質問主意書

第168回国会(臨時会)

質問主意書


質問第五八号

クボタ・ショック後のアスベスト対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十一月十五日

川田 龍平   


       参議院議長 江田 五月 殿



   クボタ・ショック後のアスベスト対策に関する質問主意書

 株式会社クボタは、二〇〇五年六月二十九日、同社従業員や退職者、関係業者等にアスベストが原因の患者が多発していること、並びに兵庫県尼崎市の旧神崎工場の周辺で中皮腫を発症した一般住民への見舞金の支払を決めたことを発表した。これを契機として、各地でアスベスト関連企業の従業員や家族、工場周辺の住民における健康被害が次々と表面化した。アスベスト被害がそれまで考えられていた以上に深刻であることが判明し、政府は緊急の対応を迫られるとともに、アスベスト対策の根本的な見直しを余儀なくされた。この問題はクボタ・ショックとも呼ばれ、「石綿による健康被害の救済に関する法律」(以下「石綿被害救済法」という。)が制定され、被害者救済のほか、アスベストの全面禁止、建築物内のばく露防止対策等、様々な面でのアスベスト対策が進められてきた。
 クボタ・ショックでは、環境ばく露による一般市民多数へのアスベスト被害の発生が確認されたが、これは国際的に見ても同種の事例は極めて少なく、日本の行政と企業が百年以上にわたりアスベスト使用を積極的に推進してきた結果である。被害の顕在化は今後も長期にわたって続くとも言われ、事態は非常に深刻である。だが、被害実態の調査は一部の地域で進められているものの、アスベストを輸入あるいは製造、販売してきた企業によるアスベストの使用実態に関するデータの公表は非常に不十分であり、アスベスト問題の原因究明には程遠い。さらに、政府が行ったアスベスト問題についての検証も、クボタ・ショックの発生後に、各省で取りまとめた調査報告があるのみで、依然として不十分である。アスベスト問題の精密な検証と情報公開は、有害物質による同種の被害発生を繰り返さないためにも必要であり、一層の取組が求められている。
 以上の観点から、次の事項について質問する。なお、同様の文言が並ぶ場合でも、項目ごとに平易な文章で答弁されたい。また、答弁期日を延期しても差し支えないので、正確かつ丁寧な答弁を期されたい。

一 アスベスト問題への対策費について

1 二〇〇五年度補正予算並びに二〇〇六年度予算のうち、アスベスト問題への対策に用いられた予算額及びその省庁別・対策別の内訳、内訳ごとの成果をそれぞれ示されたい。
2 二〇〇七年度予算のうち、アスベスト問題への対策に用いられる予算額及びその省庁別・対策別の内訳をそれぞれ示されたい。
3 政府は、アスベスト問題への対策について、予算額に見合う十分な成果をあげていると考えるか。根拠を具体的に示した上で、政府の見解を明らかにされたい。

二 石綿被害救済法に定める石綿健康被害救済基金(以下「基金」という。)について

1 基金について、「政府から交付された資金」、「地方公共団体から拠出された資金」、「船舶所有者から徴収した一般拠出金」、「厚生労働大臣から交付された金額」、「当該基金の運用によって生じた利子」、「その他の収入金」は、それぞれいくらか。二〇〇五年度分、二〇〇六年度分、二〇〇七年度分をそれぞれ示されたい。
2 基金の業務費用について、独立行政法人環境再生保全機構(以下「機構」という。)が行う「業務の事務の執行に要する費用に相当する金額」は、いくらか。二〇〇五年度分、二〇〇六年度分、二〇〇七年度分をそれぞれ示されたい。
3 石綿被害救済法第三十一条第二項に定めた以外に、アスベスト問題の対策として、政府は機構に対して支出しているか。支出しているならば、その額及び目的、使途について、二〇〇五年度分、二〇〇六年度分、二〇〇七年度分をそれぞれ示されたい。
4 機構の二〇〇五年度決算報告書によると、石綿健康被害救済業務勘定のうち「業務経費(石綿健康被害救済業務経費)」は一億五千三十二万千四百五十六円であった。これらの内訳は「広報等に係る経費(印刷、送料等)」、「本部増床及び支部事業所借上のための敷金」、「システム開発等に係る業務委託費」、「事務所執務環境の整備(机、椅子等)に係る経費」、「事務所借上等の賃借料」、「人件費等」、「その他経費」であったと聞くが、より詳細な使途と金額をそれぞれ具体的に示されたい。
5 二〇〇六年度の機構の業務経費(石綿健康被害救済業務経費)について、前項と同様に詳細な使途及び金額をそれぞれ示されたい。
6 機構の業務経費について、より効率的かつ効果的な業務へと見直しを行い、業務経費を削減して「救済給付の支給に要する費用」を増やすべきではないか。政府の見解を明らかにされたい。

