質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第四〇号

米軍兵士の犯罪にかかる文書の国立国会図書館での閲覧に対する行政府の侵害に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十月二日

又市 征治   


       参議院議長 江田 五月 殿



   米軍兵士の犯罪にかかる文書の国立国会図書館での閲覧に対する行政府の侵害に関する質問主意書

 二〇〇八年八月二十一日、ジャーナリストの斎藤貴男氏は、国立国会図書館(以下「国会図書館」という。)に対して日本国内で米兵が罪を犯した際の扱いなどを定めた法務省の資料、一九七二年に法務省が作成した「合衆国軍隊構成員等に対する刑事裁判権関係実務資料」について、閲覧を求めたが、閲覧禁止とされた。同氏は同日、これに対し、資料の閲覧を求め、措置の取り消しを求めて東京地裁に提訴することを明らかにした。
 国会図書館側の説明によれば、この文書は古書店から自主的に購入したものであるところ、二〇〇八年五月に法務省から閲覧制限の申し出があり、内部の委員会の検討を経て六月十一日に閲覧禁止を決めた。国会図書館は、国や自治体が非公開と決定したものは利用を制限できるとする内規に、法務省の申し出と異なる判断をする理由がなかったと説明する。
 しかしながら、日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」によれば「図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする」としている。これは、図書館の自由は日本国憲法が保障する基本的人権の規定に基づく権利であり、その頂点たる国会図書館の在り方は、すべての図書館に関わることである。また、本件は立法調査権、立法府の独立に対する重大な侵害行為を含む疑いがある。
 よって以下質問する。

一 憲法第十九条(思想及び良心の自由)に照らし、国会図書館、また一般に図書館は利用者の秘密を守るべきであり、第三者たる何人にも利用内容を伝えてはならない、したがっていかなる第三者も、自らの刊行物であると否とにかかわらず、利用(ないし請求)者名の開示を求めてはならない、まして行政府がこれを侵すことは、当然あってはならないと考えるがどうか。

二 前述の「図書館の自由に関する宣言」は右を具体化した憲章的文書である。政府はこれに謳われた図書館の運営倫理、および個人の利用権を、憲法上の権利、憲法に認められる内心の自由、思想及び良心の自由として認め、擁護する立場をとるか。

三 とりわけ国会図書館は、立法府に属する機関として独立した政治的中立の立場で、議員および広く国民に、立法事務に関する資料、またその他一般の資料を公開する使命を負っているのであって、行政府がこれに干渉することは、三権分立を侵すものであり、許されないと考えるが、どうか。

四 本件資料は、折しも米軍将兵による凶悪犯罪等が後を絶たない現状から、「地位協定」の改正が国会の内外で幅広く検討されているため、国民の関心が高い現状を反映して請求されたのであり、前述の請求者に限らず、立法調査関係者および広くジャーナリズム、国民が継続的に関心を抱くことが当然な基礎資料である。行政府(法務省)があえてこの時にあたり、国会図書館に対しその閲覧禁止を求める行為は、地位協定改正の動きを阻止するという特定の政治的立場に立った職権乱用行為であり、また図書館の自由の理念を否定するもので、撤回すべきではないか。

五 省庁が国会図書館に、同館が所蔵する資料について、閲覧制限を求めた事例はどのようなものがあるか、その省庁名、資料名(名称を特定できない資料内容を含む)と、制限を求めた理由、また求める旨の省庁文書を示されたい。

六 省庁等が自ら提供したものでなく、国会図書館がすでに自主的に収集し公開していた資料に関して、閲覧制限を求めた例はどのようなものがあるか。

七 省庁等がその刊行物につき、国会図書館から、公開(収蔵・展示・閲覧請求など)の可否を打診された例はどのようなものがあるか。

八 省庁等が国会図書館に対して、所蔵する公文書について、収蔵・閲覧等の実状の説明を求めた事例はあるか。

九 省庁等が、国会図書館が古書店等から入手した資料についてまでも閲覧制限の要求をするのであれば、全国の一般図書館としても、古書店等から入手するすべての文書について、各省等の閲覧禁止要求の有無・可能性を忖度せねばならない事態に波及するおそれがある。政府は、各省等にそのような権限ないし実権があると考えているのか。

十 各省庁と国会図書館との人事交流の有無、実態を明らかにされたい。またその際、行政府・立法府相互の独立性はどのように担保されるか、内規・協定などあれば示されたい。

  右質問する。