質問主意書

第168回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一一三号

柏崎刈羽原発の安全性と設置審査における国及び東京電力の責任に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年一月十五日

近藤 正道   


       参議院議長 江田 五月 殿



   柏崎刈羽原発の安全性と設置審査における国及び東京電力の責任に関する質問主意書

 新潟県中越沖地震から半年が経過し、地震の実態が解明されつつある。中越沖地震後、東京電力と国は「想定外の地震」だとしていたが、次々と判明する事実から、ある程度想定できた地震であり、国会論議も含め事前に指摘されていたことであり、原発建設のための東京電力の調査や国の審査に欠陥があったことが明白になりつつある。
 そこで、以下質問する。

一 海底活断層(F-B)の認識と対応の誤りについて

 中越沖地震の震源断層の延長線に位置すると想定される海底活断層(F-B)は、二〇〇七年十二月五日の経済産業省の総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会地震・津波、地質・地盤合同ワーキンググループ(第二回)に東京電力から報告された。しかし、東京電力は、二〇〇二年の経済産業省の原子力安全・保安院(以下「保安院」という。)の指示で再評価した際には、「原発敷地から十八・五キロメートルに位置する長さ二十キロメートルの活断層である」と認識し、二〇〇三年六月十五日に保安院に報告したという。にもかかわらず、報告した東京電力も報告を受けた保安院もその事実を公表せず、耐震補強対策も講じなかった中で、中越沖地震は発生した。
 柏崎刈羽原子力発電所の基準地震動S1は最強地震から算定されている。最強地震は歴史地震と活断層評価を比較して、敷地から震央距離二十キロメートル地点に位置する長さ十七・五キロメートルの気比の宮断層が起こすマグニチュード六・九の地震と決定されていることから、原発から想定より近くに、想定より長い活断層が存在することを認識すれば、想定より大きな揺れを想定しなければならないことになる。
1 二〇〇三年六月十五日に、保安院が東京電力から受けた報告を公表不要と判断したことに誤りはないか政府の認識を示されたい。
2 耐震補強対策を講じなかったことの判断に誤りはないか政府の認識を示されたい。
3 二〇〇二年の海底活断層再評価の通達で、全国の原子力発電所九地点で柏崎類似の活断層が存在することが判明したとのことであるが、政府は、それぞれいつどのような対策を講じたのか明らかにされたい。
4 柏崎刈羽のF-B断層のようにS1地震動を超える地震動をもたらす海底活断層は存在したのか明らかにされたい。

二 地震力算定の誤りについて

 原子力発電所の耐震設計では、地表の活断層から地震規模を想定し地震の揺れを算定していたものの、こうした手法が地震力の過小評価となっていることが中越沖地震で明らかになった。二〇〇六年に耐震設計審査指針は改められたが、新指針による耐震評価は完了していない。地震はいつどこで起こるか分からない。柏崎刈羽原発は大量の放射能放出を伴う深刻な事態に至らず、停止しているが現在運転中の原子力発電所が、いつ想定を超える地震に襲われるか分からない。不完全な耐震対策で原子力発電所を運転することは許されず、万全な地震対策を講ずるまで運転を停止し、速やかに対策を講じる必要があると考える。また、地震想定に誤りがあること、施設の耐震対策が不完全であることを公表しなければならないとも考えるが、政府の認識を示されたい。

