質問主意書

第171回国会(常会)

質問主意書


質問第一一号

原子力施設の耐震安全審査及び耐震安全性再検討と「活断層等に関する安全審査の手引き」に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年一月二十日

近藤 正道   


       参議院議長 江田 五月 殿



   原子力施設の耐震安全審査及び耐震安全性再検討と「活断層等に関する安全審査の手引き」に関する質問主意書

 我が国は、地球上で最も複雑で非常に活発なプレート運動が生じている地域にある。さらに日本列島には多数の活断層が存在する。活断層は過去数十万年間に何回も大きな地震を発生させ、活断層があれば将来もそこの地下で大地震が発生する可能性がある。このような国土に、現在五十五基の原子力発電所が稼働し、他に二つの再処理工場など様々な核施設が立地している。したがって原子力施設の安全対策の中でも、耐震安全性の確保は大変重要な問題となっており、二〇〇六年九月に「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」が改訂された(以下「新耐震指針」という。)。その後二〇〇八年六月には、その「新耐震指針」を実際の安全審査並びに既設原子力施設の耐震安全性再検討(以下「耐震バックチェック」という。)の際に使用するガイドラインの一部として、「活断層等に関する安全審査の手引き」(以下「手引き」という。)が改訂された。原子力施設の耐震安全性の確保という観点から、これらの指針や手引き改訂の趣旨と耐震バックチェックの関連について、以下質問する。

一 旧来の安全審査の過誤と「手引き」策定について

 「地質・地盤に関する安全審査の手引き検討委員会」の第一回会合(二〇〇八年一月十六日)の冒頭、主査の入倉孝次郎氏は、「特に昨年、能登半島沖地震や中越沖地震を経験して、私としては、国として安全審査の指針、地盤や地質、特に活断層の調査等に関する審査の手引きは必要だというふうに考えております。そういう過去の審査過程において必ずしも十分な審査ができなかった、それは反省する必要があると、明らかな見逃しがあったと私は考えています。」と発言し、この「手引き」改訂作業の大きな目的は、活断層を見逃すという失敗を繰り返さないことであるとしている。
1 志賀原発や柏崎刈羽原発の安全審査で活断層が見逃され、さらにその結果、能登半島沖地震や中越沖地震において確認された地震動が設計用基準地震動を上回るという、耐震安全審査の過誤を証明する現実がある。原子力安全・保安院並びに原子力安全委員会は、これら原子力発電所の安全審査においては、入倉氏の指摘するように、活断層の「明らかな見逃し」があったと考えるか。
2 能登半島沖地震や中越沖地震では、「基準地震動は上回ったものの、実際には設計余力があり、安全は確保された」として、活断層見落としの問題は重大ではないかのような原子力安全・保安院の説明がある。原子力施設の耐震安全審査では、「基準地震動」を上回る地震動が施設周辺で発生することを前提とする考え方をとっているのか。

