質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二五号

柏崎刈羽原発の敷地内を通る「真殿坂断層」等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十月一日

近藤 正道   


       参議院議長 江田 五月 殿



   柏崎刈羽原発の敷地内を通る「真殿坂断層」等に関する質問主意書

 東京電力(以下「東電」という。)は二〇〇八年五月二十三日に解放基盤表面の基準地震動を「一~四号機は二千二百八十ガル、五~七号機は千百五十二ガルにする」と発表した。そして、七月二十三日以降、「柏崎刈羽原子力発電所の安全性に問題となる地殻変動はない」「真殿坂断層は後期更新世以降に活動していない」「中越沖地震で真殿坂断層は活動していない」と繰り返し主張している。
 また、原子力安全・保安院(以下「保安院」という。)は、九月五日、柏崎市内で開催された原子力安全委員会第七回耐震安全性評価特別委員会において、「後期更新世以降に真殿坂断層が活動した痕跡は残っていない」「中越沖地震で真殿坂断層は活動していない」「N1、N2測線の隆起・沈降は断層活動によるものでない」と説明している。
 しかし、こうした東電の主張や保安院の原子力安全委員会への説明は、中越沖地震で明らかになった事実や地震前から判明している諸事実を無視したものである。
 国が、東電に原発建設目的の調査や運転再開目的の調査を指示し、東電が作成した調査報告を審査する現行の体制は、中越沖地震時の地殻変動や地盤破壊の真相解明の障害になっている。
 そこで、東電の見解における問題点を指摘しつつ、以下のとおり質問する。

一 中越沖地震時の真殿坂断層の活動について

 中越沖地震後、真殿坂断層上の勝山地区集会場(刈羽村滝谷地内)周辺の農道は、かんがい期に冠水するようになったが、農道の冠水は中越沖地震の地殻変動を示唆するものである。
 この事実は、六月の東電地元説明会で住民から東電に指摘されており、また、八月には保安院にも指摘されている。しかし、東電はデジタル標高モデル(DEM)で地形に変状はないと主張し、国も住民の指摘を無視している。
 最近東電は、中越沖地震で腐植土からなる軟弱地盤が収縮沈下したと説明しているが、なぜ冠水地点に限定して腐植土からなる軟弱地盤が周辺に比較して厚く形成されたかの合理的説明がなされなければならない。
 また、真殿坂断層に交差する寺尾排水路は柵渠(コンクリート製の支柱と板で構成)で舗装された排水路であるが、この排水路における被害は真殿坂断層近傍の四百メートル区間に集中しており、下流区間や他の類似構造物の水路には目立った損傷は確認できない。寺尾排水路の真殿坂断層上に集中する被害は真殿坂断層上が他と異なる揺れがあったことを示唆しているが、このことに対する調査・評価が行われていない。
1 勝山地区集会場(刈羽村滝谷地内)周辺の農道が冠水する事実を国は把握しているか明らかにされたい。
2 農道の冠水は、平野中心部に位置する十日市堰より冠水部分が沈下したことを示していると考えるが、政府の見解を示されたい。
3 平野中心部より真殿坂断層付近の冠水地点が大きく沈下する事実は、平野中心ほど大きく沈下するとした東電の見解と矛盾すると考えるが、政府の見解を示されたい。
4 農道冠水の事実に対する科学的・合理的判断の必要性について政府の見解を示されたい。
5 真殿坂断層と直交する排水路の真殿坂断層近傍の損傷の事実を国はいつ知ったか明らかにされたい。
6 5の原因調査は行ったか明らかにされたい。
7 真殿坂断層の活動を示唆する農道冠水や排水路の損傷に対しては、真殿坂断層の活動以外による可能性を推測するのではなく、原因の特定が必要であると考える。農道冠水や排水路の損傷が真殿坂断層の活動以外によるものである可能性の指摘だけで、真殿坂断層が活動していないと言えるのであれば、その根拠を明らかにされたい。

