質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一四一号

東京電力柏崎刈羽原発の敷地及び敷地周辺の地殻構造運動に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十二月十八日

近藤 正道   


       参議院議長 江田 五月 殿



   東京電力柏崎刈羽原発の敷地及び敷地周辺の地殻構造運動に関する質問主意書

 原子力安全・保安院(以下「保安院」という。)は、二〇〇八年一一月六日開催の第二一回「総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会地震・津波、地質・地盤合同ワーキンググループ」(以下「合同WG」という。)に、敷地周辺の地質・地質構造及び基準地震動の評価に係る報告書案(以下「中間報告案」という。)を提出した。この中には「Ⅲ.中越沖地震による地震動の要因分析、敷地周辺の地質・地質構造及び基準地震動についての保安院の見解 2.敷地周辺の地質・地質構造 ③真殿坂断層については、阿多鳥浜テフラが真殿坂向斜を横断してほぼ水平に分布し、西山層以下の地層に見られる褶曲構造に対応する地形は認められないことなどから、後期更新世以降の活動は認められないと判断する。」、「Ⅵ.敷地周辺の地質・地質構造についての保安院の評価 2.活断層等の評価 3)敷地及び敷地近傍の地質・地質構造 (1)敷地及び敷地北側において安田層に認められたテフラの同定について (2)北-1測線付近の地形・地盤状況について (3)建屋水準測量による上下変動量について (4)長嶺背斜東側に見られる逆断層及び低角なすべり面の活動性について」等の記述があるが、これらは、これまでの東電見解に沿うものであると考える。
 東電見解と東電見解を基本にした保安院見解は、現地の実態を反映したものではないとの認識から以下質問する。

一 原子炉建屋・タービン建屋が揺れ動いているが、敷地地盤は十分な支持性能があると評価できるのかに関して

 基準地震動は地震の揺れの想定に関わり、地盤の隆起・沈降は立地地盤の支持性能との関係で重要だと考える。現在の合同WG等の議論は基準地震動の議論が中心で、立地地盤の支持性能に関わる、地盤の隆起・沈降は軽視されているように見受けられる。
 東電は、二〇〇七年一〇月一二日に開催された第一回合同WGに、新潟県中越沖地震(以下「地震」という。)後に実施した、二〇〇七年七月の建屋標高の測量記録を仮の基準点と比較して提出した。
 その後、二〇〇八年三月二七日に開催された第五回合同WGに同年二月の建屋標高の測量記録を二〇〇六年五月の標高記録と比較して提出し、二〇〇八年九月二四日に開催された第一八回合同WGに同年八月の建屋標高の測量記録を二〇〇六年五月の標高記録と比較して提出した。
 これらの報告から、地震前の二〇〇六年五月と地震後では、原子炉建屋・タービン建屋の四隅が六〇~一二〇ミリメートル不同隆起したこと、地震後の二〇〇八年の二月と八月の半年間で隆起の最大は四・五ミリメートル、沈降の最大が五・〇ミリメートルであること、地震後は観測毎に建屋の最大傾斜が異なっていることが明らかとなる。
 しかし、東電は建屋の傾きが四〇〇〇分の一程度であることから建物や設備機器の健全性には問題ないとしている。
 第三紀層の西山層の岩盤に直接立地された原子炉建屋やタービン建屋が地震で不同隆起したことや、地震後に隆起・沈降を繰り返していること、半年毎の測定で毎回建屋の最大傾斜が変わることは、十分な支持性能を持つ地盤でないことを示していると考える。
 よって、以下の事項を問う。
1 設置許可時の判断について
(一) 柏崎刈羽原発の原子炉建屋やタービン建屋の不同隆起・沈降は想定していたのか。想定していたならば、隆起・沈降量の想定値を示されたい。
(二) 地震時の原子炉設置地盤の隆起・沈降はどのように評価・判断していたのか。
(三) 地震後(余効変動)の隆起・沈降はどのように評価・判断していたのか。
(四) 地震時や地震後の支持地盤の隆起・沈降の評価・判断の根拠となる指針等は何か。
2 地震を踏まえた検討について
(一) 地盤の隆起・沈降をどのように評価しようとしているのか。
(二) 地震時の不同隆起の原因は何か、地震後の隆起・沈降の原因は何か。
(三) 地震時の不同隆起や地震後の隆起・沈降の継続と地盤の支持性能の評価・判断は何に基づいて行うのか。評価・判断の根拠となる指針は何か。
(四) 地震時に不同隆起したり、地震後も隆起・沈降が続く地盤は、十分な支持性能がある地盤と評価できるのか。
3 原子炉建屋やタービン建屋が揺れ動いていることが柏崎市議会で議論された際に、保安院担当者は、原子炉建屋が揺れ動くことは全国どこででも起きていることで柏崎刈羽原発だけのことではない旨の説明をしたとの新聞報道について
(一) 全国の原発のどこで上下変動の測定をしているのか。
(二) 全国の原発の、原子炉やタービン建屋の上下変動はそれぞれいくらか。
(三) 柏崎刈羽原発で地震時や地震後に観測されている上下変動は他の原発では見られない異常な事実と考えるが、それを全国どこででも起きているとする説明は不適切ではないのか。