二 変動地形学的手法への認識について

 柏崎刈羽原発二、五号機の安全審査(一九八三年)、三、四号機の安全審査(一九八八年)、六、七号機の安全審査(一九九一年)では、F-B断層について繰り返し検討されてきたが活断層の存在は見逃されてきた。東京電力株式会社は、敷地前面海域にF-B断層として約七キロメートル(最大約八キロメートル)の断層を確認していたが、第四紀以降の活動が認められないため活断層ではないとし、行政庁の審査、原子力安全委員会の審査でもそれを妥当と評価した。一方、中越沖地震の発生を受けて二〇〇七年七月、それぞれの安全審査当時の資料の詳細を検討した結果、中田高広島工業大学教授・鈴木康弘名古屋大学教授・渡辺満久東洋大学教授の研究グループは変動地形学的見地から、F-B断層の位置に約三十六キロメートル(幅を持った評価としては「三十五~五十キロメートル以上」と提案)の活断層が存在することを指摘している。
 二〇〇八年十二月十一日に決定された原子力安全委員会の「「東京電力株式会社柏崎刈羽原子力発電所敷地・敷地周辺の地質・地質構造及び基準地震動の評価に係る報告書(中間報告)」に対する見解」(以下「見解」という。)では、F-B断層の長さを三十六キロメートルとする評価を妥当としている。
1 F-B断層を三十六キロメートルとする点は、中田教授らと原子力安全委員会の評価は同様である。中田教授らの変動地形学者は過去の安全審査資料から、通常の変動地形学的手法によってF-B断層を三十六キロメートルと評価している。これは明らかに過去の安全審査でF-B断層が活断層と評価されるべきところ、「見逃し」があったことを示しているのではないか。
2 原子力安全委員会「見解」では、東京電力株式会社及び原子力安全・保安院は、敷地周辺を中心とした海域で新たな調査を実施し、その調査結果と既存データの再解析や新たに実施された他機関の大深度音波探査の結果を総合して検討が行われたことを評価している。新たな調査結果に基づかなければF-B断層を三十六キロメートルと評価することはできないのか。その理由は何か。

三 耐震設計上考慮する活断層について

 「新耐震指針」では、耐震設計上考慮する活断層として、「後期更新世以降の活動が否定できないものとする。なお、その認定に際しては最終間氷期の地層又は地形面に断層による変位・変形が認められるか否かによることができる。」としている。
1 「なお」以降の部分については、「最終間氷期の地層又は地形面に断層による変位・変形が認められるか否か」だけが、耐震設計上考慮する活断層か否かを判断する材料ではなく、これは単なる例示にすぎないとの理解でよいか。原子力安全委員会の認識を答えられたい。
2 「なお」以降の部分が単なる例示であるとすれば、「変位・変形が認められない場合」においても安易に活断層である可能性を否定してはならない、と解するべきではないか。

四 「手引き」の考え方について

 渡辺教授らは、日本活断層学会「活断層研究」(二十九号、二〇〇八年十一月)に六ヶ所再処理工場周辺の活断層について論文を発表した。その中で教授らは、今から約十二・五万年前に形成された海成段丘面である「S面(下末吉面相当面、MIS5eの海成段丘面)」が六ヶ所再処理工場周辺に広く分布し、このS面が異常な傾斜で海側に傾き下がっていることを現地調査等から確認した。このような異常な傾斜は、六ヶ所再処理工場の東側に、幅一~二キロメートルで南北約十五キロメートルにわたってつづいており、それを撓曲と認定している。そして渡辺教授らは、この撓曲構造の地下に逆断層が存在していると結論づけている。
1 「手引き」では、広域的な変位・変形とは、「沖積面や段丘面、斜面等の地形面の変形(撓曲、傾動、波状変形)、段丘面から復元される過去の河床縦断面の変形、海成段丘面・旧汀線の局所的な高度変化及び堆積物に現れている撓曲構造等の数十メートル~数十キロメートルにわたる変位・変形をいう。」と規定しており、渡辺教授らが指摘しているS面の傾斜は、この「広域的な変位・変形」に該当しているのではないか。
2 このような場合「手引き」は、その原因が活断層によらない変形だと断定できる場合を除いて、これらの原因となる耐震設計上考慮する活断層を適切に想定することを求めている。六ヶ所再処理工場の耐震バックチェックにおいて、この渡辺教授らが指摘した撓曲構造についての具体的検討が行われたか。行われなかったとしたら、その理由は何か。またこの撓曲構造が活断層によらない変形だと断定するならば、その根拠を示されたい。
3 「手引き」が求めている変動地形学的検討では、広域的な隆起等の変動についての要因を活断層によらないものと判断する際には、その理由を明確にする必要がある。しかし六ヶ所再処理工場の耐震バックチェック報告書において、日本原燃株式会社は、S面は傾いておらず、より新しい段丘面があるために見かけ上そのように見えるだけ、としているがその根拠が全く示されておらず、「手引き」が求めている明確な理由が示されていないのではないか。渡辺教授らの指摘する撓曲構造との関連及び論文等に述べられている批判内容を詳細に検討し、変動地形学的に正しいかどうかの判断を政府は十分に行っているか。
4 六ヶ所村沖合の海域には大陸棚外縁断層の存在が知られ、渡辺教授らは陸上部と海域部の地形の連続性及び海成段丘の形成過程から、海域部においても変動地形が推定され、陸上部で確認された撓曲崖を形成した断層が大陸棚外縁断層と連続しており、大陸棚外縁断層は活断層である可能性があると指摘している。また、米倉伸之東京大学教授(当時)も一九九七年に青森県の「原子力施設周辺の地質・地盤に係る安全性チェック検討会」においてこの活断層の存在を指摘していた。六ヶ所再処理工場の耐震バックチェックにおいて、大陸棚外縁断層を合理的に説明する適切な地形発達過程が検討されたか。また「手引き」を正しく適用すれば、追加の検討が必要と考えるが、政府はそれを行う考えがあるか。
5 日本原燃株式会社は大陸棚外縁断層について、七十~八十万年前以降の活動がないことを海上音波探査によって確認したとしている。しかし「手引き」においては、弾性波探査によって活断層がみつからない場合でも、耐震設計上考慮する活断層がないことをただちに結論づけるべきではないとされている。これは海上音波探査による活断層調査については、その精度、手法に限界があるため、海底の状況によって見逃す可能性があることも考慮しているためではないか。政府の認識を示されたい。
6 海上音波探査による活断層調査では、活断層が確認できない場合もあるのではないか。

