質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一二一号

障害の範囲見直しに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十二月四日

谷 博之   


       参議院議長 江田 五月 殿



   障害の範囲見直しに関する質問主意書

 現在、社会保障審議会障害者部会において、障害者自立支援法の見直しについての議論が行われている。しかし障害の範囲の検討については、障害者自立支援法の附則にあり、衆参両院の附帯決議においても第一番目にある最重要課題であるにもかかわらず、十分な議論が行われているとはいいがたい。入り口で排除しない、制度の狭間を作らない、縦割り行政で分断されないよう、障害の範囲を拡大し、障害福祉サービスの対象を広げて、セーフティネットを整備することは、人の命、生活に直結する事項であり、最優先して見直すべき事項と考える。具体的には、発達障害、高次脳機能障害、難病等について障害の範囲に含めるべきであり、そのことは民主党障がい者政策推進議員連盟が十月二十九日に厚生労働大臣に対し申し入れを行ったところでもある。他のばらまき施策や、二重行政、天下り等の無駄をやめれば、発達障害、高次脳機能障害、難病等を障害の範囲に含めるために必要な予算は十分確保できるはずである。そこで以下、質問する。なお、同様の文言が並ぶ場合であっても、質問項目ごとに答弁されたい。

一 腎臓病と認定され、当該疾患に起因して家庭内での普通の日常生活活動、若しくは社会での極めて温和な日常生活には支障がなく、それ以上の活動は著しく制限される状態が一年以上継続していて、家事支援等のヘルパーによる支援が必要な六十四歳以下の方は、身体障害者手帳をもらうことができ、障害者自立支援法上のホームヘルプサービス等を利用できる一方で、肝臓病に起因して同じような状態が一年以上継続していて、家事支援等のヘルパーによる支援が必要な六十四歳以下の方は、身体障害者手帳をもらうことができずに、障害者自立支援法上のホームヘルプサービス等を利用できないのはなぜか。その理由を明確に示されたい。

二 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)と認定され、(1)一日一時間以上の安静臥床を必要とするほどの強い倦怠感及び易疲労が月に七日以上ある、(2)健常時に比し十パーセント以上の体重減少がある、(3)月に七日以上の不定の発熱(摂氏三十八度以上)が二か月以上続く、(4)一日に三回以上の泥状ないし水様下痢が月に七日以上ある、(5)一日に二回以上の嘔吐あるいは三十分以上の嘔気が月に七日以上ある、(6)表二(省略)に示す日和見感染症の既往がある、(7)生鮮食料品の摂取禁止等の日常生活活動上の制限が必要である、(8)軽作業を超える作業の回避が必要である、のいずれかの項目に該当する状態が一年以上継続していて、かつ家事支援等のヘルパーによる支援が必要な六十四歳以下の方は、身体障害者手帳をもらうことができ、障害者自立支援法上のホームヘルプサービス等を利用できる一方、多発性硬化症、重症筋無力症、膠原病あるいは白血病に起因して同じように、右記(1)から(8)のいずれか一つに該当する状態が一年以上継続していて、家事支援等のヘルパーによる支援が必要な六十四歳以下の方は、身体障害者手帳をもらうことができずに、障害者自立支援法上のホームヘルプサービス等を利用できないのはなぜか。四つの疾病ごとにそれぞれその理由を明確に示されたい。

三 実際には右記二で挙げた四つの疾病以外にも、いわゆる難病患者等で障害者自立支援法の対象となっておらず、必要な福祉サービスを受けられない方が全国に多数存在している。同じような障害を持ち、社会参加上の制限や介護等の福祉サービスの必要性が続いているにもかかわらず、その原因となっている疾病や発症している臓器の違いによって障害者自立支援法の対象とならないのはなぜか。その理由を明確に示されたい。

四 二〇〇七年九月二十八日に日本が署名し二〇〇八年五月三日に効力が発生した障害者の権利及び尊厳を保護・促進するための包括的・総合的な国際条約(以下、「障害者権利条約」という。)では、第一条に左記のように明記されている。
 この条約は、すべての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする。Disability(障害)のある人には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的なImpairment(機能障害)を有する者であって、様々な障壁との相互作用により他の者と平等に社会に完全かつ効果的に参加することを妨げられることのあるものを含む。
 そこで、以下の二点を問う。
1 この条文は、「Disability(障害)とは、環境との関係からとらえていくことが大切であり、同じように社会への完全かつ効果的な参加が妨げられている人について、原因となるImpairment(機能障害)の違いで一部の障害者を排除してはならず、すべての人を含めていく」ことを目的としていると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
2 我が国の身体障害者福祉法では、腎臓障害や心臓障害は身体障害者手帳の交付対象としていても、肝臓障害は対象から外している。また、HIVは対象としていても、他の免疫性疾患や血液性の疾患を原因とする障害等は対象外としており、臓器、疾病別で、認定項目がないために、対象とならない障害がある。このように深刻な差別がある身体障害者手帳の所持を、障害者自立支援法では入り口の要件としているので、同じように社会的制限が認められている人が、臓器、疾病別で対象から外されている現状にある。介護等の障害福祉サービスの必要性とは別の基準で、入り口で要件を課し、一部の障害を排除している現在の障害者自立支援法は、障害者権利条約の目的や理念、そして憲法第十四条の法の下の平等に反すると考えるがいかがか。仮に、障害者権利条約で規定する障害の範囲の趣旨に反していないとするならば、その理由を明確に示されたい。

