質問主意書

第169回国会(常会)

質問主意書


質問第一一号

サンルダムに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年一月二十五日

紙 智子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   サンルダムに関する質問主意書

 私が提出したサンルダムに関する質問主意書(第一六八回国会質問第一〇〇号)に対する二〇〇七年十二月二十八日の答弁書(以下「答弁書」という。)は多くの点について説明が不十分であり、また答弁内容によってさらに多くの疑問が生じているため、以下、質問する。

一 治水について

 国土交通省によると天塩川流域における戦後最大の洪水(昭和四十八年)の際、名寄市内の国が管理する堤防は決壊していない。この事実にもとづいて、北海道開発局(以下「開発局」という。)のいう「破堤等がどこにでもおこりうる」とする根拠を前回ただしたが具体的な答弁はなかった。名寄大橋地点で最大流量を記録した昭和五十六年の洪水でも名寄市内の堤防は決壊していないことから、政府は「破堤」の具体的根拠を示して最低限の説明責任を果たすべきである。
1 (一) 「目標流量を流下させるために必要な河道が確保されていない区間」はどの地点をいうのか、具体的に示されたい。またそれぞれの地点でどのような理由で河道が確保されていないのか、河道確保のために必要な方法は何か、示されたい。
  (二) 昭和四十八年、五十六年の戦後最大級の洪水の際、いずれも破堤が起きていないにもかかわらず、開発局が「破堤がどこにでもおこりうる」と判断した根拠、および決壊のおそれのある箇所を具体的に示されたい。
2 (一) 答弁書において、目標流量の設定に総合的に考慮したとする「地域の気象、開発の状況等」の内容をそれぞれ具体的に示されたい。
  (二) サンルダムと直結する名寄川の目標流量だけが実績流量よりはるかに高く設定されていること自体、ダム建設のためであるとの疑問が生じている。真勲別で実績最大流量を用いず、一・三五倍もの数値を目標流量とした根拠を具体的に示されたい。
3 (一) 下川町三の橋地先について「河道掘削等」を実施するとしているが、この地点はこれまでも河道掘削・中州除去等の対応をしてきた。この箇所の河道掘削は再び土砂堆積を引き起こすのではないか。
 この直上流名寄川右岸が無堤であるため外水氾濫が起きたが、整備計画では氾濫した箇所に堤防を築くのではなく、外水被害と関係のないペンケ川築堤と被害箇所から下流の名寄川左岸堤防を整備するとしているのは何故か。無堤のため外水被害のあった名寄川頭首工右岸上下流は築堤を予定しているか。予定していない場合はその理由を示されたい。
  (二) 「河川管理者等が保有するポンプ車等」について、管理者ごとに保有台数、排水力をそれぞれ示されたい。またポンプ車が出発する場所、出動場所から音威子府村おさしま地先等への距離、予想される所要時間をそれぞれ示されたい。
  (三) 整備計画では、全体に河道掘削区間が多くなっているが、河道は長い年月を経て新たな河川環境を形成したものであり、掘削工事自体が河川環境に重大なダメージを与える懸念はないのか。計画に再掘削箇所があることをみても、河道掘削は一時的な対応であり、ふたたび土砂が上流から運ばれて堆積するのではないか。河川対策としては、河道掘削による流路確保より、堤防のかさ上げ強化、移設による河道確保を優先的に行うべきではないか。所見を明らかにされたい。

二 利水について

 答弁書では非かんがい期の正常流量毎秒五・五立方メートルの根拠を述べているが、その内訳である毎秒四・八立方メートルの根拠については具体的な答弁はない。
 またサンルダムより下流の人口は平成十二年国勢調査一市六町一村五万四千六百八人から平成十七年国勢調査五万千八十五人へと五年間に三千五百二十三人も減少している状況である。
1 (一) サケ・マスの産卵等に必要な水深および流速を考慮した流量が毎秒四・八立方メートルとした根拠を示されたい。
  (二) 非かんがい期の正常流量毎秒五・五立方メートルは1/10渇水流量の二倍もの数値であり、結果的にこれだけの高い流量を流すことになれば、逆に冬期間のふ化率やふ化後の生息環境に悪影響を与えないか、また稚仔魚が流される懸念はないと考えているのか。所見を明らかにされたい。
  (三) 開発局の調査によると、毎年六月のサンル川のヤマメの生息密度が低い水準であったのは、平成十四年、平成十八年、および平成十九年であり、平成十九年は前年十月の洪水による産卵床破壊によることが明らかになっている。このことから、平成十八年は五月の融水洪水によってヤマメが流された可能性、平成十四年は前年の洪水(真勲別で毎秒七百立方メートルを超える)による産卵床破壊が推定される。ヤマメの生息密度の水準が低くなった原因はすべて洪水によるものではないか。所見を示されたい。
 また冬季の渇水量がサクラマス資源に悪影響を与えたという根拠を具体例をあげて示されたい。
2 現在、名寄市内の製紙工場(王子板紙)が名寄川の取水権を得て操業しているが、取水量は減少している。その分の取水権を名寄市水道水の取水へ置換できないか。
 また、中名寄水田地帯は今後、大規模な基盤整備事業を予定しており、漏水している導水路のリニューアル化や雨水、地下水を貯める貯水池の増設などにより水の安定供給を図ることを検討すべきではないか。水源の代替、複数化を検討すれば、取水量を抜本的に見直し低減させることは可能ではないか。
3 (一) サンルダムの発電事業は正常流量を確保するために放流を利用すると答弁しているが、サンル川の月平均流量、および正常流量を発電によって流した場合に、サクラマス遡上(五月から九月)のための魚道に流す流量について明らかにされたい。
 また冬季には正常流量を流すだけの流量がないという懸念はないのか。その際、発電と正常流量をどのように確保するのか明らかにされたい。
 さらに、年間総発電量と月ごとの発電量、かつ一定の正常流量で何キロワットを予定しているか。答弁されたい。
  (二) 岩尾内ダムは、新設した小放流設備により無水区間を改善するため毎秒一トン放水し下流河川環境に配慮することになっている。しかし、いまだに岩尾内ダム下流に無水期間が生じているのは何故か。明らかにされたい。

