質問主意書

第168回国会(臨時会)

質問主意書


質問第五四号

障害者自立支援法の施行状況と特別対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十一月十二日

谷 博之   


       参議院議長 江田 五月 殿



   障害者自立支援法の施行状況と特別対策に関する質問主意書

 二〇〇六年四月に施行された「障害者自立支援法」(以下「自立支援法」という。)により、負担増の影響でサービス利用の中止や利用制限が起き、障がい当事者の自立と社会参加が損なわれるという弊害が生じている。また、障がい福祉サービス事業者等は、日割制の導入と報酬単価の引下げにより、急激な収入減を生じ、その結果として人員削減や、給与引下げ、施設閉鎖や新規計画の頓挫を余儀なくされており、障がい福祉サービスが円滑に提供されない事態が危惧される。厚生労働省発表の実態調査によれば、さきに行われた特別対策は一定の効果がみられるとのことだが、その調査結果は現場の実態からかけ離れたものとなっている。特別対策は、重い障がいを抱える者ほど重い負担を求められる「定率負担」、つまり「応益負担」の理念を改めるものではなく、実態としても利用中止や利用制限、事業所の経営難は続いている。それは去る十月三十日、自立支援法の抜本的見直しを求めて日比谷公園に六千五百人もの障がい当事者が集まったことでも明らかである。
 そこで、以下質問する。

一 特別対策に地域移行・就労支援推進強化事業、在宅重度障害者地域生活支援基盤整備事業というものがあり、その目的の一つとして「重度訪問介護事業の人材確保」が挙げられているが、実際にこの特別対策を享受できた重度訪問介護事業者は少ないとの現場からの情報があるが、実際どれだけの事業所が享受できたのか。またこの事業は前記目的に資するべく、順調に実施されていると政府は認識しているか。それぞれ明らかにされたい。

二 自立支援法施行により、重度訪問介護サービスから撤退した事業者は、全国にいくつあり、従来それを行ってきた事業者のうちどのくらいの割合に達するか明らかにされたい。また、把握していないのであれば、把握すべく調査をするべきではないか。政府の認識を示されたい。

三 移動介護は障がい者の社会参加のかなめであるが、地域生活支援事業の一部となったため、特別対策で何の処置もされず、今回の調査対象からも外れている。当事者団体のDPI日本会議が行ったアンケートでは、自治体間格差が出ており、自治体によって外出時間に上限を設けたり、外出目的を制限する事態も起きている。移動支援(移動介護)サービスの利用と提供の実態について、自立支援法施行前と後でどう変わったか、政府は調査し、把握する必要がないと考えているのか。政府の認識を明らかにされたい。

四 障がい者が外出する際に、仕事帰り、学校帰り、通院帰りに買い物に寄ってはいけないなど、社会参加を目的とする外出と通年長期に必要となる外出などをいちいち分けなければならない事態を、政府は妥当と考えているのか。政府の認識を明らかにされたい。

五 移動支援事業においては、市区町村が実際に提供したサービス費用の半分を確実に国が補填するなど、国の財源確保の仕組みを従来の義務的経費に戻すべきではないか。政府の認識を示されたい。

六 ケアホームでのホームヘルプサービスの利用制限に関しては、特別対策で行動援護対象者等に限定して緩和策がとられたが、対象者の範囲も狭く十分に機能しておらず、経営難に陥って閉鎖せざるを得ない事業所も散見される。対象者の拡大や小規模事業夜間支援体制加算の恒久化など抜本的に見直していく必要があると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

七 このように特別対策は様々な不備が明白であるが、ないよりましという考え方で、特別対策を恒久化して欲しいとの声も都道府県の間に多いが、政府は特別対策を依然として経過措置としてとらえ、対策期間の終了後は、本則どおりの負担に戻す考えなのか明らかにされたい。

八 「障害福祉サービス利用の実態について(第2回調査)」においては、当初本年九月十二日に自治体からの調査票の回収締切りを設定していたが、その後厚生労働省のミスで調査原票に調査項目漏れが発覚し、再調査をかけた結果、最終的な回収締切りが十月二十四日と一箇月以上もずれ込んだと聞いている。このミスさえ厚生労働省が犯さなければ、遅くとも九月中には調査結果が発表できたはずである。国会審議にも大きな影響を与えるこのミスについて、審議遅延をねらった意図があるのではと邪推できなくもないが、政府はどのように反省し、責任を取るつもりか明らかにされたい。

九 来年度、サービス提供事業者の経営実態調査を行うとのことだが、調査設計に当たっては、前記八のような失敗を繰り返さないためにも、経営の専門家ではない厚生労働省の中だけで設計・実施をせずに、調査の方法、項目、分析、時期等の面で有意義な調査を行うべく、民間経営コンサルタントへの委託ないしアドバイザリー契約を検討してはいかがか。政府の見解を示されたい。

十 福田内閣総理大臣は、自民党総裁選挙で「自立支援法を抜本的に見直す」と公約したが、そのスケジュールは、自立支援法の附則にある三年後の見直し規定を前倒しして実施するということか。あるいは、規定どおりの時期に見直すということか。見直しの時期について明らかにされたい。

十一 福田内閣総理大臣は、去る十月十一日の衆議院予算委員会において、民主党山井和則議員の自立支援法見直しに関する質問に対し、「附則の項目に限らず、制度全般にわたって見直しを行う」旨の答弁をしたが、附則に掲げられた項目以外に、制度のどの部分について見直しを行うつもりなのか。具体的に明らかにされたい。

十二 障がい者の範囲の検討については、自立支援法に対する参議院厚生労働委員会の附帯決議(二〇〇五年十月十三日)(以下「本附帯決議」という。)の一項目に盛り込まれている。現在、政府では身体障害者認定基準及び知的障害の定義について、厚生労働科学研究の枠組みでの研究しか行っていない。発達障がい者、高次脳機能障がい者、難病者等を障がい者の範囲に加えることについての研究や検討の現状について、明らかにされたい。

十三 福田内閣では、自立支援法を改正せずに、現行法の枠内で検討される政省令の改正や予算措置を、「抜本的見直し」と呼ぶのか。政府の見解を示されたい。

十四 政府は、将来にわたり障がい者の定率負担一割を、二割、三割と上げていく法改正をすることは絶対にないのか明らかにされたい。

十五 自立支援医療については、本附帯決議を踏まえて、厚生労働省に有識者による検討会を立ち上げ、二〇〇六年九月には対象範囲が確定したと聞いている。今後は、現状の負担軽減措置をいつまで続けるのかという検討を行うと聞いているが、その検討スケジュールについて、具体的に明らかにされたい。

  右質問する。