質問主意書

第171回国会(常会)

質問主意書


質問第一九号

利根川水系河川整備計画と八ッ場ダム建設事業に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年一月二十九日

大河原 雅子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   利根川水系河川整備計画と八ッ場ダム建設事業に関する質問主意書

 利根川水系河川整備計画の策定プロセスは平成一八年一一月末の有識者会議で始まり、平成一九年二~三月には公聴会が開かれたが、その後、平成二〇年五月に経過報告の有識者会議が一回開かれた以外は策定の状況が何も示されず、今後どのような手順で策定に至るかの道筋も明らかにされないままになっている。その間、住民から反対の声が強く出ている大規模河川事業の工事が河川整備計画による位置づけがないまま強引に進められている。
 八ッ場ダムがそのような大規模河川事業の代表例であって、平成一九年二~三月の公聴会でも、八ッ場ダム反対の意見が多く出されたにもかかわらず、その声を無視してダム本体工事の準備工である転流工の工事が昨年から開始されている。さらに、来年度の予算がまだ決まっていないにもかかわらず、今年一月九日には来年度後半からの開始予定のダム本体工事の入札公告が行われている。
 既成事実を次々とつくらんがための、国土交通省の事業推進の強引な姿勢は看過できないものがある。よって、利根川水系河川整備計画策定と八ッ場ダム事業の諸問題について以下質問するので、誠意をもって答えられたい。なお、回答は誰もが分かる平易かつ明解な言葉で説明されたい。

一 利根川水系河川整備計画の策定について

1 利根川水系河川整備計画の策定に関して国土交通省が現在どのような作業を進めているのかを具体的に明らかにされたい。
2 平成一九年二~三月に公聴会が開かれた後、利根川水系河川整備計画の策定に向けての動きが示されず、策定の作業が二年間近く遅れているようであるが、その作業が滞っているのはどのような理由によるのか、その理由を具体的に明らかにされたい。
3 利根川水系河川整備計画の策定に向けての今後のスケジュールを具体的に示されたい。
4 利根川水系については河川整備計画の素案(たたき台)も示されていない。通常は素案を示して広く意見を聞き、さらにその意見を踏まえて計画の原案を作成して再度、広く意見を聞く手順を踏むものであるが、利根川水系では整備計画の策定に至るまでどのような手順を踏むのか、その手順を具体的に示されたい。
5 平成一九年二~三月の公聴会では八ッ場ダムをはじめとする大規模河川事業に対して必要性の喪失と、様々な災いをもたらす危険性を指摘する意見が多く出された。国土交通省は利根川水系河川整備計画の素案を示す前にこれらの意見に対して明確な回答を出す義務があるが、この回答がいつ示されるのかを明らかにされたい。
6 平成一八年一一~一二月の有識者会議の資料によれば、利根川水系河川整備計画の治水目標は本川五〇年に一回、支川三〇年に一回の洪水となっているが、治水目標をこのように設定する理由を明らかにされたい。
7 右記の治水目標に対して、利根川本川の各区間、江戸川の各区間、利根川各支川(直轄区間)ではどの程度の治水安全度が現在確保されているかを明らかにされたい。
8 平成一八年一一~一二月の有識者会議の資料によれば、利根川水系の大規模河川事業として、次の事業が書かれている。これらの事業が現在、それぞれどのような状況にあるかを明らかにされたい。また、それぞれの事業費と完成予定年度を示されたい。
(一) 八ッ場ダム建設事業
(二) 湯西川ダム建設事業
(三) 思川開発事業(南摩ダム)
(四) 霞ヶ浦導水事業
(五) 渡良瀬遊水地の大規模掘削事業
(六) 稲戸井調節池の大規模掘削事業
(七) 印旛沼経由の利根川放水路計画
(八) 首都圏氾濫区域堤防強化対策事業(利根川と江戸川)
(九) 烏川河道内調節池計画
(十) 下久保ダムの治水容量増強計画
9 右記の各事業と利根川水系河川整備計画策定との関係、すなわち、河川整備計画の策定がそれぞれの事業の進行にどのように関係するかを各事業について明らかにされたい。
10 淀川水系では着工済みのダム等の事業は河川整備計画による位置づけがなされるまでは新しい段階に入らないルールが遵守されてきたが、利根川水系でそのルールが遵守されていない理由を明確に示されたい。
11 河川法は各河川事業を河川整備計画によって位置づけることを求めているので、その位置づけなしで河川事業を進めてはならない。ただし、従前の工事実施基本計画に書かれていた事業については経過措置として工事実施基本計画を河川整備計画とみなすとされているので、河川整備計画が未策定であるにもかかわらず、そのみなし規定を使って多くの河川事業が進められてきている。しかし、河川法が改正されてから一一年以上経過しており、一一年以上もこの経過措置を使って、多くの河川事業の工事を推進するのは異常であると言わざるを得ない。河川法改正当時に想定されていた経過措置の上限の年数を明らかにされたい。
12 利根川水系では工事実施基本計画の治水目標は本川二〇〇年に一回、支川一〇〇年に一回の洪水であった。一方、利根川水系河川整備計画で予定されている治水目標は前述のとおり、本川五〇年に一回、支川三〇年に一回の洪水であり、工事実施基本計画と比べて、治水目標の規模が格段に小さくなっている。したがって、工事実施基本計画で必要とされた事業であっても、治水目標の規模が格段に小さくなるのであるから、河川整備計画で必要となるかどうかは不明である。この点で、工事実施基本計画を河川整備計画の代わりとみなすのは基本的に無理がある。この治水目標規模の違いとみなし規定との間に生じる矛盾をどうするのかを明解に説明されたい。
13 平成九年度の河川法改正で新たに組み込まれた考え方は「環境の視点」と「学識経験者の意見の反映」「流域住民の意見の反映」「流域自治体の意見の反映」であり、さらに工事実施基本計画を、長期的な方針を定める「河川整備基本方針」と今後二〇~三〇年間に実施する事業を定める「河川整備計画」に分離することであった。このように旧河川法時代とは河川計画の考え方が根本から変わったのであるから、河川整備計画未策定のままで八ッ場ダム事業等が進行していることは河川法改正が求めた基本理念を踏みにじるものと言わざるを得ない。河川法改正が求めた基本理念をどのようにとらえているのかをあらためて明らかにされたい。