三 柏崎刈羽地域の地殻構造運動について

 国は、従前には、後期更新世の地殻構造運動は存在しないとの立場であったが、中越沖地震後は地殻構造運動を認める立場を表明しているようである。平成六年十二月二十日の参議院議員稲村稔夫君提出柏崎刈羽原子力発電所の地盤に関する質問に対する答弁書(内閣参質一三一第七号)(以下「平成六年答弁書」という。)では、「敷地及び刈羽村寺尾を含む敷地付近の西山丘陵地域において少なくとも第四紀後期における構造運動に伴う褶曲及び断層活動はないと判断している」とある。
 また、平成十九年十二月四日に私が提出した柏崎刈羽原発敷地内における地殻構造運動・活褶曲の無視及び海底活断層の見落としについての国の責任に関する質問に対する答弁書(内閣参質一六八第六六号)(以下「平成十九年答弁書」という。)では、「東京電力株式会社の柏崎刈羽原子力発電所の原子炉の設置許可及び変更許可に係る安全審査においては、同発電所の敷地周辺地域は羽越活褶曲帯と呼ばれる活褶曲の発達した地域であることを前提に審査がなされており、『地殻構造運動がない』との判断は行っていない。」とある。
 平成六年答弁書の「第四紀後期における構造運動に伴う褶曲及び断層活動はない」から、平成十九年答弁書の「『地殻構造運動がない』との判断は行っていない」に変わっているが、この判断変更はいつ、だれが、何を根拠に行ったのか。その判断変更の記録は存在するのか。それぞれ明らかにされたい。

四 安田層・番神砂層の断層について

 柏崎刈羽原発の地盤地震問題は、計画当初から論争があった。中でも、後期更新世の堆積層である安田層や番神砂層の断層は、構造運動の存在との関係で重要な断層であり、国や東京電力は地すべりによるもので構造性ではないとの主張を繰り返していた。その根拠は、後期更新世の地殻構造運動は存在しないため構造性の断層でなく、表層の地すべりであるというものであった。中越沖地震で柏崎刈羽原発の地殻構造運動が起こったことは、国土地理院や産業技術総合研究所から報告された周知の事実であり、これらを踏まえれば、原発敷地一帯の地殻構造運動を無視できなくなったと考える。
 地殻構造運動を認めるならば、安田層・番神砂層の断層を再評価せざるを得ないと考えるが、安田層・番神砂層の断層は地すべり性との主張を再検討するか明らかにされたい。また、再検討は不要であるとする場合は、その理由を示されたい。

五 西山丘陵の段丘面の調査・評価に関することについて

 西山丘陵には多数の標高の異なる段丘面が存在し、これらの段丘面は番神砂層の上にローム層がのる後期更新世のものであるが、西山丘陵の敷地東北部(刈羽村刈羽から勝山地区)の段丘面調査は、東京電力の従前申請にも、国の評価にも見当たらない。
 中越沖地震では、西山丘陵と小木ノ城背斜の隆起、柏崎平野の沈降が報告されている。地形学者は段丘面の標高の相違が地殻構造運動=断層活動の繰り返しの結果だと指摘している。中越沖地震を踏まえ、西山丘陵の段丘面の調査・評価を行うか明らかにされたい。調査・評価が不要である場合は、その理由を明らかにされたい。

六 平野の地下探査について

 東京電力は二〇〇六年まで、平野地下の調査計画はないとしている。二〇〇六年に東京電力が実施し二〇〇七年四月に公表した柏崎平野四測線の地下探査結果は、新潟県地質図(二〇〇〇)や新潟県地盤図(二〇〇二)と異なり、第三紀層上限面の深さが北一測線で二十メートル程度、南一測線で五十メートル程度と表示されている。この事実は、S波探査等の別途手法による調査の必要性を示すと考えるが、政府は、東京電力に平野のS波による地下探査や基盤に達するボーリング調査を指示するか明らかにされたい。

七 平野の陥没=地殻構造運動の存在について

 柏崎平野の地下構造は、新潟県地質図(二〇〇〇)や新潟県地盤図(二〇〇二)によって解明されている。また、地盤沈下観測井戸や消雪道路の水源井戸の掘削記録から第三紀層上限面は標高マイナス百二十メートルにも達することが明白である。東京電力は設置許可申請のため海底の音波探査で海岸平行測線の海底地形を調査して、海岸から四キロメートルの平行線では基盤の高さが標高マイナス六十メートル程度であるとしている。
 第三紀層上限面の高さが沖合四キロメートルより平野が深いという事実は、平野の陥没=地殻構造運動の存在を示すと考えるが、東京電力の柏崎刈羽原発第2~7号機設置許可申請書の中では、この事実についての評価判断が見られない。第三紀層上限面が沖合より平野が深いという事実は、平野の陥没=地殻構造運動のほかに何で説明できるのか明らかにされたい。

