質問主意書

第168回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一一〇号

「闇の職業安定所」を始めとするインターネット上の違法・有害情報対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年一月十一日

藤末 健三   


       参議院議長 江田 五月 殿



   「闇の職業安定所」を始めとするインターネット上の違法・有害情報対策に関する質問主意書

 平成十九年八月に名古屋市内で発生したOL殺人事件では、「闇の職業安定所」と呼ばれるサイトに「求人情報」が書き込まれ、これに応じた被害者とは面識のない者が殺人を犯した。こうした「闇の職業安定所」では、直接、殺人等の犯罪を犯すことを仕事の内容とする記載はないものの、書き込みやサイトの表題自体、また、サイトの中で「求人」、「求職」といったコーナーも設けられていること、報酬を示して労働を求めていることなどを勘案すると職業安定法に抵触すると考えられる。
 そこで、以下質問する。

一 サイトの表題自体も「職業安定所」という職業紹介を行う機関の名称を使用し、「求人」、「求職」といったコーナーも設け、その中で、「仕事あります、低い、低リスク、報酬五十万」あるいは、「仕事あります、中程度のリスク、中リスク、百五十万」といった書き込みがなされているが、この書き込みを行うことは、職業安定法第四条第五項に規定する「労働者の募集」に該当すると考えるが、政府の見解を示されたい。該当しないとするなら、その理由を具体的に明らかにされたい。

二 職業安定法第五条の三は、労働者の募集を行う者等は、求職者、労働条件等を明示しなければならないこととなっているが、この書き込みには、求職者や同条に規定する労働条件が記載されていないことから、同条に違反すると考えるが、政府の見解を示されたい。違反しないとするなら、その理由を具体的に明らかにされたい。

三 この書き込みが職業安定法に違反していれば、この書き込みを行った者に対して、政府は、同法第四十八条の二の指導及び助言、同法第四十八条の三の改善命令、同法第五十条の報告及び検査を行うことができると考えるが、政府の見解を示されたい。これらの措置を行うことができないとするなら、その理由を具体的に明らかにされたい。

四 前記三に記載する措置が行えるのであれば、これまで、これら「闇の職業安定所」に記載された書き込みに対して、指導助言等の措置を行ったことの有無を明らかにされたい。また、措置を行ったことがないのであれば、これらの措置を講じなかった理由を具体的に明らかにされたい。

五 平成十九年十二月十一日の衆議院青少年問題に関する特別委員会(以下「本特別委員会」という。)において、大槻政府参考人(厚生労働省職業安定局次長)は、「文書募集に当たりましては、いろいろな方法がございます。新聞広告等もございますし、こういったインターネットを用いました募集もあるわけでございますけれども、やはり紙面等の都合上、すべての事項について条件を明示するということは現実難しいということがございます。したがいまして、新聞広告等の並びで考えましても、すべての条件について明示がないので違法であるとして一律に指導するということはなかなか難しいのではないかというふうに考えておるところでございます。」と答弁し、紙面等の都合上、すべての事項について条件を明示するということは現実難しいことを理由に、違法であるとして一律に指導するということはなかなか難しいとしている。この答弁は、「闇の職業安定所」に記載された書き込みが「違法」であることを認めたものと解されるが、政府の見解を示されたい。そうでないとするなら、その理由を具体的に明らかにされたい。
 また、この答弁に基づくと、「紙面等の都合上、すべての事項について条件を明示する」ことができるのであれば、「違法であるとして」、「指導する」ことはできると解されるが、政府の見解を示されたい。そうでないとするなら、その理由を具体的に明らかにされたい。
 さらに、インターネット上の書き込みについては、「すべての事項について条件を明示する」ことは通常可能であり、「違法であるとして」、「指導する」ことができると解されるが、政府の見解を示されたい。そうでないとするなら、その理由を具体的に明らかにされたい。

六 インターネット上には、「闇の職業安定所」のように、有害な情報だけではなく、インターネット上のサイトに書き込み、これを公衆に閲覧させることによって違法となるわいせつ物や児童ポルノといった違法情報も氾濫している。書き込みを行った者等は、警察等によって捜査がなされれば、刑事罰を受けることが想定されるが、書き込まれた情報については、書き込んだ者、サイト開設者、あるいはプロバイダー等によって削除等の公衆に対する閲覧の防止措置が講じられない限り、公然と表示され続けられることから、こうした違法情報の公衆に対する閲覧防止措置がなされなければならないと考える。
 本特別委員会における笹木委員の「違法情報が掲載されているときにはこれを削除しなくてはならない、そういう守るべき事項として定めることが必要じゃないか」、「やはりプロバイダーであったりサイト開設者に対してある程度の義務を課す」との質問に対し、佐藤総務副大臣は、「国による直接の規制については、憲法の保障する表現の自由との関係から慎重な検討が必要である」と答弁しているが、この佐藤副大臣の答弁は、「違法情報」の削除に対する見解を述べたものか、又は「有害情報」の削除に対する見解を述べたものか明らかにされたい。
 また、佐藤副大臣は、総務副大臣として答弁しているが、政府内において「憲法の保障する表現の自由との関係」について、内閣から提出を予定する法律案を審査する事務は、内閣法制局がつかさどっていると考えるが、政府の認識を示されたい。

七 「憲法の保障する表現の自由との関係」とは、いかなる事項、論点を指摘しているのか、具体的かつ詳細に明らかにされたい。

八 憲法第二十一条に規定する「表現の自由」、「検閲の禁止」は、国による事前の審査を禁止したものであり、違法情報がインターネット上に掲示され、公衆の閲覧に供された後に、これを削除等の公衆の閲覧を防止するための措置を講じることは、事前ではなく、事後の行為となり、憲法違反とはならないと考えるが、政府の見解を示されたい。

九 違法情報がインターネット上に掲示され、公衆の閲覧に供されていた場合に、「プロバイダーやサイト開設者に対して」削除等の公衆の閲覧を防止するための措置を講じる義務を課すことが憲法違反となるのか明らかにされたい。違反となるのであれば、その理由を詳細かつ具体的に示されたい。

十 本特別委員会において、武内政府参考人(総務省総合通信基盤局電気通信事業部長)は、「違法であるか違法でないかというふうな判断というのも実は非常に難しいところでございまして、個別具体的に行政が直接その情報についての判断をするということについては難しい面がある」と答弁しているが、いかなる情報を公衆の閲覧に供することが「違法であるか違法でないかというふうな判断というのも実は非常に難しい」とすれば、例えば児童ポルノ等を違法とする法律は、構成要件が不明確な犯罪を規定していることになり、罪刑法定主義に反し、憲法違反となると考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。