二 八ッ場ダム事業について

1 ダム本体工事について
(一) 平成二一年度後半から予定されている八ッ場ダム本体工事の入札公告が一月九日に行われた。しかし、来年度予算も決まっていない段階で、しかも、九カ月以上先の工事の入札公告をなぜ一月時点で行ったのか。一月時点で入札公告を行った理由を説明されたい。
(二) 予算が決まっていない段階で、ダム本体工事の入札公告を行った他のダム事業の例があれば、そのダム名と入札公告、入札締め切り、本体工事開始のそれぞれの年月日を明らかにされたい。
(三) 最近二〇年間においてダム本体工事に着手した直轄ダム事業それぞれについて、ダム本体工事の入札公告、入札締め切り、本体工事開始のそれぞれの年月日を明らかにされたい。
(四) 本体工事の入札公告によれば、工事内容として、ダム土工約六〇万立方メートル、堤体工約六〇万立方メートル、基礎処理工約一万八千立方メートルの数字が示されている。一方、平成一九年一二月の関東地方整備局事業評価監視委員会の資料によれば、ダム本体のコンクリート量九一万立方メートル、基礎掘削量六八万立方メートルとなっており、数字が対応していない。両者の数字の関係を明らかにされたい。
(五) 本体工事は来年度後半から着手し、平成二七年度までに完成するとされている。このスケジュールにおいてダム本体工事は各年度にどのような段階を進んでいくのか、各年度で予定されているダム本体の工事段階を具体的に示されたい。
(六) 右記の各段階のダム本体工事を進めるに当たって、ダムサイト予定地を通過する現国道はいつまで使用できるのか、現国道を使用できなくなるダム本体工事の段階を明らかにされたい。
(七) 右記の各段階のダム本体工事を進めるに当たって、ダムサイト予定地の近傍を通過する現鉄道はいつまで使用できるのか、現鉄道を使用できなくなるダム本体工事の段階を明らかにされたい。
(八) 右記の各段階のダム本体工事を進めるに当たって、ダム水没予定地の住民はいつまで居住することができるのか、ダム水没予定地での居住が困難となるダム本体工事の段階を明らかにされたい。
2 付替国道等の関連工事について
(一) 八ッ場ダム関連工事として付替国道の工事が進められているが、この工事進捗率について平成二〇年六月三日の政府答弁書(内閣参質一六九第一三一号)では、「既に完成した区間及び工事に着手している区間の延長とその全体に対する割合は、平成十九年度末現在、二車線の付替国道が約五・七キロメートルで総延長約十・八キロメートルの約五十二パーセント」と回答しているが、このうち、既に完成した区間のみの付替国道の距離数を明らかにされたい。
(二) 付替国道の用地予定地において未買収のところがあると聞く。総延長約一〇・八キロメートルの付替国道のうち、未買収の距離数とその買収予定年度を明らかにされたい。
(三) 右記の政府答弁書では「二車線の付替国道は平成二十二年度末までに(中略)工事が完了すると見込んでいる」と回答しているが、この予定完成時期まであと二年少ししかなく、平成二十二年度末までに付替国道の完成は到底無理であって、工期を大幅に延長せざるを得ないと考えられる。この工期の大幅な遅れに対して、どのような対策をとるのか、その内容を明らかにされたい。
(四) 右記の政府答弁書では、付替国道について「平成二十二年度末までに二車線での工事を完了し、平成二十三年度当初の供用開始を予定している。四車線化の時期及びトンネル部分と橋梁部分の構造については、二車線での供用開始後、交通の状況に応じて検討することとしており」と回答している。仮にその検討の結果、四車線化を進めるとしても、ダム事業の完成予定時期までは六年強しかなく、その短い年数で付替国道をトンネル部分や橋梁部分も含めて四車線化にするのはまったく不可能である。もし四車線化の可能性があるとすれば、どのような方策によって可能となるのか、その方策の具体的な内容を明らかにされたい。
(五) 付替国道の工事費に対する下流都県の負担は、四車線化を前提としたものであるので、二車線であるならば、下流都県の負担額が軽減される。四車線化を前提として費用を負担させ、実際には二車線であるというのは明らかに契約違反である。この点について明解な説明をされたい。
(六) 八ッ場ダムに関しては、水源地域整備事業が大きな役目を担っており、その終了時期が重要である。八ッ場ダムに係る水源地域整備事業の実施終了時期を明らかにされたい。
(七) 最近三〇年間に完成した直轄ダムのそれぞれについてダム完成時期と水源地域整備事業の実施終了時期を明らかされたい。

  右質問する。