五 青森県に建設中の大間原子力発電所の安全審査について

 手引き検討委員会の副主査である中田教授は、同委員会の第八回会合(二〇〇八年六月十一日)及び第十回会合(二〇〇八年十月三十日)で、大間原子力発電所の原子炉設置許可にかかわる安全審査において、耐震設計上考慮する活断層の認定に誤りがあった可能性が高いことを指摘している。
1 下北半島北西地域に広がる海成段丘の隆起現象に、北側が高く南に行くほど低くなるという異常な傾斜が見られ、より高位の段丘面の方が傾斜が大きいという変動地形が認められるのであるから、「手引き」に基づきこれら海成段丘の隆起に対応する活断層を下北半島の北側海域に想定するべきではないか。これら海成段丘の広域的な隆起等の変動についての要因を活断層によらないものと判断できるならば、その理由は何か。
2 下北半島西岸一帯に、離水した波蝕棚(ベンチ)や波蝕窪(ノッチ)という地震性隆起が起きたことを示す地形が数多く見られるが、「手引き」に基づきこの地震性隆起地形の分布に対応する活断層を下北半島の西側海域に想定するべきではないか。これら隆起等の変動地形についての要因を活断層によらないものと判断できるならば、その理由は何か。
3 「手引き」検討会の第十回会合において杉山雄一副主査から「保安院の審査の時にも複数の人がもう一回、音波探査ももっと全面的にきちんと取り直してほしいという意見もあったとは思うんです。」という旨の発言があった。大間原子力発電所の安全審査の過程で十分な海域音波探査結果の資料が事業者から提出されないまま審査が行われたのではないか。
4 「電源開発株式会社大間原子力発電所の原子炉の設置に係る詳細設計段階以降における報告について」(原子力安全委員会、二〇〇八年四月十四日)では、「新潟県中越沖地震の経験に伴う知見の反映に関しては、審査過程において明らかになっている知見については審査結果に適切に斟酌されていると考えるが、今後、新たに知見が得られた場合は、大間原子力発電所についても必要に応じ安全余裕の再確認等を行い、規制行政庁がその結果を当委員会に報告すること。」とする条件が付けられている。中田教授らの指摘も踏まえれば、安全審査の不十分な部分について追加の審議を行うべきではないか。追加の審議が必要でないとするならば、その理由は何か。

  右質問する。