質問主意書

第171回国会(常会)

質問主意書


質問第一三七号

汚染者負担原則に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年四月十六日

松野 信夫   


       参議院議長 江田 五月 殿



   汚染者負担原則に関する質問主意書

 我が国では、深刻な公害による健康被害の発生を契機として、環境を汚染する者が汚染の防止、環境の復元及び被害補償に要する費用を負担するという、汚染者負担を基本とする考え方が一般的とされているが、この原則をどこまで遵守するか、射程範囲はどの程度かなどは必ずしも明確ではない。
 そこで、以下のとおり質問する。

一 政府は、汚染者負担原則の射程範囲を一般的にはどのように理解しているか。環境汚染の結果、住民の健康被害が発生した場合もそうでない場合も適用対象とするか。汚染者の負担は被害補償のみならず、汚染の防止、環境の復元に要する費用の負担も含まれるか。

二 公害健康被害の補償等に関する法律では、補償給付や公害保健福祉事業に必要な費用を汚染原因物質の排出者から徴収することとなっており、これはいわゆる汚染者負担原則に依拠するものと理解して良いか。

三 水俣病事件では、汚染者であるチッソ株式会社(以下、「チッソ」という。)は一九七三(昭和四十八)年の補償協定に基づき、水俣病認定患者に対して一時金、医療費、年金等の補償を行い、その費用は全額チッソの負担とされている。しかし、認定患者の増加による補償金の支払額の増加や石油危機による経営不振等で補償金の支払いに支障を生ずる恐れがある事態となったことから、一九七八(昭和五十三)年六月二十日付「水俣病対策について」の閣議了解等によって、以降、熊本県によるいわゆる患者県債の発行を措置してチッソに貸し付けたのは汚染者負担原則を適用したものと理解して良いか。

四 一九七七(昭和五十二)年から一九九〇(平成二)年に実施された水俣湾公害防止事業では、チッソが排出した高濃度なメチル水銀を含有する水俣湾の汚泥、ヘドロの浚渫・埋立処理にかかった費用は、汚染者負担原則からすれば公害防止事業負担金としてチッソが全額負担すべきではないかと考えられるが、実際には、事業費約四百八十億円のうちチッソ負担分は約三百億円で、残りを国と熊本県でそれぞれ二分の一ずつ負担した。この点は汚染者負担原則を完全には適用していないのではないかと思われるがそのとおりか。また、完全には適用しなかった理由は何か。

五 水俣病問題では一九九五(平成七)年に政治解決が図られ、救済対象者への一時金の支払い(団体加算金を含む。)に総額約三百十七億円を要したが、この負担が全額チッソとされたこと、及びその支払いの資金として八十五%を国の一般会計から熊本県への国庫補助金、十五%を熊本県債により措置してチッソに貸し付けたのは汚染者負担原則を適用したものと理解して良いか。

六 政府は、二〇〇〇(平成十二)年二月八日付「平成十二年度以降におけるチッソ株式会社に対する支払措置について」の閣議了解でチッソに対する金融支援抜本策を決定した。政府はその中で、前記政治解決における一時金総額約三百十七億円のうち、国が出資した八十五%に当たる約二百七十億円について返済を免除することにした。これは汚染者負担原則を逸脱するものではないか。逸脱しないというのであれば、その理由は何か。汚染者負担原則も、当該原因企業が経営悪化の場合、その他何らかの理由があれば貫徹しないで良いという理解であるか。

七 二〇〇四(平成十六)年十月十五日に言い渡された水俣病関西訴訟最高裁判決は、規制権限を適切に行使せずに水俣病の被害拡大を防止しなかったことについて、国及び熊本県に賠償責任ありと認定した。このように国家賠償請求訴訟で国も責任を問われた場合には、当該汚染者の負担には何らかの影響が生じるか。生じるとすればどのような影響になるか。

  右質問する。