質問主意書

第171回国会(常会)

質問主意書


質問第六八号

生活保護活用に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年二月二十六日

仁比 聡平   


       参議院議長 江田 五月 殿



   生活保護活用に関する質問主意書

 世界的な金融危機や大不況のもとで、トヨタ自動車やキヤノンなど大企業による非正規雇用労働者をはじめとした大量解雇が深刻化している。そうした状況下では仕事と住居を同時に失い、路上生活を余儀なくされてしまう人々が急増しており、国と自治体による生活保障がきわめて重要である。
 東京・日比谷公園での「年越し派遣村」の取組について、麻生総理も私の参議院予算委員会の質問に「意義ある取組」(二〇〇九年一月二六日)と答弁したところであるが、とりわけ多くの非正規雇用労働者が生活保護を申請し迅速に保護が開始されたことは大きな教訓である。その経験と教訓を踏まえ、以下政府に質問する。

一 二〇〇八(平成二〇)年一二月二二日二〇福保生保第七四九号東京都福祉保健局生活福祉部保護課長通知「雇用状況悪化に対する福祉事務所の相談援助体制について」についての、二〇〇九年一月二六日の参議院予算委員会における当職の質問に対して、舛添厚生労働大臣は「厚生労働省の基本的な方針に基づいて東京都もそういう方針を決定した」「全力を挙げて今東京都の通知に書いてあることを国としても行っていく」「国の責任において…周知徹底したい」と答弁したが、同年二月五日中日新聞朝刊に掲載された福井県坂井市の事例など、福祉事務所が住居のないことを理由に生活保護申請を拒むなどの違法な対応が後を絶たない。
 年度末に向けて、さらに多くの非正規雇用労働者の解雇が懸念される中、一刻も早く全都道府県・政令指定都市に対して厚生労働省から同様の内容の通知を発出するべきではないか。

二 住居を失った要保護者から生活保護開始申請があった場合、すみやかに居宅もしくは施設において生活保護を開始すべきであるが、保護申請後すぐに入居可能な居宅をみつけるのは困難であり、また、大都市部以外の地域では、こうした要保護者を一時的に収容する施設が現に全く存在していない地域も多く、存在している地域でも定員が限られている。
 厚生労働省としては、こうした現状において保護申請後すぐに入所できる施設が存在しない場合に申請者を路上に放置しないために福祉事務所はどのような措置を講ずるべきと考えるか。

三 二に指摘したようなケースにおいて、緊急避難施設の不足または不存在という本人には何ら帰責性のない事情により要保護者が不利益を受けることになってはならない。
 緊急避難施設にすぐに入所することが不可能な場合に、経過的居所の確保のために必要とされた臨時の宿泊料等についても住宅扶助の対象となることを全国の自治体に早急に周知すべきであると考えるがどうか。

四 地域の社会資源等の実情により、現実問題として生活保護申請後も住居を持たない要保護者が一定期間路上で待機せざるを得なかった場合は、開始決定後に路上にいた期間の生活扶助費も当然支給されるべきである。しかし、一部自治体においては、保護開始日を申請日とせずアパート等に入居した日としたり、あるいは開始日は申請日としても路上に待機していた期間については生活扶助を支給せずに医療扶助単給としたり、または生活扶助Ⅰ類のみしか支給しなかったりする例がある。このような運用は誤りであると考えるがどうか。また、こうした運用が誤りであることを全国の自治体に周知すべきと考えるがどうか。

五 東京都福祉保健局生活福祉部保護課が作成した東京都生活保護運用事例集問8-19では、「宿泊所等の利用も不可能な場合には、現実問題として、保護の方法に困難が伴うが、居住地がないこと自体は保護申請の却下理由にはならない。したがって、可能な限り他の方法を講じることが必要である(例えば、サウナやカプセルホテル、旅館等を利用している場合であっても、そのことをもって保護の対象とならない理由にはあたらない)」「要保護状態にある者から保護の適用を求められた実施機関は、現実の諸条件の中で可能なあらゆる方策を講じて、保護適用の責任を果たすことが求められる。そのためにも、日常から、路上生活者等が相談来所した場合の対応に関して、あらかじめ入所できる施設を確保しておく等の検討と準備を組織的に行っておくことが重要である。」とされているが、厚生労働省も同じ見解であると考えてよいか。

六 滋賀県大津市は、路上生活者からの保護申請について、「住居がなければ却下される」とコメントした旨報じられている(二〇〇八年一二月二六日共同通信)。
 福祉事務所はあらゆる方法をもって要保護者に対する生活保護の適用に責任を持たなければならないのであって、自力で居宅を確保できないことをもって保護申請を却下することは違法であると考えるが、どうか。そうだとすればその旨を全国の自治体に周知するとともに、大津市などの自治体に誤った運用を是正するよう指導すべきではないか。

七 保護開始までの期間について、二〇〇八年三月四日の生活保護関係全国係長会議において、厚生労働省が「申請者の手持ち金が限られているなど急迫している状況にあるときは、迅速な保護の決定が求められる」と注意喚起しているにもかかわらず、二〇〇九年一月二〇日朝日新聞朝刊で報じられている大津市の事例など、所持金が僅少な申請者に対する保護費の支給が申請から三〇日近くかかっているケースが後を絶たない。
 厚生労働省は監査などにおいてこれまでどのように指導しているのか。全国の自治体に改めて迅速な決定を指導するとともに、申請から保護開始までにかけている期間について全国的に実態を調査し、法定期限を遵守していない自治体に対して個別に指導を行うべきではないか。

八 非正規雇用労働者の大量解雇が予想される中、ハローワークと生活保護行政の連携の必要性が高まっている。ハローワークの窓口に日々寄せられる求職相談の中に、入り口は求職相談だが、実は生活基盤を失い本人の努力だけではどうにもならない人たちが必ず含まれていることを踏まえた構えと取組が求められると考えるが、どうか。
 実際には、要保護状態にあったと思われる相談者に対して、ハローワーク職員が生活保護制度について情報提供せず、しなかった理由としてハローワーク責任者が「ハローワークの利用者と生活保護の対象者が重なることを想定していなかった。年も若く、住居がないと生活保護は受けられないと思っていた」と述べた旨報じられている(二〇〇九年一月二五日朝日新聞大阪本社版朝刊)。こうした対応を決して繰り返してはならない。
 ハローワークでも、生活保護や緊急小口貸付などの最低限の知識の周知、カウンセリングの力量のいっそうの向上、福祉事務所や社会福祉協議会など関係機関にきちんとつなぐという構えと連携が求められると考えるが、どうか。
 また、要保護者を万が一にもたらい回しにしたり、まして追い返すことがあってはならない。必要なら個別の要保護者を他機関に同行する、そのために必要な人員を確保すべきだと考えるがどうか。

  右質問する。