一九九〇(平成二)年まで水俣湾公害防止事業として実施された。それは総水銀濃度二五ppmを上回る汚泥を、鋼矢板セル製の護岸で取り囲んだ埋立地の中に、水銀を含む汚泥の上に合成繊維の被覆シート、格子状のロープ、上置土のシラスと被覆土である山土を順番に重ねただけの簡単な構造で土中に封じ込めたにすぎない。当初より、鋼矢板の海水による腐食、それによるヘドロの水俣湾内への流失と水銀による汚染が心配されており、鉄板である鋼矢板の耐用年数が五十年と言われていることから、当然に近い将来、改修ないし補修工事の必要が見込まれる。政府はその際の費用は誰が負担すべきであると考えているのか。

三 汚染者負担原則とは、例えば被害者への補償について、最初から加害者自らが支払うことではないとこの原則を充足しないという理解であるか。それとも水俣病問題においては、最高裁判決で被害発生ではないが被害拡大の責任が認められた、いわば責任の一部が認められた国等がいったん被害者へ補償した上で、その後、加害者に対して求償することで負担させることもこの原則を充足するのではないか。

  右質問する。