質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一五〇号

戦時下における軍人軍属の兵力動員等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十二月二十二日

今野 東   


       参議院議長 江田 五月 殿



   戦時下における軍人軍属の兵力動員等に関する質問主意書

 先に田母神俊雄・前航空幕僚長が戦争の過去について政府見解と異なる認識を公募懸賞論文で主張し、更迭された。また今国会の参議院外交防衛委員会で田母神俊雄・前航空幕僚長が参考人として招致され、委員からシビリアン・コントロールを逸脱した行為に対し厳しい批判を浴びた。
 戦後六十三年を経てなお、自衛隊制服組のトップがゆがんだ歴史認識から更迭されるという事態は大変危ういが、その根底には、政府が先の戦争に関する事実の調査と共通の認識の構築を怠ってきたという問題が存在している。他方、フランスはマテオッリ委員会を設置し、ドイツも戦後和解への積極的な取組を重ねるなど、国が「被害と加害の事実調査」を責任と権限を持って行っている。
 わが国では戦争の「被害と加害の事実調査」は民間レベルで行われてきたが、政府は所持する情報の提供に消極的なため、調査は困難を極めている。政府は、政府の責任において、アジア太平洋戦争における加害と被害の実態を解明すべきであると考える。そこで、政府が現在までに把握している兵力動員の数値等について、以下質問する。

一 陸軍について

 戦後まもなく参謀本部課員が作成した「支那事変大東亜戦争間動員慨史」(『十五年戦争極秘資料集・第九集』収録)を基に研究者の大江志乃夫氏は、敗戦時の陸軍兵力の動員総数は、五百四十七万二千人としている。また、一九六三年に厚生省援護局が発行した『続続・引揚援護の記録』(三一一ページ)では、「総兵力は約五百六十九万」としている。
1 政府は、一九三一年のいわゆる満州事変から一九四五年の敗戦までの十五年間に、陸軍が動員した兵力の数は累計で何名になるのか明らかにされたい。
2 その内訳としての日本本土出身者、朝鮮半島出身者、台湾出身者の数は各々何名であるか、その人数を軍人、軍属の別に明らかにされたい。
3 更に、その内の死亡者数と遺骨が遺族に返還された数、残されている遺骸・遺骨の数を出身国別に明らかにされたい。
4 死亡者の内、靖国神社に合祀されている人数を出身国別に承知しているか。

二 海軍について

 防衛庁防衛研究所戦史室が著わした「戦史叢書・海軍軍戦備(二)」(一九七五年発行)によれば、一九四五年八月十五日現在の海軍の軍人数は、百六十九万三千二百二十三人であり、一九四一年から一九四五年までの海軍軍人死亡数は、三十一万九千七十七人となっている。
1 政府は、一九三一年のいわゆる満州事変から一九四五年の敗戦までの十五年間に、海軍が動員した兵力の数は累計で何名になるのか明らかにされたい。
2 その内訳としての日本本土出身者、朝鮮半島出身者、台湾出身者の数は各々何名であるか、その人数を軍人、軍属の別に明らかにされたい。
3 更に、その内の死亡者数と遺骨が遺族に返還された数、残されている遺骸、遺骨の数を出身国別に明らかにされたい。
4 死亡者の内、靖国神社に合祀されている人数を出身国別に承知しているか。

三 政府は、旧軍から引き継いだ人事記録などの名簿類で確認できる数として、朝鮮半島出身旧軍人軍属を二十四万三千九百九十二人、台湾出身旧軍人軍属を二十万七千百八十三人と発表しているようであるが、それは事実か。また、その数値を政府が最初に発表した時期はいつであるか明らかにされたい。

四 政府が韓国政府に軍人軍属の名簿を提供した一九九三年以降にも朝鮮人軍人軍属の名簿が、民間の調査や韓国政府によって発見されているが、政府はどのような名簿が発見されているか把握しているか。また、前記三の政府発表の数に、それらの数を加算して再度発表する意思はあるか。

五 前記一及び二の質問の動員総数の内、政府が旧軍から引き継いだ人事記録や各都道府県が引き継いだ兵籍簿、戦時名簿などで個人が特定できている数は何名か明らかにされたい。

六 日本が植民地としていた台湾、朝鮮半島においても住民に対し軍事動員がなされた。
 公安調査庁が発表した『在日本朝鮮人の概況』によると朝鮮人の軍事動員総数は、陸軍が二十五万七千四百四人、海軍が十万六千七百八十二人、合計三十六万四千百八十六人である。
 他方、外務省外交史料館にある表題「朝鮮人戦没者遺骨問題に関する件」(一九五六年六月六日の厚生省と外務省の協議記録)の文書では、「戦時における応召者数は、陸海軍を合わせ三十七万七千名である」としている。この数値のどちらが正しいのか明らかにされたい。
 また、一九九三年の第一二六回国会の衆議院厚生委員会の質疑において、加藤繁秋議員の質問に対し、当時の厚生大臣が「(公安調査庁の三十六万四千百八十六人との発表について)今初めて聞く話でございますが、公安調査庁の方に聞いてみたいと思っております」と答弁している。その後、厚生労働省は公安調査庁にどのような問い合わせを行ったのか、その結果について明らかにされたい。

七 もしも、中国への侵略戦争を開始してから敗戦までの十五年間の軍人軍属の動員数、死亡者数などを、政府が把握していないならば誠に遺憾なことである。もしもそのようなことならば、これまでに把握してこなかった理由と、今後、それらを調査し把握する意思があるか否かについて見解を明らかにされたい。

  右質問する。