質問主意書

第168回国会(臨時会)

質問主意書


質問第六二号

就業規則と労働契約等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十一月十九日

糸数 慶子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   就業規則と労働契約等に関する質問主意書

 衆議院で修正された労働契約法案(第百六十六回国会閣法第八〇号)(以下「本法案」という。)は、これまでの判例によって蓄積されてきた労働契約に関するルールを明確化し、個別労働関係紛争の予防、紛争解決制度の有効活用による迅速な解決を実現するとされている。しかしながら、就業規則と労働契約との内容の関係、就業規則による労働契約の内容の変更の在り方、出向の定義等に関して、疑義が生じている。
 そこで、以下質問する。

一 本法案第七条について

1 本法案第七条では、「労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」との文言がある。
(一) ここでいう「労働条件」とは何か。服務規律、懲戒処分、労働者の義務付け条項も「労働条件」に含まれるのか、政府の見解を示されたい。
(二) 就業規則の法的性質をめぐっては、①合理的な内容の就業規則であれば労働契約の内容となる、②労働契約の内容となるか否かを問わず、合理的な内容の就業規則であれば法的拘束力がある又は労働契約の内容を規律する、との二通りの解釈が成り立ち得ると考えるが、就業規則の法的性質について政府の見解を示されたい。
2 本法案第七条の表現は、どのような判例のどのような部分を参考に起草されたのか、明らかにされたい。
3 本法案第七条中の「周知」は、労働基準法第百六条第一項中の「周知」とどのような関係にあるのか、明らかにされたい。
4 本法案第七条では、労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、個々の労働者が反対の意思表示をしている場合でも、本条に基づき個々の労働契約の内容は就業規則の定める労働条件によるものとされると解釈されることとなるのか、政府の見解を示されたい。
5 本法案第七条について、契約内容を一方当事者が設定し、その内容についての合意がないにもかかわらず、「合理性」を媒介に法的拘束力が生じるとした判例及び立法例について政府が承知しているところを示されたい。

二 本法案第十条について

1 本法案第十条は、就業規則の変更の合理性等を要件に、例外的に就業規則による労働契約の内容の変更を認めたものであると考えられる。この解釈として、①使用者は、変更された就業規則を周知し、かつ、訴訟において、使用者がそれが第十条における要件を満たすことを立証しなければ、労働契約の内容である労働条件を一方的に変更できない、②使用者が変更後の就業規則を周知すれば、訴訟において、労働者が就業規則の変更が第十条の要件を満たさないことを立証しない限り、労働契約内容は変更される、との二通りの解釈が考えられるが、政府の解釈を示されたい。
2 本法案第十条について、契約内容を一方当事者が変更し、その変更後の内容についての合意がないにもかかわらず、「合理性」を媒介に法的拘束力が生じるとした判例及び立法例について政府が承知しているところを示されたい。
3 本法案第十条における、就業規則の変更による労働条件の変更についての合理性判断基準は、秋北バス最高裁判決(最判昭和四十三年十二月二十五日)、大曲市農協事件最高裁判決(最判昭和六十三年二月十六日)、第四銀行事件判決(最判平成九年二月二十八日)の判例法理に基づき明らかにされたものと考えるが、政府の認識を示されたい。
4 本法案第十条における、就業規則による労働条件不利益変更の合理性判断基準については、前記判例と照らし合わせた場合、相違が見られる。
(一) 大曲市農協事件判決において示された「高度の必要性」が条文に盛り込まれていない理由を明らかにされたい。
(二) 第四銀行事件判決において七つの要素が示されたが、条文においては四つに減らされている。残り三つの要素が条文に盛り込まれなかった理由を示されたい。
(三) 前記(一)及び(二)において示した要素が条文に盛り込まれないことに対し、裁判実務への影響について政府の見解を示されたい。

  右質問する。