質問主意書

第168回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七六号

検察官の行う「証人テスト」に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十二月六日

峰崎 直樹   


       参議院議長 江田 五月 殿



   検察官の行う「証人テスト」に関する質問主意書

 公判における証言は、検察官あるいは弁護人からの証人申請を裁判所が許可して行われ、その際には、証人の記憶の喚起あるいは公判の進行促進の観点から、証言の前に検察官あるいは弁護人との間で、一般に、証言の打合わせ(証言の打合わせのうち検察官によるものを一般に証人テストと呼んでいることにならい、以下「証人テスト」という。)が行われていると承知している。
 そこで、昨今の取調べの可視化に関する国民世論の高まりを受けて、自白調書の強要と同様の弊害があると考えられる証人テストに関して、以下質問する。なお、答弁に当たっては、質問番号を束ねて粗く答弁するのではなく、質問番号ごとに答弁されたい。また、答弁できない項目がある場合は、質問項目ごとに、その詳細な理由を明らかにされたい。

一 証人テストについて、法的根拠、関係する通達・指示書、政府の見解を明らかにする必要がある。

1 検察官の行う証人テストは、どのような法的根拠により行われているのか。現行の刑事訴訟法及び刑事訴訟法規則における該当条文をそれぞれ示されたい。
2 国家権力を背景とした強圧的な証人テストの危険性は、行政府として当然に十分認識しているはずであるから、検察官の行う証人テストについては、その実施要領並びに注意事項について通達等の指示が出ているものと思慮するが、証人テストについて法務省あるいは検察庁から出された検察官あて通達・指示書をそれぞれ示されたい。
3 証人テストについての法務省、検察庁から過去に出された見解があれば、出典とともに、それぞれ示されたい。また、最高裁判所からのものについても、政府として承知しているところを同様に示されたい。

二 検察官の持つ国家権力を背景に、証人テストを無制限に行うとすれば、記憶のない証人に対してあたかも記憶があるかのごとき虚偽の証言を行わせ、あるいは、検察官の立証趣旨に沿った証言を証人の記憶に反して行わせ、さらには証人の記憶そのものを洗脳することさえ可能であると思慮する。証人テストに関しては、司法研修所編による「共犯者の供述の信用性」(法曹会)百七十八ページから百七十九ページにおいて、「なお、特異な例であるが、検察官による共犯者の事情聴取ないし取調が被告人の公判審理中も継続して行なわれ、そのことが当該共犯者の公判廷での証言内容に影響している疑いがあると指摘された事件もある。」という記載がある。この事件とは、担保提供名下詐欺事件(昭和五十六年仙台高裁一審有罪破棄無罪判決)(以下「本事件」という。)であり、この事件で行われた証人テストの回数は二十七回である。

1 このようなおびただしい回数の証人テストは、公判での真実の証言に影響する疑いがあり、したがって、おびただしい回数の証人テストの結果なされた証言は、その証拠能力がないと考えるが、政府の認識を示されたい。
2 本事件においてなされた証人テストについて、「なお、特異な例であるが、検察官による共犯者の事情聴取ないし取調が被告人の公判審理中も継続して行なわれ、そのことが当該共犯者の公判廷での証言内容に影響している疑いがある」と指摘されたことについて、政府の見解を示されたい。
3 現行の公判実務において検察官は、どの程度の回数又は所要時間の証人テストを行っているのか。当然に法務省あるいは検察庁はその実態調査を行っているであろうと推定されることから、その調査結果を示されたい。また、調査結果がない場合には、実態を踏まえた何らかの答弁をされたい。

三 本年の富山強姦服役冤罪事件、鹿児島志布志選挙違反全員無罪事件を見るまでもなく、現在の日本の捜査当局の客観証拠を軽視した自白強要の実態は愕然とするばかりであり、裁判員制度の導入を一年余り後に控えた現在において、取調べの全面可視化の世論は非常に盛り上がっている。しかし、証人テストは本来取調べではないのであるから、仮に、取調べの全面可視化が達成されたとしても、密室における自白の強要と同様のことが証人テストの形で行われる可能性がある。すなわち、証人テストは取調べの可視化の潜脱行為として行われる可能性があると思慮する。また、裁判員制度の下では、職業裁判官による供述調書重視の裁判から、一般裁判員による公開の法廷における証言重視の裁判へ変質していくものと考えられ、その場合一般裁判員の聞く証言が、検察官によるおびただしい回数の証人テストの結果なされたものであるとすれば、その事実を知らない一般裁判員は当該証言を無条件に真実と受け入れ、誤った判断をしてしまう可能性がある。

1 取調べの可視化と同様に証人テストについても何らかの透明性を図る手段を講じるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
2 裁判員制度の導入後において、現在行われている証人テストの在り方は見直すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。