二 高位段丘と「阿多鳥浜テフラ」、地盤隆起に関して

1 敷地内地質断面図について
 東電は九月二四日の第一八回合同WGに敷地及び敷地近傍の地質・地質構造に関する補足説明を提出し説明した。この中の一八頁に②~②断面図とその位置を示す平面図が示されている。
 東電は設置許可申請書に新第三紀層上限面等高線図、安田層上限面等高線図、番神砂層上限面等高線図を水系とともに付している。これらの図に②~②の測線を記入することで西山層や安田層、番神砂層の断面図の標高を読み取ることができる。
 しかし、設置許可申請書の各層上限面の等高線図が九月二四日の第一八回合同WGに示した東電の断面図と著しく異なることから以下の質問をする。
(一) 政府は、設置許可申請書には、谷や尾根が図示されているが、九月二四日提出の断面図には谷や尾根がないことを承知しているか。
(二) 政府は設置許可申請書の新第三紀層上限面等高線図と九月二四日の第一八回合同WGに示した東電の断面図の標高が相違する事実を承知しているか。
(三) 東電に断面図を訂正させるか。訂正不要とするならその理由は何か。
2 堆積環境、試料分析について
 東電は敷地及び敷地近傍における「阿多鳥浜テフラ」の存在で構造運動はないと主張し、政府も中間報告案で追認しているようであるが、「阿多鳥浜テフラ」かどうか疑わしい。
 東電は、「阿多鳥浜テフラ」の成分分析や火山ガラスの屈折率の調査は行っているが、そのテフラの堆積環境の調査は行っていない。
 東電のボーリング調査や調査に基づく主張は、「阿多鳥浜テフラ」が水平だとの予断に基づき実施されたものであり、堆積環境を示す堆積時の地形(新第三紀層上限面等高線)と矛盾する断面図を示したり、堆積環境を把握する花粉分析や珪藻分析を考えないものである。
 花粉分析や珪藻分析でテフラの堆積環境を把握する必要があると考えるゆえ、以下の質問をする。
(一) 政府は、堆積環境を把握するための調査を東電に指示するか。
(二) 調査が不要とするならその理由は何か。
3 構造運動について
 東電は、柏崎刈羽地域の段丘面標高に関して、①海成の高位段丘が米山海岸で標高七〇メートル、椎谷海岸で標高六〇メートルである、②北-2測線での中位段丘形成時の汀線高度は海岸部で五〇メートル、平野部分で三五メートル、平野東側の丘陵部で四〇メートルである、③「阿多鳥浜火山灰」は北-2測線でゼロメートル、敷地内でマイナス一〇メートルである、④「阿多鳥浜火山灰」は高位段丘形成期の広域火山灰であると報告をしている。
 これらの主張は「中位段丘形成後の一二万年間の隆起量が五〇メートルであり、その二倍相当の時間が経過した高位段丘形成からの二四万年間の隆起量が六〇~七〇メートルである」というもので、第四紀後期の地殻構造運動は、ほぼ一定であるとの通説と異なる主張である。
 高位段丘と同時期の火山灰がゼロメートルやマイナス一〇メートルに存在するとの主張も、水成の地層は温暖な高海水準期に水中で堆積し、冷涼な低海水準期に削剥されるとする堆積学の常識では理解できないことである。よって以下の質問をする。
(一) 二四~一二万年前までの一二万年間の隆起量が一〇~二〇メートル、一二万年前から現在までの一二万年間の隆起量が五〇メートル程度であると判断しているのか。
(二) 通説では、第四紀後期の地殻構造運動はほぼ一定である、とされていると考えるが、隆起量の差はどのように評価したのか。
(三) 評価不要ならその理由は何か。
(四) 高位段丘形成同時期とされる火山灰が六〇~七〇メートルの標高差で存在することは合理的であり、矛盾なく解釈できるとするか。解釈できるとする場合、どのような判断をしたのか。