二 中越沖地震で生じた柏崎刈羽原子力発電所敷地(以下「敷地」という。)周辺や敷地近傍の変状地形、空中写真判読による敷地近傍の変状地形について

 空中写真判読による敷地近傍の変状地形は、真殿坂断層評価に関わる基礎情報である。
 敷地北東部の一画について東電が変状地形表示した二十六地点に関して、国土地理院が二〇〇七年七月十九日に撮影した空中写真による判読、現地での確認をしたところ、表示された二十六地点のうち八地点は変状地形がまったく存在していないことが分かった。また、同範囲に崖崩れや道路の亀裂・変形等の明らかな変状地形が少なくとも十地点存在していることが判明した。なお、十地点とは、東電が表示した変状地形に比較して同等ないし明らかに大きな変状のみをカウントしたものである。
 地形判読範囲内の敷地南西部にある荒浜青山稲荷西の古砂丘上では、中越沖地震により七十メートル余りの長さの亀裂が発生したことが、国土地理院の空中写真に明確に写っており、現地調査で容易に確認できるが、東電の「空中写真判読による敷地近傍の変状地形」には表示されていない。
 この結果は、東電資料の信頼性が極めて低いことを示している。
 また、表示されていない変状地点は、後期更新世以降の地殻構造運動がないとした東電見解と矛盾する地点が多い。
1 国は、現地実態と一致しない東電の変状地形報告に基づいて、原発の安全性について評価したのではないか。
2 国は、東電が提出した「空中写真判読による敷地近傍の変状地形」の信頼性に関して、どのような調査・評価をしたのか明らかにされたい。
3 東電資料の信頼性は極めて低いとの指摘を踏まえて、今後何らかの対処を行う考えはないのか。再調査や実態を踏まえた報告書の再提出、地域の実態を踏まえた再評価を求める必要があると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

三 椎谷海岸に出現した亀裂について

 椎谷南西部の海底の西山層に中越沖地震で亀裂が生じた。この亀裂は毎年岩ガキを採取している地元住民が地震直後に発見し、国土地理院が撮影した地震直後の空中写真で確認して、指摘されたものである。
 この亀裂を住民が指摘した七月の段階では、東電は「初めて聞いた。調査実施は本社と協議して決める」としていたが、最近は「地震前から存在していた亀裂である」と主張している。
 国土地理院は椎谷海岸の空中写真を中越沖地震前の二〇〇四年七月二十四日(新潟豪雨災害のための緊急撮影)と二〇〇五年五月四日、同年五月二十一日に撮影しているが、これらの写真には、地震後の二〇〇七年七月十九日に国土地理院が撮影した写真に見られる明確な亀裂は確認できない。
 保安院は九月末の地元議会や一般説明に、東電が示す二〇〇四年七月二十三日に撮影した空中写真を用い、亀裂は地震前から存在したと説明している。
1 東電は二〇〇四年七月二十三日に撮影した空中写真で亀裂を確認したと主張するが、この写真は誰が何の目的でどの範囲を撮影したものか政府は承知しているか。また、標定図等は確認しているか。
2 政府は、国土地理院が撮影した二〇〇四年七月二十四日と二〇〇五年五月四日、同年五月二十一日の椎谷海岸の状況を、東電が亀裂を確認したと主張する二〇〇四年七月二十三日に撮影した空中写真と比較したか。
3 政府は、二〇〇四年七月二十三日に撮影した空中写真で亀裂を確認したとの東電の主張をどのように検証したか。東電報告を検証することなく受理し、説明に引用しているのか。
4 仮に亀裂が中越沖地震前から存在していても、中越沖地震時に西山層が動いていない証拠とはならない。毎年海に潜って岩ガキを採取している地元の住民が、中越沖地震で岩が割れたと主張しているのであるから、看過することはできない。この問題について、今後政府は、調査を行う考えはないのか。

四 椎谷観音岬一帯の海底遺跡の評価がなされていないことについて

 椎谷観音岬一帯の海底には、北前船の係留石柱が三本あり、井戸や階段が海底に存在し、古文書には千畳敷で生活していたことが記載されている。近世の遺跡が海底に存在しているということは近年の地殻変動で沈下沈水したことの証左であり、中越沖地震で隆起した変動と異なる地殻構造運動があったこと、想定外の地殻構造運動の存在を示唆している。
 近世の遺跡が海底に存在していることに対して、東電は九月十一日に「井戸は甌穴(ポットホール)、階段は椎谷層の差別浸食で生じたケスタ状の地形であると推定している」「中越沖地震で椎谷岬が隆起したことや椎谷岬付近の海成段丘面が周辺より低くないことから、沈降は推定されない」との見解を表明した。
 しかし、柏崎市史考古編は、原発敷地に隣接する大湊では、縄文遺跡が海面下五メートルに存在していた事実を記しており、新潟平野には海面下に多数の遺跡が存在し、地殻変動との関連が研究されている。
1 北前船の係留石柱の沈降等の地殻変動を推定だけで否定することは、非科学的でないのか、政府の見解を示されたい。
2 椎谷観音岬一帯から石地海岸にかけての海底遺跡問題を今後科学的に解明する必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。なお、解明の必要がないとするときは、その理由も併せて示されたい。

