質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第六四号

農作物への鳥獣被害と対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十月二十三日

谷岡 郁子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   農作物への鳥獣被害と対策に関する質問主意書

 近年、特に中山間部の農山村では、イノシシ、シカ、カモシカ(地域によってはサル、クマ、エゾシカ)等による農作物への鳥獣被害が深刻になっている。各農家や地域レベルで防除用ネットを設置するなどの対策は行っているが、そのような対処ではおいつかないのが現状である。
 第百六十八回国会では、このような現状に対して「鳥獣被害防止法」が成立したが、この法律に基づいて実際にどのような具体的施策を実施するかが今後、重要な課題となる。特に、被害の深刻な中山間地の農山村では、他方で高齢化が進む中での地域振興という課題を抱えており、このふたつの課題をあわせて考えることが求められている。そして、いずれの課題も地域の主体的取り組みによってのみ、解決が図られ、中山間地の農山村の持続に結びつくと考えられる。
 よって、以下質問する。

一 現在の鳥獣被害は、全国でどの程度発生しているか、被害を起こしている鳥獣ごとに、被害件数、駆除数、被害額、被害地点などについて、経年変化を含めて示されたい。また、鳥獣被害についての調査態勢はどのようになっているかについても説明を求める。

二 鳥獣被害に対しては、二〇〇七年に成立した「鳥獣被害防止法」に基づいて、国としても被害防止に向けて努力しているものと認識しているが、実際にどのような実施態勢を組んでおり、また法律が成立してからの一年間でどの程度の効果があったのか説明を求める。なお、駆除数を示す場合には、狩猟免許の甲乙別の数値も示されたい。

三 鳥獣被害対策については、単に完全に駆除すれば問題が解決するわけではなく、生息数の調査・管理を前提に、駆除圧を調整するフィードバック方式による駆除が望ましいと考えるが、このような生息数管理による駆除圧の調整について考えを示されたい。

四 鳥獣被害防止法の第十五条では、被害防止に係る人材の育成について明記している。この点は評価できるが、法に基づいて実際に有効な具体的人材育成策が展開されなければ意味はない。ここで求められるのは、鳥獣被害の防止による農業環境の維持のみならず、地域の環境、特に生物多様性の持続性をも視野に入れ、駆除と共存を同時に行えるような人材であるべきと考えるが、国としてはどのような人材を想定しているのか示されたい。
 また、同法では「人材の育成を図るため、研修の実施その他必要な措置を講ずる」としているが、その研修は、単に学識経験者による机上の講習会ではなく、スキルを持つ経験者が、実践的な指導を行うことが必要であると考えられる。近年、猟師の高齢化などが指摘されているが、そのような実践指導できる経験者がどの程度おり、また人材育成においてそのような猟師をどのように指導に関与してもらっているのかを明示されたい。

五 同法第十条では、処理するための施設の充実や処理方法の指導について言及しているが、ここでいう処理とはどのようなことを指しているのか説明を求める。また、処理のなかで最も重要なものは、解体であると考えられるが、そのような技術については、同法第十五条にある人材の育成に含まれているのか確認したい。さらに、処理施設の充実については、どの程度の施設をどのように整備するのか、そして整備された施設をどう運用するつもりなのか、イニシャルコスト、ランニングコスト双方の費用的な面を含めて明示されたい。

六 同法第九条では、「鳥獣被害対策実施隊」の設置について定めている。この設置状況について示されたい。また、現場レベルにおいて実施隊を設置したとしても、形式的な設置では意味がない。特に実施隊の隊員については、地方財政が厳しく、多くの自治体が人員削減を伴う行財政改革に取り組む中で、自治体職員を隊員とすることが現実的であるのかどうか、考えを示されたい。
 また、同法では「被害防止計画に基づく被害防止施策の実施に積極的に取り組むことが見込まれる者」も実施隊員としてあげている。これは各地の猟友会の会員と考えられるが、乙種(猟銃)による捕獲の効率性と、高齢化していると言われる猟友会の現状を考えると、実際の鳥獣被害軽減の効果には疑問が残る。この点についても認識を示されたい。

七 農業への鳥獣被害を軽減するためには、実際の被害に苦しんでいる農家自身が狩猟免許を取得し、甲種(ワナ)による捕獲を行うことが最も有効であり、また、そのような農家が、鳥獣被害の原因となっているイノシシ、シカ、カモシカ等を地域資源として活用していくことが、地域間交流を含めた地域活性化にも結びつくと考えられる。特に地域資源としての経済的活用については、持続可能性を視野に入れた個体調整が求められるが、その持続可能性を確保するためにも、その地域に生きる農家が関わることが最も有効であると考える。そこで、そのような政策展開の可能性について、国としての考えを示すとともに、そのような具体的事例をどのように把握しているのか、示されたい。

  右質問する。