質問主意書

第169回国会(常会)

答弁書


答弁書第一七一号

内閣参質一六九第一七一号
  平成二十年六月二十四日
内閣総理大臣 福田 康夫   


       参議院議長 江田 五月 殿

参議院議員辻泰弘君提出公的年金制度における年金給付の受給権の消滅時効に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員辻泰弘君提出公的年金制度における年金給付の受給権の消滅時効に関する質問に対する答弁書

一について

 年金給付を受ける基本的権利(以下「基本権」という。)については、他の公法上の法律関係と同様、早期にその法律関係を安定させる必要があることから、民法(明治二十九年法律第八十九号)の一般債権より短い五年の消滅時効の期間が定められているところである。

二について

 基本権に基づき支払期月ごとに年金給付の支給を受ける権利(以下「支分権」という。)は一定期日の到来によって具体化する権利という性質がある一方、基本権はその権利を発生させる根拠となる権利という性質を有するものである。
 会計法(昭和二十二年法律第三十五号)においては、画一平等の処理による法律関係の早期安定の要請を踏まえ、公法上の金銭債権については、時効の援用を要せず、その権利の発生から五年で自動的に時効消滅することとされているところであるが、支分権は、公法上の金銭債権に該当するものであることから、厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律(平成十九年法律第百十一号。以下「年金時効特例法」という。)による厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)及び国民年金法(昭和三十四年法律第百四十一号)の改正前までは、会計法の規定が適用されてきたところである。

三について

 社会保険庁においては、請求者が年金給付の支給事由が生じた日から五年を経過する前に裁定請求を行った旨又は行うことができ得なかった旨を申し立てた場合を「やむを得ない理由がある場合」として取り扱っているところである。

四について

 年金時効特例法附則第三条により厚生年金保険法第九十二条が、年金時効特例法附則第五条により国民年金法第百二条が改正され、それまでこれらの条に規定されていた基本権に加え、支分権についての消滅時効が規定されるとともに、会計法第三十一条の規定を適用しないこととされた。これにより、これらの権利の発生から五年を経過したときに、個別に時効の援用を行った場合に限り、当該権利が時効消滅することとされたものである。

五について

 いわゆる議員立法として行われた年金時効特例法による厚生年金保険法及び国民年金法の改正は、年金記録をめぐる一連の問題を通じて、年金制度において年金記録が事後的に訂正される可能性があるなど支分権が時効の援用を要せず、自動的に時効消滅することが必ずしも適当でない場合があることが明らかとなったために行われたものと承知している。

六について

 厚生年金基金に係る基本権については、厚生年金保険法第百七十条第一項の規定に基づき、五年で時効消滅する。また、支分権については、民法第百六十九条の規定に基づき、五年で時効消滅する。
 国民年金基金に係る基本権及び支分権については、国民年金法第百三十八条において準用する第百二条第一項の規定に基づき、五年で時効消滅する。

七について

 国家公務員共済組合法(昭和三十三年法律第百二十八号)、地方公務員等共済組合法(昭和三十七年法律第百五十二号)及び私立学校教職員共済法(昭和二十八年法律第二百四十五号)に基づく長期給付を受ける基本的権利については、それぞれ、国家公務員共済組合法第百十一条第一項、地方公務員等共済組合法第百四十四条の二十三第一項及び私立学校教職員共済法第二十五条において準用する国家公務員共済組合法第百十一条第一項の規定に基づき、五年で時効消滅する。また、支分権については、いずれも、民法第百六十九条の規定に基づき、五年で時効消滅する。

八について

 時効制度は、一定期間継続した事実関係を尊重して社会の法律関係の安定を図る等の観点から設けられているものであり、年金の基本権、支分権についても、こうした時効制度の趣旨に照らし、法律関係を早期に安定させることは引き続き必要と考えられることから、消滅時効の規定自体を削除するのは適当でないと考えている。政府としては、年金時効特例法による厚生年金保険法及び国民年金法の改正において、会計法第三十一条の規定が適用除外されたことから、民法の規定に基づき、個別の事情を勘案して時効の援用を行うかどうか判断することとなる。

九について

 社会保険庁と共済組合等(国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合及び日本私立学校振興・共済事業団をいう。以下同じ。)との間においては、既に、共済組合等の組合員等に係る基礎年金番号、氏名、生年月日、性別、資格取得年月日及び資格喪失年月日等の加入者に係る情報並びに年金の失権者に係る情報、加給年金対象者に係る異動情報及び年金の併給調整等の年金受給権者に係る情報について、定期的に相互に提供し合うとともに、これらの情報を活用して、年金の適正な給付に努めているところである。また、社会保険庁においては、これらの情報を活用し、ねんきん定期便、被保険者記録の事前通知、裁定請求書の事前送付等を行っているところである。
 さらに、平成九年一月の基礎年金番号導入前に既に共済組合等の組合員資格を喪失していた者で年金受給権者となっていないものに係る加入記録について、平成十九年七月五日に年金業務刷新に関する政府・与党連絡協議会において取りまとめた「年金記録に対する信頼の回復と新たな年金記録管理体制の確立について」に基づき、平成二十一年度中を目途に基礎年金番号に統合することとしている。