質問主意書

第168回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七八号

地球温暖化対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十二月十日

松野 信夫   


       参議院議長 江田 五月 殿



   地球温暖化対策に関する質問主意書

 政府は、京都議定書第一約束期間を目前に控えて、地球温暖化対策の推進に関する法律において確実に目標を達成することができる計画を策定しなければならない。福田康夫内閣総理大臣は本年十月十六日の参議院予算委員会で温室効果ガスについて長期の総量削減目標を設定することを明言し、鴨下一郎環境大臣も、年内にも高めの目標を打ち出したいとの意欲を示すとともに、「キャップ・アンド・トレード(C&T)型国内排出量取引」や炭素税、環境税などの経済的手法を排出削減に効果的な政策であると繰り返し述べている。
 しかし福田内閣のこのような姿勢とは裏腹に、本年九月に環境省の中央環境審議会地球環境部会と経済産業省の産業構造審議会環境部会地球環境小委員会の合同会合で取りまとめられた「京都議定書目標達成計画の評価・見直しに関する中間報告」では積極的な国内対策の進展が見られないまま、安倍晋三前内閣総理大臣の「美しい星へのいざない」提案における家庭部門対策として掲げられた「一人一日一キログラム温室効果ガスの削減」をモットーとする国民運動が盛り込まれている。さらに、環境省の平成二十年度予算概算要求にも新規事業として、「一人一日一キログラムのCO2削減国民運動推進事業」が掲げられており、今後も「一人一日一キログラム」運動を継続していく考えがうかがわれる。このままでは単なる精神論や国民運動を強調するにとどまり、政府としての現実的かつ具体的な排出削減のための取組がなされないまま漫然と経過するおそれがある。
 そこで、以下のとおり質問する。

一 日本経団連「環境自主行動計画」における電気事業連合会の目標は、電力排出原単位を二〇〇八年から二〇一二年までに〇・三四kg-CO2/kWh程度まで低減させるというものであるが、現状では電力会社の相次ぐ原子力発電所の不祥事や事故による稼働停止、石炭火力発電所の新設、高稼働による排出増加のために改善がみられておらず、「原子力設備利用率の向上(八十七パーセントから八十八パーセントへの引き上げ)」と「火力発電所の熱効率の更なる向上」という条件の達成にかかる二〇〇八年から二〇一二年までの目標達成は事実上、不可能ではないかと思われる。政府は前記二条件の達成は可能であると考えているか、可能と考えているのであればその根拠は何か、それぞれ明らかにされたい。

二 家庭部門は二〇〇五年度においては一九九〇年比三十六・七パーセントの増加となっているが、そもそも日本で家庭部門に割り振りされている発電に伴って発生するCO2は、欧米では電力事業者の責任として対策が講じられている。

1 我が国では電力事業者の責任分担とせずに、家庭部門の分担として家庭の責任を強調しているのか、政府の見解を示されたい。
2 家庭部門の前記排出増加量のうち、電力排出原単位の改善がなされていないことによる影響は、家庭部門では対策のとりようもないのではないかと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。また、電力排出係数の改善がなされていないことの影響は何パーセントと考えているか、政府の見解を明らかにされたい。

三 家庭部門での排出は前記のように増加しているが、これは家庭では対応しきれない電力排出係数が改善していないことによる部分が相当にある上、二〇〇五年度においては一九九〇年比で人口が三・四パーセント、世帯数では二十二・四パーセント、住宅床面積では十八・九パーセント増加しており、住宅の床面積の改善は国民生活の向上のために一定程度必要であるなど、これらの変化は温暖化対策の前提となる社会構造上の変化に負う部分が大きいのではないか。それでも、現状では、欧米先進国よりも日本の家庭からの排出は少なく、日本全体のエネルギー効率が欧米諸国に比べてよいとされるのも、家庭での排出が少ないことによることが大きいと考えるが、政府の見解を示されたい。

