質問主意書

第168回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第六二号

内閣参質一六八第六二号
  平成十九年十一月二十七日
内閣総理大臣 福田 康夫   


       参議院議長 江田 五月 殿

参議院議員糸数慶子君提出就業規則と労働契約等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員糸数慶子君提出就業規則と労働契約等に関する質問に対する答弁書

一の1の(一)について

 御指摘の「労働者の義務付け条項」の意味するところが明らかではないが、労働契約法案(以下「法案」という。)の「労働条件」とは、服務規律や懲戒処分など労働者の職場における一切の待遇をいう。

一の1の(二)について

 就業規則の法的性格について、政府としては御指摘のいずれかの説に立つわけではないが、就業規則が労働契約の内容を規律することの根拠を定めた実定法が今まで存在しなかったため、法案において就業規則の法的効果を明らかにしたものである。

一の2について

 法案第七条は、秋北バス事件最高裁判決(昭和四十三年十二月二十五日)における「労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている」との文言、電電公社帯広局事件最高裁判決(昭和六十一年三月十三日)における「就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいてそれが当該労働契約の内容となっている」との文言及び日立製作所武蔵工場事件最高裁判決(平成三年十一月二十八日)における「当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなす」との文言を参考に規定したものである。

一の3について

 法案第七条の「周知」については、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第百六条第一項の「周知」を含め、労働者が希望すればいつでも就業規則の内容を知り得るようにしておくことをいう。

一の4について

 御指摘の法案第七条については、衆議院において、労働契約の成立の場面を対象とすることを明らかにする修正がなされたものであると承知している。なお、一般的に、労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、個々の労働者が反対の意思表示をしている場合には、通常は労働者及び使用者の合意がなされず、労働契約が締結されないものと考える。

一の5について

 御指摘の「「合理性」を媒介に法的拘束力が生じる」の意義が必ずしも明らかでないが、「労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至って」おり、労働者は、「これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものというべきである」とした秋北バス事件最高裁判決等の就業規則に関する判例については承知している。また、契約の一方当事者が法律上認められた形成権を行使することにより、契約内容が変更されることがあると承知しており、例えば、借地借家法(平成三年法律第九十号)第三十二条の規定により建物の借賃増減請求権を行使した場合がこれに該当するものと考える。

二の1について

 就業規則の変更により労働条件を変更したことを起因として紛争が生じた場合に、変更後の就業規則を周知させたこと及び就業規則の変更が合理的であることに関する証明責任は、使用者が負うものと解している。

二の2について

 御指摘の「「合理性」を媒介に法的拘束力が生じる」の意義が必ずしも明らかでないが、「当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべき」とした秋北バス事件最高裁判決等の就業規則に関する判例については承知している。また、契約の一方当事者が法律上認められた形成権を行使することにより、契約内容が変更されることがあると承知しており、例えば、借地借家法第三十二条の規定により建物の借賃増減請求権を行使した場合がこれに該当するものと考える。

二の3について

 法案第十条における、就業規則の変更による労働条件の変更についての合理性判断基準については、御指摘の裁判例を含めた判例法理に沿って規定したものである。

二の4の(一)について

 大曲市農業協同組合事件最高裁判決(昭和六十三年二月十六日)において示された「高度の必要性」という文言については、法案の条文上は用いられていないが、労働条件の変更にどの程度の必要性が求められるのかは、法案第十条の「労働条件の変更の必要性」において、個別の事案に応じて総合的に考慮されるものであると考えており、御指摘の判例の考え方は法案に盛り込まれているものである。

二の4の(二)について

 第四銀行事件最高裁判決(平成九年二月二十八日)において示された七つの要素の中には、内容的にお互い関連し合うものもあるため、法案第十条においては、関連するものについて統合した四つの項目を規定したものであり、御指摘の判例の考え方は法案に盛り込まれているものである。

二の4の(三)について

 二の4の(一)について及び二の4の(二)についてで述べたとおり、御指摘の点については、法案に盛り込まれているものである。