第171回国会(常会)
質問第一一六号 生活保護の受給申請に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 平成二十一年四月六日 辻 泰弘
参議院議長 江田 五月 殿 生活保護の受給申請に関する質問主意書 現在、我が国は、経済の急激な悪化と厳しい雇用失業情勢に直面しており、多くの国民がこれまで経験したことのない生活不安の中におかれている。 国民の安心を支えるべき社会保障制度は、今日まで続けられてきた市場原理偏重の経済・財政運営や社会保障費の抑制策により、セーフティネットとしての機能を果たせなくなっている。また、労働市場の規制緩和等を背景に、不安定就労者やワーキングプアと呼ばれる労働者の存在が問題となっている。 今後更に雇用情勢の悪化が懸念される現状の下、社会保障の「最後の砦」というべき生活保護制度がその本来の機能を十分に発揮できるような体制の強化が喫緊の課題である。 このような観点から、以下質問する。 一 過去五年間における各福祉事務所窓口への生活保護申請に関する相談件数、生活保護申請件数及び保護開始件数を、それぞれ年度毎に示されたい。 二 「派遣切り」などで住まいや仕事を失った人たちを支援する「年越し派遣村」においては、集まった失業者等のうち、二百五十人以上が生活保護申請をし、数日のうちに保護開始決定がなされた。しかし、厚生労働省社会・援護局関係主管課長会議(平成二十一年三月二日開催)の資料では、今回の対応につき、「年末年始に大量の申請が一の福祉事務所に対して行われたこと」等を理由に「特例的に迅速な対応が行われた」と説明されている。今回の対応を特例的なものとするのではなく、すべての生活保護申請者に対して迅速な保護を行うべきだと考えるが、政府の具体的な取組を示されたい。 三 現在の厳しい雇用失業情勢下では、失業者の更なる増加が懸念される一方で、稼働能力があっても就業の場がなく、緊急的に生活保護を利用せざるを得ない場合が生じる。稼働能力を活用しているかの判断においては、稼働能力の有無だけでなく、稼働能力を活用する就労の場を得ることができるか否か等により判断することが「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和三十八年四月一日社発第二百四十六号厚生省社会局長通知)(以下「通知」という。)で示されており、単に稼働能力があることをもって保護の要件を欠くものではないことは明らかである。しかし、これまでには、生活保護申請希望者に対し、稼働能力があることを理由に申請を受け付けない事例が報告されている。通知では、就労の場を得ることができるか否かの評価について「地域における有効求人倍率や求人内容等の客観的な情報」等をふまえて行うこととされているが、就労の場を得ることができないと判断される有効求人倍率の値及び求人内容について、具体的に示されたい。 四 特定の居住地がない場合や稼働能力がある場合には生活保護申請ができないという誤解により、生活保護申請をあきらめる者が生じないよう、国民に対し、生活保護制度に関する正しい情報を提供し、周知徹底を図る必要があると考えるが、政府の具体的な取組を示されたい。 五 国民が生活保護の申請権を確実に行使するためには、実施機関において確実に生活保護申請を行うことができる環境を確保することが必要である。生活保護申請書用紙一式を、申請希望者が自由に手に取れる場所に常備するよう、実施機関に対して義務付けるべきだと考えるが、政府の見解を示されたい。 六 過去五年間における各福祉事務所に配置されている現業員の総数及びそのうち生活保護担当の現業員数を、年度毎に示されたい。 七 生活保護費の国庫負担分については、当初の交付分以上に保護費を要した場合は翌年度に精算が行われる。一方、自治体は保護の決定をもってただちに給付に要する財政負担が生じることになる。今後更なる雇用情勢の悪化が予想される中、国庫負担分の要精算額が増加することとなれば、自治体の資金繰り等に過大な負担を生じさせる懸念もある。そこで、国庫負担分の精算の前倒しを行う必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。 八 普通交付税の基準財政需要額は、過年度の人口及び被保護者数を算定基礎としているため、現下の被保護者数の急速な増加には即応することができず、後年度の算定において実際の被保護者数との差分が配慮されることになる。現年度に交付される普通交付税に不足が生じる場合には、自治体が財政負担することになる。そこで、急増する人件費等に対応するため、特別交付税などにより現年度中における国の財政措置が急務であると考えるが、政府の見解を示されたい。 九 生活保護の被保護人員が平成十九年十月から十一か月連続で増加し、保護率が平成二十年十二月の速報値で一二・六%にまで上昇している現下の状況においては、実施体制の強化が喫緊の課題である。福祉事務所における現業員の数については、社会福祉法第十六条により、市町村の設置する事務所にあっては被保護世帯八十世帯に対し一人、都道府県の設置する事務所にあっては六十五世帯に対し一人の配置が標準数として定められている。しかしながら、自治体財政の悪化や被保護世帯の増加を背景に、現業員が標準数に満たない福祉事務所が存在し、例えば名古屋市ではこの四月に現業員を増員したが現業員一人の担当件数が百件を超えている。こうした実施体制の弱体化により、被保護者の自立支援を十分に行うことができない、保護決定までの時間がかかるなどの問題が生じている。また、現業員が三~五年で異動することから継続的な人材育成ができないなど、人材育成の強化が大きな課題となっている。現業員の確保及び人材育成の強化について、政府の具体的な取組を示されたい。 右質問する。 |