五 厚生労働省は従来、風邪などの一時的な病気と、憎悪寛解を繰り返して社会生活上の制限が継続する多発性硬化症、重症筋無力症、膠原病などの難病との区別がつかないから、これらの難病を障害の範囲に含めることはできないと強弁してきた。しかしそれは、「介護給付費等の支給決定について」(平成十九年三月二十三日付け障発第〇三二三〇〇二号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知)、及び左記の「市町村審査会委員マニュアル」で示された期限を区切っての認定、医師の意見書等によって区別が可能であると考えるがいかがか。もし区別が不可能だと強弁するのであれば、その理由、区別不可能である具体的事例、そして他にどのような条件があれば区別が可能と考えるか明確に示されたい。
 (1)障害程度区分の認定の有効期間を定める場合
 「現在の状況がどの程度継続するか」との観点から、以下の場合において認定の有効期間(三年間)をより短く(三ヶ月以上で)設定するかどうかの検討を行います。
 ・身体上または精神上の障害の程度が六カ月~一年程度の間において変動しやすい状態にあると考えられる場合
 ・施設から在宅、在宅から施設にかわる等、置かれている環境が大きく変化する場合など、審査判定時の状況が変化しうる可能性があると考えられる場合
 ・その他、審査会が特に必要と認める場合
 これらに該当する場合は、障害程度区分の再認定の具体的な期間を示し、市町村に報告します。(市町村審査会委員マニュアルより抜粋)

六 十一月二十一日に社会保障審議会障害者部会で示された「これまでの議論の整理(案)」(以下、「議論整理案」という。)によると、障害者の定義を廃止した場合、加齢により支援を要する人も障害福祉サービスの対象となってしまうとしているが、六十五歳以上の高齢者及び四十歳以上の特定疾病患者のうち現行の身体障害者手帳、精神障害者手帳及び療育手帳の交付要件を満たしている方以外で、具体的にどのような人にどのような障害福祉サービスが支給されるおそれがあるのか。その懸念するところの対象像を明確に示されたい。

七 二〇〇四年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業)で財団法人日本公衆衛生協会が実施した「新たな高齢者の心身の状態の評価指標の作成及び検証に係る事業」の一環として行われた「介護ニーズ評価に関する調査研究事業」によると、身体障害者手帳を持たない、六十四歳以下の多発性硬化症、重症筋無力症といった、特定疾病でない難病者に対して要介護度の判定を行ったところ、要介護の状態にあると認定された者が報告されている。身体障害者手帳を持たない、六十四歳以下の多発性硬化症、重症筋無力症の方々の中に、介護等の福祉サービスを必要としている者が存在することについて、政府の見解を明らかにされたい。

八 障害者自立支援法第四条において、「障害程度区分」とは「障害者等に対する障害福祉サービスの必要性を明らかにするため当該障害者等の心身の状態を総合的に示すものとして厚生労働省令で定める区分」と定義している。この障害程度区分認定は、要介護認定を基礎として準用しているため、要介護認定によって、要介護の状態にあると認定された者は、障害程度区分認定においても当然に介護等の必要性が認められると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

九 現行の障害程度区分上、明らかに認定される状態にある多発性硬化症、重症筋無力症の人が、なぜ障害福祉サービスの必要性を反映していない身体障害者手帳保持といった別基準の要件により、障害者自立支援法上のサービスを利用できないのか。その理由を明確に示されたい。

十 精神障害については、精神障害者保健福祉手帳を所持していなくても、継続的な通院医療を要する者であることや、現在病状が改善していても、その状態を維持し、かつ再発を予防するために、なお通院医療を継続する必要のある場合や病態像の総合的な判定により、障害者自立支援法による自立支援給付を受けることができる。つまり精神障害者保健福祉手帳を所持しなければならないといった、障害者自立支援法上の入り口規制はされていない。また知的障害者についても同様に手帳要件による入り口規制はない。身体障害者にだけなぜ手帳所持と障害程度区分認定という二重の要件を求めているのか。その理由を明確に示されたい。

十一 議論整理案では自立支援医療については障害程度区分のような客観的なニーズ判定手法がないとしている。しかし、自立支援医療の対象は動かなくなった関節を再び動かせるようにする手術(関節形成術)、義肢の適合具合を良くする手術、慢性腎不全患者に対する血液透析療法や腎移植術等、障害を軽くしたり、回復させたりする更生の目的に則して、治療対象ごとに認定基準を設定しているのであって、ニーズ判定手法がないとは言えないのではないか。