八 原子炉建屋・タービン建屋の傾動について

 原子炉建屋・タービン建屋が地震前から傾動していた事実は驚きである。平成五年三月十二日の参議院議員稲村稔夫君提出の東京電力柏崎刈羽原子力発電所の地盤の安全性並びに事故・火災事件等の通報体制に係る政府の認識と判断の根拠に関する質問主意書(第一二六回国会質問第三号)の中で、「原子力発電所は岩盤に設置された剛構造の建築物である。従って、岩盤が動くことを前提にはしていないと思うがどうか。もしも、基礎地盤に変動があった場合に原子炉の健全性が保たれ得るか」と質問したところ、同年四月二十七日の答弁書で、「当該原子炉施設を支持する地盤は、原子炉施設を支持する上で必要な地耐力を有するとともに、地震による地盤破壊や荷重による不同沈下を起こすおそれはないと判断している。」と答弁している。
 昨年十二月十二日の保安院の担当者の発言によると「建物の計測や傾動に関して、事業者の自主的行為であり報告事項でないので知らなかった」とのことであるが、中越沖地震では、地盤破壊や荷重による不同沈下を起こしたのではないかと考えるが政府の認識を示されたい。また、建物が傾動していたことに対して、政府としてどのような指示をしたのか明らかにされたい。

九 建物の傾動と直下断層について

 柏崎刈羽原発の原子炉建屋やタービン建屋の直下にはα・β、F系・V系、①・②、L1・L2等の断層が存在している。中越沖地震で原子炉建屋やタービン建屋が傾いた事実は、これら直下断層の再活動や新たな断層出現を示唆する事実だと考える。東京電力の昨年十二月二十五日時点の調査計画は1・2号機間のβ断層、4号機東の線状亀裂、5号機脇のF3断層の三地点のみであり、全断層の調査が必要だと考えるが政府の認識を示されたい。また、調査が不要とする場合は、その理由を明らかにされたい。

十 柏崎刈羽原発1号機の安全審査議事録について

 柏崎刈羽原発1号機の安全審査は一九七五年から一九七七年に行われている。審査を担当した内閣府の原子力安全委員会は、新潟日報社の情報公開請求に対し、「(120部会の)議事録を保有していないことが判明した」と回答したという。同時期に審査した東京電力福島第二1号機(福島県)、四国電力伊方2号機(愛媛県)、九州電力玄海2号機(佐賀県)、同川内1号機(鹿児島県)の各部会議事録が現在も保管されているにもかかわらず、柏崎刈羽原発1号機のみが存在しないのは不自然である。「議事録を保有していない」との報道は事実か明らかにされたい。また、紛失したと判断した経緯を明らかにされたい。さらに、柏崎刈羽原発1号機の安全審査議事録を探し出すことはしないのか政府の認識を示されたい。

十一 建屋の影響評価について

 昨年十二月二十六日、保安院は総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会に耐震・構造小委員会の検討状況について報告している。この中に、中越沖地震で想定を大きく超える揺れに襲われた建屋の影響評価に関して、建屋のモデル化の考え方があり、設計時に用いたコンクリートのヤング係数や剛性を考慮する部位に関して、設計時と異なる強度を用いたり、設計で想定しなかった部位を用いている。また、解析には実強度を用いるとして、圧縮強度試験結果の平均値を用いて検討するとしている。このような手法は、耐震偽装事件と類似のもので、モラルハザードと言わざるを得ないと考える。
1 設計時と異なる条件で解析するのは誤りでないか。また、安全面から見て誤った手法でないのか。こうした手法の先例はあるのか。こうした手法を用いた理由は何か。設計値を用いると危険だとの結果が出るからか。それぞれ明らかにされたい。
2 検討に試験値を用いる場合、平均値を用いるのは誤りで、最小値で検討すべきではないのか。平均値を用いる根拠を示されたい。
3 このようなシュミレーションは一般的な手法に照らして正しいのか。国が耐震偽装手法を採用していることになり、モラルハザードでないのか。それぞれ政府の認識を示されたい。

  右質問する。