質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第六六号

合併特例債と地方の財政危機に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十月二十三日

谷岡 郁子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   合併特例債と地方の財政危機に関する質問主意書

 二〇〇〇年頃から始まったいわゆる「平成の大合併」の結果、約三二〇〇あった市町村は、現在一八〇〇市町村以下にまで減少した。この平成の大合併は、地方分権に向けて市町村の規模を大きくし、その地方財政基盤を強化すると同時に効率化することを目指す政策であると説明されている。そして、合併を促進するために市町村合併特例法が制定され、合併特例債や地方交付税に関する措置など財政措置がとられている。
 この間、約六〇〇件に及ぶ合併がなされた一因には、この財政措置があったものと考えられる。しかしながら、他方で合併したにもかかわらず、新市(あるいは新町)が財政危機に見舞われているという指摘もなされている。特に合併特例債によって、新市(新町)の様々な施設整備が認められることで、必要性に疑問符が付されるような公共事業が数多く実施されている。このような合併特例債の「ムダ遣い」は、将来的な住民負担、あるいは地方自治体の財政危機、財政破綻に結びつきかねない危険性を孕んでいる。
 「ムダ遣い」について身近な例を示すと、愛知県愛西市では、合併特例債を利用して、火葬場の建設を予定している。火葬場の建設自体については、愛西市の中で合意形成を図るべき問題であって、国が関与すべき問題ではない。しかし、火葬場の建設に付随して、セレモニーホールの建設を予定している。試算によると、火葬場だけであれば総事業費は約七億円から一〇億円であるが、セレモニーホールの建設費費用を含めると二五億円以上となる。当該地域には既に民間セレモニーホールが存在し、民業圧迫となる。また建設が予定されているセレモニーホールのランニングコストも考えると、将来的な財政負担となる可能性が大きく、住民からの不安の声や異論も出されている。
 合併特例債は、新市(新町)のための施設整備等の事業費の九五%を借り入れによってまかなうことを認め、地方交付税によって元本の七〇%を補填する制度である。当然ながら、国の交付税負担は増大し、また交付税の交付金が本来目的ではなく、特例債の償還に回されることによって、本来必要な住民サービスの予算減につながる危険性がある。したがって、合併特例債による「ムダ遣い」を放置することは、国の財政、特に地方交付税の制度を危うくするものである。本来地方交付税は、戦後のシャウプ勧告に基づいて、地域間の格差を埋めるために採用された制度であり、交付税措置による元本の補填によって長期的に国と市町村の財政に危機をもたらすとすれば、それは本末転倒である。地方財政を健全化することは、短期的に実現できる課題ではないが、合併特例債のムダ遣いをなくすこと、地方交付税の制度を守りつつ適正に運用して地域間格差をなくしていくことは、各地域の住民の福祉に利することであり、国民のために働く国の責務である。
 よって以下質問する。

一 合併特例債の年次別の総額と件数、および合併特例債の地方交付税による補填額の推移を示されたい。地方交付税による補填額については、今後三〇年間の将来予測についても示されたい。

二 合併特例債による自治体の事業の審査、認定基準等、合併特例債がいわゆる「税金のムダ遣い」とならないための対策を示されたい。例えば、「民間と競合する公的施設の改革について」(二〇〇〇年五月二六日閣議決定)に従えば、新市建設においても民と競合する施設建設については、合併特例債による建設については必要性と民業への影響の双方から厳しく審査される必要があると考えられるが、そのような措置とその内容の市町村への周知徹底、および審査はどの程度行われているのか説明されたい。具体的に、前述の愛西市の例について、合併特例債の起債申請時に、民間及び市が建設予定のセレモニーホールについての需要予測やランニングコストの試算を行ったのか、また愛西市にそれらの資料提出を求めたのか、また国としてどこまで必要性と将来的なリスクをチェックしたのかを示されたい。

三 合併特例債は、運用方法を間違えると、財政危機をもたらすリスクを抱えており、そのリスクは現実化しているという指摘もある。合併特例債は国の制度である以上、そのリスク管理も国の責務である。国としてどのようなリスクを想定し、また想定外のリスクが発生した場合にも対応する準備ができているのかについて明示されたい。さらに、それらリスクについて、市町村に周知徹底しているのか、確認したい。

四 合併特例債を含めた地方財政のチェック状況について説明されたい。今年度より、新たに四つの指標の国への報告が義務づけられ、特別会計や公営企業との連結決算についても、チェックが行われるようになった。これは一歩前進ではあるが、本来は、当該市町村の住民によるチェックが強化されるべきであると考える。しかし、この点については疑問が残る。例えば、市町村議会では、いわゆる「九月議会」において住民代表である地方議会議員の決算の審議が行われるが、九月議会の直前に決算カードや地方財政調査票等が公開されるケースも多く、各議員が財政をチェックする十分な時間が確保されていない。各地方議会における財政のチェック態勢の強化のためにも、国への財政報告の枠組みやスケジュールを工夫すべきと思われるが、国としてそのような問題意識を持って検討を行っているのか。また、直接住民が市町村の税の使途のチェックを行う市民オンブズパーソンの活動などボランタリーな活動も存在しているが、それらの活動を含めた住民による直接的な財政状況のチェックについて推進するつもりがあるのか。その場合は具体的な検討状況も示されたい。

  右質問する。