三 刈羽村大字西元寺北の段丘面(以下「中山段丘」という。)に関して

 東電は、新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会地震、地質・地盤に関する小委員会(第二回、第九回)において、敷地周辺の段丘面を図示している。この図から、敷地周辺の柏崎刈羽の平野の西側丘陵の段丘面は敷地北東二キロメートルの中山段丘と敷地南四キロメートルの柏崎市長崎に存在することが読み取れる。これらの段丘はMIS5eのMⅠ段丘であるとしている。東電はMIS5eの汀線の現在の高度を等高線図で示している。この図は海岸線で五〇メートル、東が低いとされている。
 中山段丘は想定される真殿坂断層の、直上から東側に位置している。中山段丘の段丘面は標高三〇メートル程度で西傾斜である。
 中山段丘の西側には地震で生じた崖崩の露頭が存在し、番神砂層下部水成層が確認できる。この標高は四〇~五〇メートルである。以上の事実を踏まえて、以下の事項を問う。
1 中山段丘面の西傾斜の事実は把握しているか。
2 中山段丘の西傾斜は段丘形成後に真殿坂断層が活動したことを示唆すると考えるがどうか。
3 中山段丘面と地震の崖崩で生じた露頭は二〇〇~三〇〇メートルしか離れておらず、その間に真殿坂断層が想定されている。中山段丘も、番神砂層下部水成層もMIS5eに形成・堆積されたとされている。同時代の中山段丘面と崖崩露頭の番神砂層下部水成層の標高が一〇~二〇メートルも異なる事実は、番神砂層下部水成層と中山段丘が形成された後に真殿坂断層が活動したことを示唆すると考えるがどうか。

四 真殿坂断層の後期更新世以降の活動に関して

 一一月六日の中間報告案では、「真殿坂断層の後期更新世以降の活動は認められないと判断する」とされている。
 こうした判断は、真殿坂断層周辺で確認できる諸事実を正確に把握し評価しているとは考えられない。真殿坂断層沿いの活動を示唆する事実としては、①北-1測線の地震前後の測量結果、②北-1測線の沖積層基底標高、③勝山地区集会場一帯の地震後の農道冠水、④地震による寺尾排水路の損傷、⑤西元寺北の中山段丘面の西傾斜、⑥真殿坂断層西側露頭で確認できる番神砂層下部水成層の標高、⑦西元寺北の中山段丘面の標高と真殿坂断層西側露頭で確認できる番神砂層下部水成層の標高の差等がある。
 真殿坂断層の後期更新世以降の活動を評価・判断するには、これらすべての事実を総合判断すべきであるが、すべての事項を評価しているとは思えない。
 活動を示唆する事実の多くは、東電の当初の調査報告にないものを地元住民が指摘したものである。しかし、東電は指摘事項を調査・評価しなかったり、指摘された事実に対して、活動を示さない可能性を指摘するのみでしかないが、こうした判断は非科学的であり容認できない。よって、以下の事項を問う。
1 住民が指摘した③から⑦の各項の調査をしたか。調査結果はどうか。
2 調査していない項目の調査は今後するか。
3 調査不要とするならその理由は何か。

