質問主意書

第171回国会(常会)

質問主意書


質問第一六六号

アイヌ民族の歴史・言語等施策の拡充に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年五月十五日

紙 智子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   アイヌ民族の歴史・言語等施策の拡充に関する質問主意書

 アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会(以下、「有識者懇談会」という。)は、北海道や東京でのアイヌ民族からの意見聴取も行いながら、今夏のとりまとめに向けて議論を重ねている。報道では、アイヌ政策を継続的に審議する常設機関設置の必要性について報告書に盛り込む方向が伝えられており、今後もアイヌ民族・関係者の要望を一つでも多く取り入れることが期待される。有識者懇談会の議論によってアイヌ民族政策が大きな前進を示すことを促進する立場から、主として歴史・言語分野の政府の認識について、以下、質問する。

一 学校教育での位置づけの拡充について

 アイヌ民族の大きな要望の一つは、民族の歴史、文化等についてもっと幅広い国民に知ってほしいというものである。明治政府による北海道への移民政策がアイヌの居住地を奪い、強制同化政策を推進してきたという歴史的事実をふまえ、まず学校教育の段階から全国民への教育内容を拡充していく必要がある。
1 学習指導要領の現状は、小・中・高等学校のうち中学校社会科のみであり、その言及も鎖国下の対外関係の一部として「北方との交易をしていたアイヌについて取り扱う」旨の記載にとどまっている。実際の教科書では小学校社会科や中学歴史・公民分野・高等学校日本史・現代社会・政治経済などに記述があるが、教科書ごとの記載の差が大きい。
 第四回有識者懇談会では山内昌之委員(東京大学教授)、佐々木利和委員(人間文化研究機構国立民族学博物館教授)らが先住民をめぐる歴史の新しい見方を提示されている。こうした見解もふまえ、今後、明治以降の近現代の和人との関わり、アイヌ民族の民族的自覚など、学習指導要領の社会科分野の記述を拡充すべきではないか。
2 アイヌ民族については、日本語とはまったく異なる体系をもつ言語と口承伝承、北の大地の厳しい自然の中で築き上げてきた独自の文化など、わが国が包摂する文化の多様性を示すきわめて重要な要素がたくさんあることから、社会科のみならず、国語、音楽、美術など幅広い科目で学習指導要領にアイヌ民族に関する記述を盛り込むべきではないか。
3 アイヌ文化振興・研究推進機構作成による小中学生向けのアイヌ民族の歴史副読本は、北海道内では小四と中二に一人一冊ずつ配布されているほか、全国の小中学校に各一冊配布されている。こうした副読本とともに、教員の自主的研究にもとづく教材・授業づくり、多様な授業例の募集など幅広い学習教育活動を保障すべきではないか。
4 これまでの札幌市『教育課程編成の手引』では小四の二学期であったアイヌの学習が、新学習指導要領の「移行措置」に向けての手引では、小四の一月後半からとなっている。三学期の雪に閉ざされた大地では、自然の植物を配置した札幌市アイヌ文化交流センターの効果的な活用が困難となり、また冬場の天候、交通渋滞から児童の移動に時間がとられ十分な見学時間がとれないことも予想される。これではアイヌの学習が後退しかねないと懸念の声があがっているが、こうした札幌市のようなアイヌ文化を学ぶ時期の変更は、文部科学省や北海道教育委員会の指導によるものなのか。地域の実情に応じた教育課程の編成がもとめられるのではないか。
5 自然とともに生きてきたというアイヌの歴史や文化に、春夏秋冬を通じて触れられる機会をつくり、アイヌ文化振興・研究推進機構の副読本を実際に学びやすくするためにも、アイヌ博物館や関係施設への入館料補助、学校教育でのバス使用への補助、学校へのアイヌ文化伝承者派遣事業などの予算増額ときめ細かな措置がもとめられている。
 アイヌ文化の教育にたずさわっている現場の教員からのこうした多様な要望を把握すべきではないか。
6 「外国語活動」の時間を活用したアイヌ語教育も選択肢の一つとすることを検討すべきではないか。

二 アイヌ民族学及びアイヌ語の学習・教育研究のための環境整備について

 学校教育でアイヌ民族に関する質の高い授業を行うとともに、アイヌ民族・言語に関する多方面からの研究を発展させ、研究者を養成していくためにも、大学・研究機関での教育研究体制の整備が不可欠である。
 第五回有識者懇談会で千葉大学教授の中川裕氏は、アイヌ語教育環境整備の要件として、「学習を永続的に続けることができるような環境作り」「教育者への教育」などいくつもの重要な提起をされている。過去にアイヌ語を奪ってきた歴史をもつ事実に照らし、こうした第一線の研究者の積極的な提起を生かすため、現場の教員が授業研究のために大学・研究機関と連携できる環境整備、さらに幅広いアイヌ語学習を可能とする環境づくりに着手する必要がある。
1 大学・講座・博物館等におけるアイヌ研究の現状について
 大学でのアイヌ研究の一つの拠点としては、北海道大学アイヌ・先住民研究センターがあるが、全国の各大学・研究機関・博物館におけるアイヌ民族・歴史・言語の研究体制の現状はどうなっているか把握しているか。把握していないのであれば、全容を把握する必要があるのではないか。
 また、前述の北海道大学アイヌ・先住民研究センターは五年間の時限的な組織であるが、学校教育との接続をはかる研究組織として機能させていくためにも、期間限定ではなく常設のセンターとすべきと考える。アイヌ研究組織の実態をどう把握しているか。
2 教育学部における位置づけの重要性について
 報道では北海道教育大学が二〇〇四年度から一般教養でアイヌ語の単位を設定したほか、教育学部では北海道大学、千葉大学、早稲田大学などがアイヌ語・アイヌ研究の授業を設定している。教育学部におけるアイヌ語・アイヌ研究の現状についても特に把握する必要があるのではないか。また、アイヌの授業例の収集・研究がもとめられるのではないか。
3 現職教員の研修制度を利用したアイヌ語、アイヌの歴史・文化の研修について
 現在、現職教員の力量を高めるために在職のまま一定期間(最長二年間)研修する制度があるが、この制度を活用してアイヌの言語・歴史等に関する研修を行っている大学があるか把握しているか。また今後、こうした研修を新設する必要があると考えるが、政府の認識を示されたい。
 夜間の大学院、教職大学院でもアイヌについての講義を開設すべきと考えるが、実態はどうか。実態を把握していないのであれば、把握する必要があるのではないか。
4 現行のアイヌ民族のためのアイヌ語講座の拡充について
 現在、アイヌ文化振興・研究推進機構のアイヌ語指導者養成事業は二年で一コース修了で、一度受講した人は再度受講できないシステムになっている。すでに受講を修了した生徒から、修了者のためのコース新設や習ったことを使う場を設定してほしいという要望が出されている。政府は、同機構がこれらの要望を検討するよう対応すべきではないか。
 また、放送大学での開講も望ましいと考えるが、政府の認識を示されたい。

  右質問する。