質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一二三号

日本原燃(株)六ヶ所再処理工場の安全に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十二月五日

下田 敦子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   日本原燃(株)六ヶ所再処理工場の安全に関する質問主意書

 本年五月末、東洋大渡辺満久教授(変動地形学者)により青森県六ヶ所村日本原燃(株)再処理工場直下に活断層が存在し、最大マグニチュード八クラスの大地震発生の可能性が指摘されている。現在再処理工場にはガラス固化されていない高レベル放射性廃液が大量に貯蔵されており、大地震などにより高レベル廃液が万が一にも外部に漏れ出すと北東北や北海道が大惨事となることが予想される。本年六月十四日に岩手・宮城内陸地震が発生し、続いて七月二十四日には青森県八戸市・岩手県洋野町地下深部で地震が発生するなど、日本列島は現在地震の活動期にあると言われている。
 人々が未来永劫この国で幸せに住めることを保障するのが国の役目であり、国はその役割と責任を果たすべく高レベル廃液の漏えいといった大事故の未然防止に努めるべきではないか。このような観点より再処理工場の安全について以下質問する(以下「放射能」は「放射性物質」と同義で用いている)。なお、再処理工場は国による安全規制の対象となっていることから、政府は承知しているところを答えられたい。

一 直下大地震に係る安全対策に関して

1 現在再処理工場の高レベル廃液貯槽に溜まっている廃液量は何立方メートルか。それに含まれている放射能はチェルノブイリ事故で放出された放射能量の何倍に相当するのか。
2 仮に電源喪失、冷却管破断等の事故により高レベル廃液貯槽の冷却機能が止まってしまった場合、沸騰するまでの時間は何時間と想定されているのか。この場合の緊急冷却対策はどのように行われるのか。
 また同貯槽の掃気機能の停止後、放射線分解による水素は何時間で燃焼下限値濃度に達するのか。さらに、この場合の対策は講じられているのか示されたい。
3 再処理工場の大事故の引き金として電源喪失があげられる。昭和五十五年四月十五日にフランスのラ・アーグ再処理工場で電源喪失が起こり百キロメートル離れたカーン市から電源車がかけつけ事なきを得ている。六ヶ所再処理工場では電源車の用意はしてあるのか。
4 再処理工場は原発と異なり千三百キロメートルもの配管が入り組んだ化学工場であり多量の有機溶剤を扱っているため、引火や爆発事故が想定される。リン酸トリブチル・ノルマルドデカンなどの有機溶媒、副生される有機ニトロ化物のレッドオイルなどによる大地震時の火災や爆発事故について、どのような安全対策が講じられているのか示されたい。
5 直下の大地震発生後、数分の内に配管・プールなどからの高レベル廃液の漏えい、建物の破壊・ゆがみ、道路変形による通行不能、断線による通信不通、電源喪失、火災、中央制御室での制御不能などの事故が工場内で発生することが想定される。このような同時多発事故が発生しても高レベル廃液の外部への放出対応は万全と言えるか。
6 日本は世界でも有数な地震大国である。世界中でこのような地震地帯で商業用の再処理をしている国の例はあるのか。日本は他の再処理実施諸国とは異なり特別な地震対策がなければならないのではないか。
7 高レベル廃液が沸騰や爆発などの事故により放出された場合を想定した環境影響評価はしているのか。行っているのならば評価例を示し、行っていないのならばその理由を示されたい。
 NPO法人原子力資料情報室の故高木仁三郎博士はその著書「核燃料サイクル施設批判」(七つ森書館)二二七ページ~二三一ページに、「航空機墜落あるいは大地震による廃液タンク破壊」と題し、六ヶ所再処理工場の高レベル放射性廃液百立方メートルの内一%が外部に放出された場合を仮定した事故評価例を提示している。これによると晴天時でも青森県全域は避難範囲になり、警戒領域は名古屋あたりまで達すると指摘されている。この評価について、その妥当性と国の見解を示されたい。

二 渡辺東洋大教授が今年五月に「工場直下の活段層の存在と直下マグニチュード八地震の可能性」を指摘したことに関して

1 平成元年に日本原燃(株)から国へ再処理事業指定申請が提出され、それを国が審査し許可を与えている。国が審査した際における直下地震の想定はいかほどか。もしそれがマグニチュード八以下ならば、国は人々の安全のため予防原則に立ち最大震度マグニチュード八を想定し、再処理施設安全審査指針に則り再度安全審査をやり直すべきではないか。このことが中越沖地震による柏崎刈羽原発事故の教訓を生かす姿勢であると考えるが、見解を問う。
2 再処理工場の事故はチェルノブイリ事故を見てわかるように、広範囲にわたる強制退去地域、戻るあてのない難民の発生など、広域で国の根幹を揺るがす悲惨な様相を呈することが予想される。活断層上の再処理工場はあまりにリスクが大きい。北欧、カナダ、米国のように場合により再処理をやめ、使用済み燃料をそのまま貯蔵する選択も視野に入れるべきではないか。

三 憲法に則り国民が未来永劫安心して暮らすことができることを保障するための国の役割・責任に関して

1 六ヶ所再処理工場から放射性のトリチウム、クリプトン八十五、炭素十四については除去されることなく全量が外部に放出されている。ガラス固化体製造は昨年暮れから白金族の沈積問題が解決できず、今年度は試行錯誤が続きほぼ休止状況にある。また製造されたガラス固化体の半分以上が温度管理などに問題がある不均一の欠陥ガラス固化体である。このような事実から再処理は未熟な技術とみなさざるを得ない。安定し継続した運転ができる除去技術や固化技術が完成するまで再処理を凍結してはどうか。
2 放射性のトリチウム、クリプトン八十五、炭素十四については全量が外部に放出されているが、放射能を除去せずに放出することは環境基本法の理念(第三条~第五条)に照らして違法な行為ではないのか。平成十八年六月に発表された、世界的権威機関米科学アカデミーの報告(BEIR7)では「被ばくにはこれ以下では安全という量はない」と指摘されている。このような見解が出たからには、この報告が否定されない限り再処理を要とする核燃サイクル施設からの放射能の放出は徹底して押さえなければならないのではないか。
3 万一再処理工場直下の大地震に襲われ、放射能の外部への放出事故が起こった場合の被害を最小限に食い止めるためにも、再処理工場内で貯蔵されている大変危険な高レベル放射性廃液の量を最小に押さえるべきではないか。
4 再処理工場のアクティブ試験が実施されてから二年半以上が経過している。この間に工場から廃液に混じり大量の放射性トリチウムが海洋へ放出されている。海洋で実際にどのように流れそして拡散したのか情報を公開すべきではないか。

  右質問する。