質問主意書

第171回国会(常会)

質問主意書


質問第六五号

国家公務員制度改革に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年二月二十四日

喜納 昌吉   


       参議院議長 江田 五月 殿



   国家公務員制度改革に関する質問主意書

 憲法第十五条第二項は、「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。」と、公務員のあるべき姿について理念を規定している。すべての公務員制度改革は、この規定にしたがって行われなければならない。そこで、以下質問する。

一 政府は、「公務員制度改革に係る『工程表』」で「『天下り』の根絶」と述べている。しかし、「天下り」は、戦前の「天皇の官吏」の発想の言葉というべきであり、「全体の奉仕者」である公務員(憲法第十五条第二項)にまったくふさわしくない。「天下り」を認めることは、「特権者である公務員」の存在を許すことであり、国民主権と法の下の平等に基づく民主制国家の憲法の思想に反すると考えるが、いかがか。

二 「工程表」でいう「天下りの根絶」とは、「各府省による再就職のあっせんをなくすこと」である。「各府省による再就職のあっせん」が「内閣総理大臣による再就職のあっせん」に変わるに過ぎず、国家公務員が営利企業、独立行政法人、公益法人等に再就職すること自体がなくなるわけではない。これは国民一般の常識に著しく反すると考えるが、いかがか。

三 「各府省による再就職のあっせん」が「内閣総理大臣による再就職のあっせん」に変わっても、真に問題とすべき国家公務員の再就職がなくなる保証はない。真に問題とすべきは、①官民癒着となる営利企業への再就職と、②税金の無駄遣いとなる独立行政法人、公益法人等への再就職であり、今日国民から厳しく非難されている「渡り」は、①②のいずれにも関係する。これらは「内閣総理大臣による再就職のあっせん」で直ちに解決する問題ではない。こうした本当の事柄を国民に伝えずに、「『天下り』の根絶」などと宣伝するのは、国民を騙す行為にほかならないと考えるが、いかがか。

四 そもそも国家公務員法は、職員が定年(六十歳)まで勤務することを原則としており(第八十一条の二)、法律の誠実な執行(憲法第七十三条第一号)のためには、定年制を完全実施すること以外にない。「各府省による再就職のあっせん」は、職員の早期退職勧奨に伴って人事慣行として事実上行われてきたに過ぎない。また、早期退職勧奨の原因が、やはり人事慣行であるキャリアシステムにあることは、間違いない。単なる人事慣行が法の原則を破るという不正常極まりない事態が続いてきたのである。国家公務員の人事を正常化するためには、キャリアシステムを完全に廃止して、これらの不公正な人事管理を必要としない状況(定年制の完全実施)を創り出すほかないと考えるが、いかがか。

五 キャリアシステムとは、採用時の一回限りの試験で中央省庁等の幹部要員の選抜を行い、同期の者はほぼ同時期に昇進していくことを原則とする人事慣行であり、その本質的問題は、本来職務遂行を通じてしか適正に行えないはずの幹部要員の選抜を採用試験に著しく重点を置いて行っている点にある。これは、戦前の「天皇の官吏」の思想が残る人事管理の方法であり、キャリア職員とノンキャリア職員を区別することで、一種の身分制度のように機能しているとともに、専門職に対する著しい低評価にもつながっている。専門知識を伴わないジェネラリスト、ただの管理職が評価されないことは、国民一般の常識であるが、公務の世界ではその逆である。明らかに非合理的で非民主的、時代遅れの人事管理というほかない。このような現状を正直に認めなければ、公務員制度の改革はあり得ないと考えるが、いかがか。

六 国家公務員制度改革基本法は、キャリアシステムの廃止を目的として立案されたはずである。ところが、同法では、採用試験を「総合職試験・一般職試験・専門職試験」等に分け、「総合職試験」は、「政策の企画立案に係る高い能力を有するかどうかを重視して行う試験」と位置付け、さらに、「幹部候補育成課程」では「管理職員に求められる政策の企画立案に係る能力の育成を目的とした研修を行う」としている。かりに「総合職試験」の採用者数を現行のⅠ種試験採用者数よりも絞った上、「総合職試験」を「幹部候補育成課程」に直結する人事運用が行われる場合には、逆にキャリアシステムを維持強化し、スーパーキャリアを誕生させることも大いにあり得る。このような結果になれば、国民の信頼を裏切ることは間違いない。参議院行政監視委員会調査室が昨年十一月にまとめた「国家公務員制度改革とキャリアシステムに関する意見調査」でも、このことは明らかである。そのようなことにならぬよう、「総合職試験」の採用者数が現在のⅠ種試験の採用者数以上となるように制度設計を行うことが、最低限必要と考えるが、いかがか。

七 昨年十二月、警察庁のキャリア職員が、成田空港の手荷物検査で化粧水の持込みを制止されたことで、女性検査員に暴行を働き、逮捕されるという事件が起きた。このキャリア職員は倫理担当だったという。この事件を見ると、国家公務員のキャリア職員が持つ特権的意識は、公務員の基本的性格(全体の奉仕者)に反する深刻な問題であることがわかる。法の執行である公務がすべての国民に対し平等に行われなければならないことは、反論の余地のない原理原則であり、それが幹部候補で倫理担当のキャリア職員によって破られているからである。まさに特権的意識は、民主制国家の公務員倫理における根元的害悪であり、憲法の理念に反すると考えるが、いかがか。

八 今から六十年以上も前の昭和二十二年、日本国憲法の施行とともに、公務員は「天皇の官吏」から「全体の奉仕者」となり、その結果、公務員制度についても根本的な改革が行われた。そして、昨年六月、参議院内閣委員会における国家公務員制度改革基本法案の採決が行われ、その際の附帯決議では、キャリアシステムの廃止に関して、「公務員が憲法第十五条第二項に規定する全体の奉仕者であることを踏まえ、幹部候補育成課程の対象者に特権的意識を持たせるものとならないよう研修等において十分配慮しなければならないこと」が明記された。公務員の特権者を作り出すキャリアシステムを完全に廃止し、特権的意識ではない、職業公務員としての高いプライドを持った優秀な幹部職員を選抜するためには、国家公務員制度創設の原点に立ち返ることが必須と思われるが、いかがか。

  右質問する。