五 沖積層基底の標高の相違が真殿坂断層の活動を示していることについて

 東電は真殿坂断層を横切る県道(北一測線)で延長千八百メートル区間の反射法地震探査を実施して沖積層の厚さを把握した。沖積層の基底標高は、海岸の起点から距離二千五百五十メートル付近の真殿坂断層地点ではマイナス三十メートルであるが、その谷の下流に相当する距離二千八百メートル付近ではマイナス二十メートルとなっている。上流が下流より標高が低い事実は沖積層堆積時の断層活動を示唆するが、東電は「沖積層の基底でない可能性もある」としているのみである。真殿坂断層の沖積層堆積期間の変動を示唆する事実を「基底でない可能性」で否定することは非科学的であり、真相解明にならない。
 北一測線と同様に勝山地区集会場周辺の農道冠水地点や排水路損傷地点でも沖積層基底標高は、既存ボーリング(刈羽村の村道工事や新潟県が県道工事で実施)から上流の真殿坂断層近傍が下流の県道より低いことを示すボーリング資料が得られているが、勝山地区集会場周辺の沖積層基底標高の調査・評価がされていない。
1 真殿坂断層の活動を把握するには、北一測線の二千五百五十メートルと二千八百メートル地点で沖積層の基底を確認するためのボーリングを実施するなどの直接的確認が必要であると考えるが、今後、基底の確認をする考えはないのか。
2 農道冠水地点や排水路損傷地点で北一測線で実施した反射法地震探査を行い、その最深部で沖積層の基底を確認するためのボーリングを実施するなどの直接的確認が必要であると考えるが、今後、基底の確認をする考えはないのか明らかにされたい。
3 1と2に挙げた直接的確認が不要とするなら、その理由は何か明らかにされたい。

六 後期更新世以降の地殻変動について

 地形は地殻変動を示す基礎情報である。
 東電は「敷地近傍の地形(段丘面標高差)」として五キロメートル範囲を中心に、五段の段丘を区分して図示しているが、この図では刈羽平野の西部の丘陵部にはMⅠ面(MIS5e)の段丘は刈羽村西元寺北部と柏崎市長崎南西部しか表示されていない。
 この地域には標高は二十メートルから八十メートルまでの平坦面が多数存在しており、以前は畑として利用されていた。
 この平坦面を構成する地質は、後期更新世以降の安田層や古砂丘の番神砂層である。
 後期更新世の堆積層が形成する段丘面の標高が大きく異なる事実は変動地形を示すと考えられるが、東電は「空中写真判読の結果、敷地を中心とする半径五キロメートル範囲には、変動地形の可能性のあるリニアメントは認められない」としている。
1 後期更新世以降の安田層や番神砂層で構成された平坦面は中位段丘面として認識し、その高度差は地殻変動として認識する必要があると考えるが、平坦面は段丘面ではないのか、政府の認識を理由と併せて明らかにされたい。
2 1について、段丘面であるとするならば、その標高差が生じた原因を明らかにされたい。

七 番神砂層下部水成層の標高の相違と構造運動について

 番神砂層下部水成層の標高は、真殿坂断層を境に西側の刈羽村西元寺・十日市では五十メートルを超え、東側の刈羽や十日市、西元寺では十メートル台で、著しい高度差を示しているが、調査されていない。
 また、東電の北二測線沿いの「敷地北側におけるボーリング調査」の断面図においては、番神砂層下部水成層の標高が真殿坂断層の東西で著しく異なる事実すら表示されていない。
 後期更新世以降の地殻構造運動を評価するには旧汀線を示す番神砂層下部水成層の標高を正確に把握する必要があるにもかかわらず、調査されていない。東電の調査は、後期更新世以降の地殻構造運動はないとする東電の見解を否定する事実を調査対象から除外し、無視する非科学的手法であり真相解明のためには容認できない。
 政府は、今後、番神砂層下部水成層の標高を調査し、後期更新世以降の地殻構造運動を評価する考えはないか。調査を不要とするならばその理由も併せて明らかにされたい。