三 サクラマスへの影響について

 答弁書では、暫定水位運用がダムを建設した上での検討であるのかどうかについて回答せず、一方「現在、事前の段階からの試験の実施も含め種々の対策を検討している」と回答している。
1 (一) 答弁書では「魚道を設置し、ダム地点において遡上・降下の機能を確保することにより」とあるが、魚道により遡上・降下の機能を確保できるかどうかがいまだに明らかになっていないのではないか。魚道の効果が明らかな例があれば具体的に示されたい。
  (二) 一般的に、下流から遡上してきた魚類のうち八割が魚道を遡上した場合、政府は「魚道が遡上の機能を確保している」と判断するか。同様に、上流の魚類の八割が魚道を降下した場合、「魚道が降下の機能を確保している」と判断するか、所見を示されたい。
  (三) サクラマスへのダムの影響について研究者が「全体の八十パーセントがダムを上れ、八十パーセントの産卵床も確保され、さらに八十パーセントが海に下れるなら、いいじゃないかと思いがちだが、ここに大きな落とし穴があり、天塩川から上がってきたサクラマスを百パーセントとして、そのうちダムを上れたのは八十パーセント、産卵床の八十パーセントが保全され、さらに八十パーセントの稚魚が降下できた場合に、一年目に生まれたサクラマスの子どもで海に下れるのは八十パーセント×八十パーセント×八十パーセント=五十一・二パーセントになってしまう」と警告している。さらにそのサクラマスが再び遡上産卵し、降下するものは初年の二十六パーセントに減少してしまう。これが毎年くり返されると短期間のうちに計算上限りなくゼロに近づくことになる。これをどう受け止めるか。
  (四) 魚道の遡上は降海型の成熟サクラマスの他、河川残留型の成熟ヤマメもともに上流に移動、遡上して産卵行動に加わる。河川残留型の成熟ヤマメは降海型の成熟サクラマスより体長が小さく十二センチメートルから二十五センチメートルだが、これら成熟ヤマメのうち魚道を遡上できるのはどれくらいの割合と考えているか。明らかにされたい。
2 (一) 答弁書では「暫定水位運用は、恒久的対策の効果を十分把握するまでの間の暫定的運用であることから、恒久的対策の効果が把握されればサンルダムは所定の目的のための通常の運用を行う」と述べている。暫定水位運用はダムを建設した上での検討方法と考えるが所見を示されたい。
 また恒久的対策の効果が把握されなかった場合はどうするのか、暫定水位運用のために建設したダムをとり壊すことを視野に入れているのか、答弁されたい。
  (二) 恒久的対策の効果が把握されるまでダム建設を行わないというのが流域委員会の意見であると考えるが、所見を示されたい。
 また「事前の段階からの試験」はどのような方法を検討しているか、具体的に示されたい。

四 建設費について

 答弁書では建設費約五百三十億円の内訳についてふれているが、大枠の概算であり、「予算の範囲にとどめてまいりたい」ということを客観的に明らかにするには、なお具体的な説明が必要である。
1 「魚道整備費」に関わる魚道のタイプ、および「測量及び試験費」に関わるスモルト(幼魚)の降下施設はどのようなタイプのものを想定し、また費用を見積もっているのか、またそれぞれすでに設計しているのか答弁されたい。
2 「船舶及び機械器具費」は何を想定しているのか。使用目途とあわせて説明されたい。
3 「天塩川魚類生息環境保全に関する専門家委員会」が設置されたばかりであり、答弁書にあるように「事前の段階からの試験の実施も含め種々の対策を検討している」段階でありながら、すでに調査費、工事費などがすべて決定されているのは何故か。
4 今回の整備計画でサンルダム建設費の本体工事の内訳と河道掘削、堤防整備など今後の治水対策費用はそれぞれどれくらいか。ダム建設費とそれ以外の下流の治水対策費を項目別に示されたい。

五 住民、関係団体への説明責任について

 新聞報道によれば、開発局は、「サンルダム建設と町の活性化を図る会」、「サンルダム建設促進名寄市民会議」、「サンルダムと地域を生かす会」などダム推進派とみられる諸団体の開催する集会には参加したり、話し合ったり陳情を受けている。
 一方、天塩川流域委員会が設置されてからは、ダム建設に疑問を寄せている流域の住民・市民団体との話し合いは一切行っていない。このままでは住民参加の整備計画づくりとは到底いえない。また環境問題がとりわけ重大になっている今日、自然保護団体への説明、話し合いを十分に行っているのか。住民団体、関係団体のダム建設への疑問の数々に今後、どのように説明責任を果たしていくつもりなのか、具体的に示されたい。

  右質問する。