四 安倍内閣のもとで、一億二千万人の国民について、「一人一日一キログラム温室効果ガス削減」(年間四千七百万トンCO2)をモットーとする国民運動を展開することで、家庭部門の削減目標三千八百万トンを超える削減を達成するとして、今年の参議院選挙でもこのキャンペーンが行われ、環境省の平成二十年度予算概算要求にも盛り込まれている。
 しかしながら、同キャンペーンによる「一人一日一キログラム温室効果ガス削減」は具体的根拠を欠く過大見積りであるだけでなく、国民には乳幼児から高齢者まで、また一人暮らしから三世代同居家庭までと多様であり、加えて、南北に長い日本は地域によって気候が大きく異なること、製品の買換え時の省エネ機器の選択によって飛躍的に削減ができることや国民の最大の買い物である住居の断熱性能を高めるための投資の重要性などを盛り込んでいない机上の計算であると言わざるを得ない。このような「一人一日一キログラム温室効果ガス削減」運動は、実際の個々人や家庭の具体的な行動目標とならないだけでなく、これによって国民の意識啓発が促進されたり、温暖化防止行動をとるとはおよそ考えにくい上、真に必要な対策をあいまいにすることになりかねない。

1 「美しい星五十」を発表した安倍内閣では、「一人一日一キログラム温室効果ガス削減」について、だれが発案・決定し、だれが削減を実行することとなっていたのか、明らかにされたい。
2 福田内閣において、「一人一日一キログラム温室効果ガス削減」を継続することとした経緯と理由を示されたい。
3 「一人一日一キログラム温室効果ガス削減」の政府担当部局はどこか、明らかにされたい。
4 政府において既に実行した「一人一日一キログラム温室効果ガス削減」の事業名、事業内容、事業実施企業と選定手続及びその予算額はどうなっているか、明らかにされたい。また、今後、年度内に実行する予定の事業名、事業内容、事業実施企業と選定手続及びその予算額はどうなっているか、それぞれ明らかにされたい。
5 福田内閣は、「一人一日一キログラム温室効果ガス削減」にかかる費用を平成二十年度予算案に盛り込んで国会に提出する予定であるか、政府の見解を示されたい。
6 「一人一日一キログラム温室効果ガス削減」運動の成果は、だれが、どのように検証するのか、明らかにされたい。
7 前記運動には多くの問題があるにもかかわらず、今後も継続する予定であるのか、政府の見解を示されたい。

五 前記の国民運動で多額の予算を使ったとしても、結局、イベント企業や広告企業などが利益を得るだけで、ほとんど地球温暖化防止にはつながらない。それよりも本当に家庭部門で削減を図るのであれば、前記電力排出係数の確実な改善に加えて、住宅・建築物の断熱性能を確実に改善するための省エネ基準の強化や、高効率機器の買換え促進のための助成等の措置、NGOなどと連携して個々の家庭の省エネ診断・助言を広く行うなど、経済的措置等の制度改革こそ、今回の目標達成計画に盛り込むべきである。要するに問題の所在をあいまいにするような国民運動ではなく、より効果的な具体的政策を推進すべきと思うが、政府の見解を示されたい。

六 温室効果ガス削減目標達成のためには、数量的には家庭部門よりも産業部門の影響がはるかに大きいが、前記中間報告では、産業界の部分は日本経団連等の環境自主行動計画に任されている。大規模排出事業所に対しては、自主的取組にゆだねるのではなく、国内排出量取引を導入するなど具体的政策が必須であることは、国際社会のすう勢であると言える。政府は具体的な政策としてはどのように対処する予定であるか、明らかにされたい。また、長期的な低炭素社会の礎となり、削減努力が不十分な企業・個人も含め、もれなく排出削減を促進するため、環境大臣も言及している炭素税、環境税の導入が考えられるが、政府はどのように対処する予定であるか、明らかにされたい。

  右質問する。