八 広域火山灰に関する主張について

 東電が安田層基底部に存在すると主張する「広域火山灰 Ata-Th」に関して、同定プロセスは予断に基づくもので非科学的である。
 安田層中には数多くの火山灰(テフラ)が存在することが明らかになっており、これらのテフラには広域火山灰も地域的な火山灰も存在している。
 火山灰の同定には鉱物組成分析や火山ガラスのタイプ・形態、火山ガラスや重鉱物の屈折率、火山ガラスの主成分分析の結果が重要であり、それらの各項目が火山灰アトラス等に示された広域火山灰の数値と一致しなければ同定はできない。
 東電が阿多鳥浜/Ata-Thであると主張する敷地内外のボーリングコアから採取した火山ガラスの屈折率はボーリングの各坑で相当相違しており、斜方輝石、角閃石の屈折率も阿多鳥浜/Ata-Th火山灰の公称値から越脱している。
 東電のテフラ(阿多鳥浜/Ata-Th)の同定プロセスは、①顕微鏡観察、②屈折率測定、③主成分分析、④候補テフラとの対比によったとしている。
 分析した火山ガラスや重鉱物の屈折率が阿多鳥浜/Ata-Thの公称値と相違することは、広域火山灰の阿多鳥浜/Ata-Thではなく、他の火山灰である可能性を示唆している。
 また、ボーリングの各坑で対象とした諸数値が相当相違する事実は、確認した火山灰三種類の広域火山灰である鬼界葛原(K-Tz、九・五万年前)、阿多鳥浜(Ata-Th、二十四万年前)、加久藤(Kkt、三十四万年前)のみを候補として比較して、他は対象としない異様な手法に基づき、候補として比較した三種類の中では阿多鳥浜に類似していると主張しているに過ぎない。
 東電の同定プロセスは、火山灰は古い時代のものであるとの予断に基づく非科学的手法であることに大きな驚きを覚える。
1 政府は、東電の同定プロセス(候補の三種のみを比較する手法)は科学的・論理的であると判断したのか。判断したのなら、その理由は何かも併せて明らかにされたい。
2 政府は、阿多鳥浜/Ata-Thテフラの屈折率等の公称諸数値から越脱した計測値をもって阿多鳥浜と同定することは、適切と判断するか明らかにされたい。
3 仮に二十四万年前の阿多鳥浜だとすればMIS5eの堆積時との間に寒冷な氷河期があり、常識的には不整合面や粗粒堆積物が確認されなければならないと考えるが、東電は安田層として一括しており、不整合面や粗粒堆積物を表示していない。政府は、このような解釈を適切と判断するか明らかにされたい。

九 原子力の調査審査体制について

 地形や地質・地盤の調査は、全ての事実を正確に把握して真相解明がなされなければならない。しかし現在は東電調査に基づき国が審査しており、こうした体制では真相解明はできない。
 東電社長は、中越沖地震直後から運転再開を公言していたが、国はその東電に調査を指示、東電の調査報告を審査・評価している。設置許可時の審査も、設置者である東電が行った調査を国が評価するだけのものだった。
 こうした現行の原発安全審査体制の欠陥が、設置許可時には想定外の中越沖地震の発生であり、想定外の柏崎刈羽原発の被災である。
 原発建設・運転再開目的の東電調査は真相解明が目的でないために、建設や再開に支障となる諸事実を故意に無視し、調査対象にしていないことは前記の質問で述べたとおりである。
 柏崎刈羽以外の各地の原発でも耐震設計審査指針の改訂に伴い、活断層の再評価や基準地震動の見直しが行われている。耐震設計審査指針が改訂されたので活断層が長くなったり、基準地震動が大きくなったと説明されているが、設置や審査の立場にある者の論理に基づく説明であり、国民や原発立地地域住民には大きな違和感がある説明である。
 なぜなら、活断層の長さや地震に伴う揺れは自然現象であって、指針改訂のために断層が長くなったのではないし、地震の揺れが大きくなったのではない。
 原発建設のために設けた審査指針が不十分なために、改訂されたに過ぎない。
 旧指針が原発建設のための甘い基準であった背景には、原発推進当局と安全規制部門との関係がある。現行の調査・審査体制が、原発建設や運転再開を目的とする電力会社に調査を任せ、国がその調査結果を評価するだけの審査であるために起こっている原子力特有の問題である。
 早急に原子力に関わる調査・審査の体制を見直さねばならない。
 航空機や列車事故では、事業者に調査を委ねるのではなく、公的な事故調査委員会が設けられ調査がなされるため、事故の再発防止に有効に機能している。
 国民にも原発立地地域住民にも、原子力の安全と安心を求める大きな世論がある。原子力行政が信頼されない背景の一つに原発推進当局と安全規制部門との関係があるのではないか。
 以上を踏まえ、原発推進の機関である保安院を経済産業省から分離独立するべきだとの地域の声があるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。