質問主意書

第170回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第七七号

内閣参質一七〇第七七号
  平成二十年十一月十一日
内閣総理大臣 麻生 太郎   


       参議院議長 江田 五月 殿

参議院議員近藤正道君提出日本政府によるアメリカなど先進国向け原発輸出の支援に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員近藤正道君提出日本政府によるアメリカなど先進国向け原発輸出の支援に関する質問に対する答弁書

一について

 株式会社日本政策金融公庫国際協力銀行(以下「JBIC」という。)及びその前身機関において、先進国向けの原子力関連の融資を行った実績はないものと承知している。
 また、独立行政法人日本貿易保険(以下「NEXI」という。)及びその前身機関である通商産業省貿易局において、先進国向けの原子力関連の保険引受を行った実績はあるものと承知しているが、その詳細については、これを公にすることにより契約相手方の正当な利益等を害するおそれがあるとともに、これを明らかにするための調査に膨大な作業を要することから、お示しすることは困難である。

二の1及び2について

 御指摘の株式会社日本政策金融公庫法施行令の一部を改正する政令(平成二十年政令第二百七十一号)において、株式会社日本政策金融公庫法(平成十九年法律第五十七号)別表第三第三号に掲げる業務(以下「貸付等」という。)のうち先進国における業務の特例として原子力発電に関する事業を規定するに当たっては、一般に先進国は、安全規制を適切に行える体制等を整備し、安全確保等のために整備されている国際約束等を受け入れ、遵守していること等を考慮し、こうした市場において、高い技術水準を有する我が国の原子力産業の展開を図ることが、その国際競争力の維持又は向上に資すると判断した。
 また、今後、個々の案件を審査する際には、御指摘の地震を含む自然災害等により投資資金回収が不能となるリスクも含め、案件に応じて様々な角度からリスクが評価されることになる。

二の3について

 お尋ねの「マッチング金融」の必要性については、具体的な案件を十分に検討した上で個別に判断されることになる。

二の4について

 これまでのところ、JBICによる先進国における原子力発電に関する事業への貸付等の実績はなく、現時点においても案件が具体的に検討されている状況にはないものと承知している。

三の1について

 御指摘の「地球環境保険」については、平成二十一年一月を目途に、NEXIにおいて運用を開始する予定であるが、同保険は、地球温暖化対策の観点から温室効果ガスの排出低減に資する設備、機器等の輸出等を支援するためのものであることから、先進国向けの原子力発電関連の設備、機器の輸出についても対象とする予定である。

三の2について

 お尋ねの他の国々における貿易保険制度の状況について、詳細は承知していないが、例えばフランスの貿易保険機関による支援の実績があるものと承知している。

三の3について

 「地球環境保険」の付保対象となる案件であれば、いわゆるカントリーリスクについて百パーセント付保することを可能とすることとしている。

三の4について

 例えば、輸出者が貨物を輸出することができなくなったことにより受ける損失をてん補する場合には、貿易保険法(昭和二十五年法律第六十七号)第二十七条第二項第一号から第六号までに掲げる事由に該当するかどうかについて、NEXIが個別具体の事例に即して判断することになる。

三の5について

 貿易保険の保険料は、仕向国の信用力、保険期間、付保率等に基づき算出されるものであり、原子力発電関連の設備、機器等に係る案件についても同様である。

三の6について

 御指摘の「「地球環境保険」ではカバーしきれない場合」がいかなる場合を指すか必ずしも明らかではないが、あらかじめ締結した契約における保険金額を超えて、NEXIが被保険者に対し保険金を支払うことはない。

三の7について

 原子力がクリーン開発メカニズムの対象となるかどうかにかかわらず、一般に、原子力発電関連の設備、機器の輸出は貿易保険の付保対象となる。

四の1について

 世界のエネルギー需給の安定、地球温暖化の防止及び我が国原子力産業の国際競争力の維持又は向上の観点から、海外の原子力市場が健全に発展するとともに、我が国原子力産業の国際展開が適切に進むことが重要であると考えているからである。

四の2について

 原子力発電所の建設計画の策定から送電開始までの期間については、各国の政策や建設案件の状況等によるため、お尋ねにお答えすることは困難である。

四の3について

 世界のエネルギー需給の安定、地球温暖化の防止及び経済成長を同時達成するためには、原子力発電のみならず、新エネルギーや省エネルギーを含め、あらゆる技術を利用していくことが重要である。このため、我が国としては、新エネルギーや省エネルギーなどの技術の輸出についても積極的に取り組んでいる。

五の1について

 政府としては、御指摘の「3S」が重要であると認識し、原子力政策大綱(平成十七年十月十一日原子力委員会決定)等においてもその旨を明記している。これを確保するために必要な細目については、現在、国際的にも様々な場で議論がなされているところであり、我が国としては、このような議論も踏まえた上で、原子力資機材の調達等に関する協力の実施の是非につき総合的に判断することとしている。