十二 自立支援医療においては、今後も当然この治療対象ごとの認定基準を運用するものと思われるが、自立支援給付と訓練等給付においてのみ身体障害者手帳要件を外した場合、自立支援医療において適切にニーズを判定することが困難になってしまうことが想定されるのか。想定される場合、具体的にどのようなケースなのか、明確に示されたい。

十三 訓練等給付については、各自治体において施設の定員に空きがあったり、事業所が職員体制や事業規模等を勘案し受け入れ可能であると判断した場合、身体障害者手帳を持たない者も利用できるようにすれば、社会資源を有効に活用できると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

十四 訓練等給付について、定員に対して応募が多数あり、優先順位を決めねばならぬ場合、勘案事項の聞き取りや医師の意見書等により、優先順位を判断すればいいのではないか。身体障害者手帳を要件としないことに、問題があるとすれば、どのような問題があるのか明確に示されたい。

十五 議論整理案には、障害者自立支援法において身体障害者手帳を要件としないことになると、市町村窓口における判断業務が困難になるなど様々な混乱が懸念されるとあるが、これは部会委員を務めるある自治体首長の意見などを基に、厚生労働省の事務局が「懸念される」と記述したと思われる。障害者自立支援法以外の交通機関の割引等のサービスについては、今までどおり身体障害者手帳を事務手続き上活用し続けるとして、実際自治体の現場でどのような困難や混乱が懸念されるのか、具体例を示して、政府の懸念の中身を明らかにされたい。自治体の懸念の中身については政府の承知しているところを説明されたい。

十六 難病患者等居宅生活支援事業については国の予算上、義務的経費でなく法律上の根拠がない補助事業であり、かつ法律上自治体の実施義務がないため、実施していない自治体がある。その結果、同じ難病者でありながら、住んでいる場所によってサービスを受けられる人、受けることができない人がおり、地域間格差を生んでいる。難病者はその状態が急変したり、進行するといった緊急性があるので、その緊急性等を勘案し、六十四歳以下で介護を必要としている難病者等であって、身体障害者手帳の要件を外した障害者自立支援法の支給決定プロセスでその必要性が認められた人については、介護等の障害福祉サービスを、障害者自立支援法のサービス提供を行う事業所で、障害者とわけへだてなく受けることができるよう、障害者自立支援法の対象とすべきとの意見があるが、この意見に対する政府の見解を明らかにされたい。

十七 国分寺市が障害者福祉計画策定にあたり、市内の難病手当を受給する人も含めて行ったアンケート全数調査(二〇〇四年度実施)によると、身体障害者手帳のない難病者において、家事支援などホームヘルプサービスの必要な量は、週一日か二日、時間も一、二時間と少ないケースが多いことが結果として出ている。一人暮らしの人に対する家事支援等は、体力的負担を軽減するだけでなく、見守りや孤立させないという重要な効果が期待される。高齢者は介護保険で対応し、難病患者等居宅生活支援事業等でも一部はすでに対応していることを勘案すれば、身体障害者手帳の要件を外しても、それほど多くの予算がかかるとは思えないが、政府は障害者自立支援法上、身体障害者手帳の所持要件を外すことで、どれだけ予算が必要になると試算しているのか。

十八 議論整理案においては、身体障害者福祉法別表に該当することが確認できれば、障害者自立支援法のサービスの対象とすべきとの意見もあるとされているが、別表に該当するかしないかは本人や家族が判断できない場合もあり、身体障害者手帳同様、入り口での規制とならないように注意する必要がある。そのためにも、障害福祉サービスを希望する人はだれでも申請はできるようにすべきと考えるがいかがか。

十九 自立支援給付と訓練等給付の最終的な支給決定は、機能障害の認定、及び、その機能障害を原因とする社会参加上の制約や活動障害が、現行の身体障害者手帳給付対象となる障害認定上の活動制限等と同程度と認められることに加えて、自治体による勘案事項などの聞き取り、そして申請者本人が自ら利用意向について発言できる専門家等との協議調整(ソーシャルワーク)を含むニーズ判定を行って、その結果を踏まえてなされるべきと考えるがいかがか。これら以外になお要件を課す必要があると主張するのであれば、その理由と必要な要件を明確に示されたい。

二十 機能障害の認定、及び、その機能障害を原因とする社会参加上の制約や活動障害が、現行の身体障害者手帳給付対象となる障害認定上の活動制限等と同程度認められるかどうかについては、必要であれば自治体による勘案事項などについての聞き取りの結果等も参考にしながら、申請者の主治医、障害を認定する指定医、更生相談所等において確認すべきと考えるが、いかがか。

二十一 衆参両院の附帯決議の第一番目に、「難病」と明記されているにもかかわらず、障害者部会に難病者の意見を代表する委員を委嘱しなかった理由を明らかにされたい。

二十二 当事者の実質的な参画なくして障害者施策を進めることは、障害者基本法や障害者権利条約の精神にも反し、現在の障害者部会の正統性にもかかわる重大な欠陥と考えるので、今からでも障害者部会に難病者の意見を代表する委員を補充するか、多様な難病者の意見を代表する団体から意見を十分に聴取すべきと考えるが、いかがか。

  右質問する。