五 刈羽平野の沖積層基底(第三紀層上限)の調査・評価に関して

 柏崎刈羽原発の敷地を含む西山丘陵や刈羽平野、中央丘陵の地殻構造を巡って、活発な地殻構造運動が継続しているとの地元住民の主張に対して、東電は「後期更新世以降の地殻構造運動はない」と主張している。この論争は地震前の設置許可時からのものである。
 地元住民の主張は、後期更新世以降も活発な地殻構造運動があり、その証拠は刈羽平野の中位段丘とされる丘陵の平坦面標高が場所により大きく異なること、弥生期の住居遺跡が平野地下に埋没していること、東電以外の調査で明らかになった沖積層や洪積層の基底標高が東電調査による沿岸や沖合より深いこと、等の具体的指摘が根拠となっている。
 一方、東電は設置許可申請時も地震以降も、「柏崎刈羽では後期更新世以降の地殻構造運動はない」と一貫して主張しているが、構造運動はないとする根拠として示された調査結果等は、他機関の調査結果と著しく相違するものである。よって、以下の事項を問う。
1 東電の北-1測線について
 東電は北-1測線でも、真殿坂断層沿で沖積層の基底はマイナス三〇メートルであるが、その下流では一〇メートル高いマイナス二〇メートルであると主張している(第一四回合同WG東電提出資料二九頁)。そして、この矛盾を問うた住民に対して、反射法地震探査は必ずしも沖積層の基底を示さないとの理由を回答としている。こうした主張をするなら、それぞれの地点でボーリングを実施し沖積層や洪積層、第三紀層を直接確認する必要があると考える。
(一) 政府は、北-1測線の沖積層基底標高をボーリングを実施するなどして(東電が実施するか政府が直接実施するかは別として)確認するのか。
(二) 調査確認が不要と判断するならその理由は何か。
2 東電の北-2測線について
 東電の北-2測線の平野部分は、二〇〇〇年の新潟県地質図や二〇〇二年の新潟県地盤図におけるボーリング調査結果から、沖積平野の基底標高(第三紀層上限標高)を海抜マイナス四〇メートル程度としているが、東電の北-2測線では海抜マイナス一〇メートルとしており(第一四回合同WG東電提出資料一六頁)著しい差異がある。こうした東電の主張に対して、政府は何も疑義を表明していないようである。
(一) 政府は、北-2測線の刈羽平野部の沖積層基底標高の調査確認をするか。
(二) 調査不要と判断するならその理由は何か。
3 平野の沖積層・洪積層基底(基盤上限面)、地形標高について
 東電は平野内の多数の測線で表面波探査を実施して地下構造を調査しているようだが、新しい時代に堆積した沖積層を正確に把握するための反射法地震探査は北-1測線の一八〇〇メートル以外に見当たらない。柏崎刈羽地域の地殻構造運動を把握するには沖積層の調査(沖積層基底標高や沖積層表面標高=平野地形面)評価が必要だと考えるが見当たらない。
(一) 平野の沖積層や洪積層基底(基盤上限面)や、地形標高に関してどのような調査・評価を行ったのか。
(二) 沖積層や洪積層基底(基盤上限面)や、地形標高の調査・評価は不要とするなら、その理由は何か。

六 刈羽平野洪積丘陵の平坦面標高、沖積面標高の相違の成因に関して

 刈羽平野の沖積平野の中や縁辺には洪積丘陵の段丘面が存在する。この段丘面の標高は、東側の中央丘陵沿いで標高が高く、中央部の別山川沿いで低い。別山川の南北方向でも、相当量の高低差があり、刈羽村井岡付近では洪積丘陵の標高は二〇メートル程度で北部や東部に比較して著しく低い。またこの付近の沖積平野面も相当量の高低差がある。
 こうした標高差は新しい時代の地殻変動の地形学的証拠であると考えるが、設置許可時も地震後も調査・評価が見当たらない。よって、以下の事項を問う。
1 洪積丘陵の標高や沖積面標高を調査・評価したか。
2 今後、調査・評価を行うか。
3 調査・評価は不要とするなら、その理由は何か。

七 出雲崎町で確認される沖積層堆積後の地殻変動に関する調査の必要性に関して

 柏崎原発敷地から北東一五キロメートルの三島郡出雲崎町の中央部を北に流れる相場川は、現在は出雲崎町大字下小竹地点で直角に西に折れ、出雲崎町井鼻地点から日本海に流れている。
 相場川は沖積層堆積時には、出雲崎町大字下小竹地点から東に折れ、出雲崎町大字上中条地点で現在の中条川に合流して、出雲崎町大字乙茂地点で島崎川に合流していたことが、沖積面の標高や谷底平野の幅の広さが示している。
 沖積層堆積後、地殻変動で河川争奪が起こり相場川は日本海に流れるようになったことは、相場川の左支流である出雲崎町大字上野山の河川や下小竹地点の相場川本流の河床低下が著しいこと、谷底平野内部の出雲崎町大字上中条と西越神社の間に谷中分水界が存在していること等から明らかである。
 さらに、出雲崎町鳴滝町の鳴滝神社裏から出雲崎町大字上野山に至る谷にも谷中分水界が存在し、その谷中分水界を境にした流域からの流水が滝となることから、鳴滝神社や鳴滝町の名称がついたと伝承されている事実もある。
 これらの諸事実は、柏崎刈羽原発敷地の北東の出雲崎町で沖積層堆積後に活発な地殻構造運動が存在している地形学的な証拠を示すと考える。
 しかし、東電が原発建設時にも地震後にも、出雲崎町の地形が示す地殻構造運動の事実を調査・検討した形跡は見当たらない。
 よって、以下の事項を問う。
1 政府は柏崎刈羽原発の設置許可時に、出雲崎の相場川が沖積層堆積後に地殻構造運動で河川争奪が起こったことを調査・評価したか。
2 出雲崎の相場川の河川争奪と地殻構造運動を調査・評価していないならば、これからするか。
3 出雲崎の相場川の河川争奪と地殻構造運動の調査・評価が不要とするなら、その理由は何か。

  右質問する。