三 基金の事業主負担制度について

1 アスベスト問題について、政府は汚染者負担の原則を重視すべきであると考えるが政府の見解を示されたい。
2 石綿被害救済法第四十七条第一項において定められた特別事業主と特別拠出金について、政府の「石綿による健康被害の救済に係る事業主負担に関する検討会」は、「特別事業主の名称及び特別拠出金の額については、公にすることにより、当該特別事業主の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあること等から公開しないことが適当」としているが、「特別事業主の名称及び特別拠出金の額」の公開によって「害されるおそれがある」、「当該特別事業主の権利、競争上の地位その他正当な利益」とは、具体的にどのようなものか明らかにされたい。
3 「特別事業主の名称及び特別拠出金の額」を公開しないことについて、特別事業主側から求めがあったのか。求めがあったとすれば、公開しないことを求める特別事業主側の理由は、具体的にどのようなものであったか。それぞれ明らかにされたい。
4 私企業である特別事業主の発生させたアスベスト被害の救済に多額の公費を支出するにもかかわらず、「当該特別事業主の権利、競争上の地位その他正当な利益」が「害されるおそれがある」という程度で「特別事業主の名称及び特別拠出金の額」を公開しないことは、合理性を欠くのではないかと考えるが政府の見解を示されたい。
5 特別事業主の数及び名称、拠出総額、特別事業主ごとの特別拠出金の額をそれぞれ示されたい。
6 政府の「アスベスト問題に関する関係閣僚による会合」資料等によると、基金における二〇一〇年までの累計の見込額は約七百五十七億円であり、割合別に見ると、救済基金の負担割合は、国が約五十六パーセント、地方公共団体が約五パーセント、事業主が約三十九パーセントであるという。ところが、特別事業主に限って見ると、特別拠出金の累計の見込額は約十三・五億円であり、割合では約一・八パーセントにすぎない。よって、アスベスト被害について直接的な責任を負っている特別事業主の負担が、極端に少ないと思われるが政府の見解を示されたい。
7 汚染者負担の原則からすると、政府は特別事業主に対して一層の負担を求めるべきではないか。政府の見解を示されたい。また、求めないとすれば、なぜ求めないのかその理由を明らかにされたい。

四 アスベストと損害保険の関係について

1 山崎穰一金融庁総務企画局参事官は、二〇〇六年二月三日の参議院環境委員会において、損害保険会社のアスベスト免責について「主要な保険会社にヒアリング」したと答弁している。このヒアリングについて、ヒアリング対象の損害保険会社の名称並びに質問事項、回答内容をそれぞれ具体的に示されたい。
2 日本国内で営業している損害保険会社に、現在、アスベストによる損害の引受けを行っているところはあるのか明らかにされたい。仮に、政府がこのことを把握していないならば、把握するべきではないか。政府の見解を示されたい。
3 日本国内で営業している損害保険会社に、過去、アスベストによる損害の引受けを行っていて、現在は、アスベストによる損害を不担保特約条項に入れているところはあるのか明らかにされたい。仮に、政府がこのことを把握していないならば、把握するべきではないか。政府の見解を示されたい。
4 前記の損害保険会社について、アスベストによる損害を不担保特約条項に入れた年月日及びその理由を会社ごとにそれぞれ示されたい。仮に、政府がこのことを把握していないならば、把握するべきではないか。政府の見解を示されたい。
5 企業向けの保険契約の特約について、金融庁による認可や届出を受ける必要がないとしてきたことが、アスベストと損害保険の問題の背景にあるのではないか。政府の見解を示されたい。
6 アスベストによる損害を免責としているかどうか、いつの時点から免責としたか、アスベストに関する賠償の再保険の引受けを行っているかどうか、それにより将来発生する可能性のある損害額、それに対する損害保険会社の対応等、アスベストと損害保険の問題について、損害保険会社は自ら積極的に公表・説明するべきではないか。政府の見解を示されたい。

五 アスベスト問題における事業場名の公表について

1 政府は、二〇〇四年度までのアスベストに関する労働災害認定八百六十件について、ほとんどの事業場名を公表した。しかしながら、二〇〇五年度の同認定七百二十二件、二〇〇六年度の同認定千七百九十六件については、事業場名を公表していない。なぜ、二〇〇四年度までは事業場名を公表しながら、二〇〇五年度以降については公表していないのか。かつて政府が事業場名の公表について「広く国民に提供することが重要」と説明していたことを踏まえた上で、合理的かつ具体的な理由を示されたい。
2 事業場名の公表は、かつて政府が説明していたとおり「対象事業場でこれまで業務に従事したことがある方に対し、石綿ばく露作業に従事した可能性があることを注意喚起」でき、「周辺住民となるか否かの確認に役立」ち、かつ「関係省庁及び地方公共団体等における石綿被害対策の取組みに役立」つのではないか。政府の見解を示されたい。
3 政府は、アスベストに関する労働災害認定した事業場名について、二〇〇五年度以降についても公表するべきではないか。政府の見解を示されたい。

  右質問する。