質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一三二号

大学生の奨学金に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十二月十七日

谷岡 郁子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   大学生の奨学金に関する質問主意書

 現在、日本において、自国学生向けには「奨学金」という名の実質的なローンしか存在していない。
 本来、奨学金とは、親の経済格差に関係なく教育機会を保障し、また将来の社会の納税者として次の世代を担う若者を育てるために学資を給付する公共性の高い政策である。彼ら若者が卒業後、真に社会に貢献するならば、将来の納税や社会保障負担によって就学時に受け取った奨学金以上の価値を社会に還元することになるのであるから、奨学金は国や社会にとって必要な教育への投資と考えられる。日本の教育政策においても、このような考え方を十分に検討し、採用すべきと考える。
 現在、国レベルの公的な奨学金事業は、政府の監督の下、独立行政法人日本学生支援機構(以下「機構」という。)が行っているが、機構が問題としている「奨学金」返還の滞納問題の背景には、一九九〇年代後半のいわゆる「就職氷河期」に就職できずに不安定雇用下におかれた若者の存在や、就職ポストを用意せずに大学院生数だけを増加させた大学院重点化政策の失敗があると考えられる。将来、社会を担う若者の教育を支えることが国の繁栄のためであることを無視して、世界有数の経済大国と言われるようになった現在においても「奨学金」という名のローンの貸出を続けている政府の政策判断には、疑問を持たざるを得ない。少なくとも、「奨学金」返還の滞納問題の解決にあたっては、このような過去の経済状況の考慮や教育政策の反省を踏まえて検討すべきであると考える。
 よって以下質問する。なお、機構に対する政府の監督責任を踏まえ、誠実に答弁されたい。

一 奨学金は、その理念からして本来給付すべきものである。そもそも奨学ローンを「奨学金」と呼んでいる理由を問う。また、留学生には本来の意味での奨学金があり、日本人学生には奨学ローンしか存在していない。この理由を問う。

二 機構の「奨学金」の貸出総額はいくらか。高校、大学、大学院修士・博士課程の別に示されたい。

三 機構の「奨学金」貸出業務については、各大学(高校)においてもかなりの業務を行っていると認識しているが、各大学と機構のそれぞれの役割分担とその業務内容を示されたい。また、各学校が業務を担う以上、機構は「ただ乗り」しているわけではなく、その事務経費について手当てしているものと考えられるが、各大学にどのようなかたちで支給しているのか、説明されたい。

四 機構の「奨学金」返還の滞納者には、意図的に返還に応じない元奨学生と、就職難で不安定な雇用条件の下で働かざるを得ないがために返還が困難になった元奨学生とがいると考えられる。「就職氷河期」や「ワーキングプア」という言葉が広く流布されている今日、教育行政を担う文部科学省や独立行政法人として公益の一翼を担っている機構は、当然のこととして、安定した収入があり返還可能であるにもかかわらず返還に応じない滞納者と収入がほとんどなく返還が困難なゆえに滞納せざるを得ない元奨学生の実態の調査・推計を行い、後者についての救済策の検討を行っていると考えるが、そのデータや対策の概要を示されたい。

五 新聞報道によると、機構は貸し出した「奨学金」を返還しない、もしくは返還できない学生が多く在籍していた大学名を公表する方針を示している。しかし、奨学ローンは、貸し手である機構と借り手である学生との契約である。したがって大学は本来機構が行うべき業務を肩代わりしているだけで、借り手である学生の卒業後の返還業務まで担うのは筋違いである。この方針には、本来大学の役割ではないローンの取り立てを各大学に押しつけようとしているのではないかという疑念を持たざるを得ない。このような疑念を払拭するために、この大学名公表の目的・意図について説明されたい。また、卒業した学生に対する「奨学金」返還の業務は各大学が行うべきことではないということの確認を求める。

六 もし仮に、前記五の質問に対する答弁が、機構が各大学に返還業務を担わせる方針を示しているならば、それは誤った方針と言わざるを得ないが、その場合には、各大学はローンの返還の督促等のためにかなりの人員と時間を割かなければならない。当然、人件費や事務経費など必要な経費の支給とセットで行うべきものと考えられるが、その予算額と概算の基準を明らかにされたい。

七 機構の年間の事務運営経費を示されたい。また機構の「奨学金」関連の事務運営経費の額と全体に占める割合についても示されたい。

八 機構の職員数と、事務運営経費に占める人件費比率を示されたい。また役員の退職金を含む報酬の比率についても示されたい。

九 独立行政法人になってからのすべての役員の氏名と職歴、在籍期間、役員報酬額および機構を退職した役員ごとの退職金額を示されたい。

十 独立行政法人には、各省庁から多くの国家公務員が出向、転籍、再就職していることが指摘されている。機構では現在、職員の中にどの程度、文部科学省などの各省庁出身者がいるのか。人数、氏名、役職について示されたい。

  右質問する。