質問主意書

第168回国会(臨時会)

質問主意書


質問第四五号

水俣病問題における被害者救済に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十一月一日

松野 信夫   


       参議院議長 江田 五月 殿



   水俣病問題における被害者救済に関する質問主意書

 水俣病問題に関しては、最高裁判所が、関西訴訟について、二〇〇四(平成十六)年十月十五日言渡しの判決で国及び熊本県の責任を認定したことから、改めて被害者救済を中心とした問題の解決が求められることになっている。
 環境省は、「水俣病問題に係る懇談会」(以下「懇談会」という。)を開催してその提言も受けておきながら、結局のところ被害者救済について抜本的な解決を図ろうとしていない。
 そこで、以下のとおり質問する。

一 懇談会は、都合十三回にわたる議論を重ね、二〇〇六(平成十八)年九月十九日には提言書をまとめている。提言書では、①政府全体として「被害者支援総合基本計画」(仮称)の策定、②新たな救済・補償の恒久的な枠組みの構築、③水俣地域を「福祉先進モデル地域」(仮称)に指定して、高齢被害者や胎児性患者への福祉施策を積極的に推進、④水俣地域を「環境モデル都市」(仮称)に指定し、地域の再生計画を積極的に支援、等を提言している。しかし、実際のところ、ほとんどこの提言がいかされていないようである。前記①から④の提言については、どの程度実現をしているか、あるいはいまだ実現していないとすれば、政府は実現に向けてどのような施策を実施してきたか、具体的に明らかにされたい。

二 懇談会では、審議の途中で、水俣病の認定基準の変更にまで踏み込もうとする懇談会の委員側とそれを拒否しようとする環境省側との間で相当の議論がなされ、結局、この点は懇談会の委員側が提言をまとめるため引いた格好になった。当初、環境省は懇談会の委員に対して水俣病をめぐる行政の問題点を含めあらゆる議論を要請しておきながら、なぜ水俣病の認定基準問題については言及させなかったのか明らかにされたい。特に複数の委員からは、水俣病の認定基準問題については言及が許されずに極めて残念であったとの意見もあり、この点をどのように考えているか、併せて明らかにされたい。

三 環境省は、水俣病の認定基準問題については、昭和五十二年の「後天性水俣病にかかる判断条件」を絶対の基準としているが、これまでも水俣病第二次訴訟、第三次訴訟、水俣病関西訴訟などの判決で批判を受けてきた。特に、一九八五(昭和六十)年の水俣病第二次訴訟福岡控訴審判決では「昭和五十二年の判断条件は・・・広範囲の水俣病像の水俣病患者を網羅的に認定するための要件としてはいささか厳格に失している」とまで批判された。昭和五十二年の判断条件を採用している公害健康被害の補償等に関する法律(以下「公健法」という。)上の認定手続では棄却された患者が、その後次々に裁判所で認定されるということは、やはり裁判所では昭和五十二年の判断条件は通用しないということを真摯に認めて、せめて裁判所で通用するような基準に改めるべきではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。また、既に原爆症の認定問題については、六つの地方裁判所の判決が示され、これを受けて政府も認定基準の見直し作業に入っているので、水俣病についても同様の見直しをするべきではないか、政府の見解を明らかにされたい。

四 環境省は、昭和五十二年の判断条件は医学的知見に基づくものと自賛していて、医学専門家の意見を充分に踏まえたものであるゆえ、見直しを拒否している。しかし、医学専門家会議は、水俣病第二次訴訟福岡控訴審判決直後に開催されて、判断条件の見直しの必要はないとしているものの、その後はこうした医学専門家会議は開催されていないと思われる。もしそうではなく、その後も医学専門家会議を開催して常に見直しをしているというのであれば、いつ、どのような会議を開催したのか、明らかにされたい。
 また、精神神経学者で組織される精神神経学会では昭和五十二年の判断条件を狭すぎるとして厳しく批判しており、改めてこうした学会の指摘などを尊重する必要があると思われる。そこで判断条件を批判している学者、医師らをも参集させて専門家の会議を開催すべきではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。

五 環境省は、最高裁判決を受けて医療費のみを支給する新保健手帳の交付を始めたが、この交付を受けるためには、公健法上の認定申請をしてはならず、また訴訟もしてはならないという設計になっている。これでは、水俣病被害者の足元を見て、訴訟させないように、また認定申請させないように誘導しているとの非難が出るのも当然だと思われるが、どのように受け止めているか明らかにされたい。また、わずかな医療費の支給だけで幕引きを図ろうとして提訴を断念させるかあるいは裁判まで取り下げさせるやり方では、事実上、裁判を受ける権利の侵害に当たると言わざるを得ないと考えるが、政府の見解を示されたい。水俣病被害者の声を踏まえ、被害者を苦しめる二つの条件を見直す予定はないか、政府の見解を示されたい。

六 二〇〇六(平成十八)年五月一日の水俣病公式確認五十年式典の際、水俣を訪れた当時の小池環境大臣に対して、特に離島に居住する被害者から、離島に住んでいると病院通いにも余計な交通費がかかるという訴えがなされて、大臣も検討を約束した。例えば熊本県御所浦島と水俣を結ぶフェリーは、本年五月七日より運航が休止されたため、被害者らは海上タクシーで片道八千円の料金を支払って水俣市内の病院に通院している。離島には特にきめ細やかな配慮が必要であると思われるが、その対応はどのようにするつもりか、政府の見解を示されたい。

  右質問する。