五の2について

 我が国から原子炉等の原子力資機材等を輸出するには、他の主要な原子力先進国と同様、我が国と輸出先国との間で原子力の平和的利用に関する二国間協定の締結が必要であると考えている。

五の3について

 御指摘の日露の事業者間で行われている濃縮ウランの取引は、専ら我が国事業者による濃縮ウランの購入に係るものであり、我が国からの原子力資機材等の輸出を伴うものではないと承知している。

五の4について

 お尋ねの核兵器国への原子力資機材等の輸出については、核兵器の不拡散に関する条約(昭和五十一年条約第六号)上の核兵器国が国際原子力機関(以下「IAEA」という。)の保障措置を受諾する義務を負っていないことを踏まえ、保障措置が適用されない場合であっても我が国から移転された原子力資機材等の平和目的使用の遵守が適切に確保されるための措置を、我が国と当該核兵器国との間の国際約束において規定している。
 また、原子炉等の原子力資機材の調達等に関する協力の実施に当たっては、核不拡散、原子力安全及び核セキュリティの確保が不可欠との観点から、当該協力を行う相手国に対してIAEA追加議定書等の関係条約の締結を求めることとしている。

六の1から4までについて

 御指摘の原子力損害の補完的補償に関する条約を含め、一般に、原子力損害賠償に関する国際条約は、原子力損害を被った被害者に対する賠償を保障するとともに、原子力の平和的利用の発展に資する等の観点から、締結が検討されているものと承知している。我が国としては、これらの条約を締結するかどうかは今後の検討課題であると考えており、現時点でこれらの条約についてのお尋ねにお答えすることは困難である。
 なお、お尋ねの「保険制度と損害賠償制度の契約当事者」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、貿易保険は、自然災害等当事者の責めに帰することができない事由により輸出代金を回収できなくなった輸出者等が受けた損失をてん補するものであり、また、原子力損害賠償に関する国際条約は、一般に、原子力損害に対する原子力事業者の賠償責任に関する制度等を規定するものであると承知している。
 いずれにせよ、政府としては、世界のエネルギー需給の安定、地球温暖化の防止及び我が国原子力産業の国際競争力の維持又は向上の観点から、海外の原子力市場が健全に発展するとともに、我が国原子力産業の国際展開が適切に進むことが重要であると考えている。

七の1について

 原子力資機材の輸出に公的信用を付与する場合における安全確認(安全確保等に関する配慮の確認をいう。以下同じ。)については、JBIC又はNEXIからの依頼により経済産業省が行っている。安全確認の結果は、JBICが作成する環境チェックレポート又はNEXIが作成する環境レビュー結果には含まれていないものと承知している。

七の2について

 JBICにおいては、プロジェクト実施主体により、プロジェクトの安全確保、事故時の対応、放射性廃棄物の管理等の情報が適切に住民に対して公開されていない場合には、貸付等を行うことのないよう、今後指針を作成することとしている。また、NEXIにおいては、保険種ごとの制約を踏まえつつ、輸出者等を通じてプロジェクト実施主体に対して情報公開を促すなど、可能な範囲で対応することとしている。なお、JBIC及びNEXIは、原子力発電に関する公的信用の付与に際しては、短期貿易保険における少額案件を除き、経済産業省において安全確認が行われることをその条件の一つとしている。

七の3及び4について

 原子力資機材の輸出に公的信用を付与する場合における安全確認の結果に関する文書は、経済産業省からJBIC又はNEXIに対して発出した文書であるが、当該文書の公開については、JBIC又はNEXIにおいて、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成十三年法律第百四十号)にのっとり、開示されるものと承知している。

七の5について

 お尋ねの調査票は、JBIC又はNEXIが公的信用を付与するに当たり、その依頼に基づいて経済産業省が行う安全確認において用いられる情報の一部であるので、経済産業省においては公表していない。他方、同調査票が安全確認の結果とともにJBIC又はNEXIに対して提供された場合には、JBIC又はNEXIに対して提供された同調査票の公開については、JBIC又はNEXIにおいて、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律にのっとり、開示されるものと承知している。

七の6について

 原子力資機材の製造者等から経済産業省に提供された情報は、JBIC又はNEXIが公的信用を付与するに当たり、その依頼に基づいて経済産業省が行う安全確認において用いられる情報の一部であるので、経済産業省においては公表していない。また、当該情報をJBIC又はNEXIが保有する場合は、JBIC又はNEXIにおいて、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律にのっとり、開示されるものと承知している。

七の7について

 原子力の安全に関する条約(平成八年条約第十一号)にも示されているとおり、原子力発電所の安全確保は当該発電所が立地する国の責任である。原子力資機材の輸出に公的信用を付与する場合における安全確認は、こうした前提の下で、JBIC又はNEXIからの依頼に基づき経済産業省が行っているものであり、御指摘の現地調査等は必要ないと考えている。