質問主意書

第168回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三九号

中国における遺棄化学兵器処理に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十一月一日

谷 博之   


       参議院議長 江田 五月 殿



   中国における遺棄化学兵器処理に関する質問主意書

 我が国は、化学兵器禁止条約(一九九七年四月二十九日発効)に基づき、中国における旧日本軍の遺棄化学兵器を廃棄処理することとし、閣議決定に基づいて一九九九年四月一日遺棄化学兵器処理担当室を総理府(現内閣府)に設置した。以来、同担当室が、遺棄化学兵器の廃棄処理を安全かつ速やかに行うための業務を行っていることとなっている。
 この度、その業務委託先の民間事業者の周辺で約一億円の不正支出疑惑が持ち上がり、東京地検特捜部は本年十月十七日、特別背任の疑いで、パシフィックコンサルタンツグループ傘下の「株式会社遺棄化学兵器処理機構」や「パシフィックコンサルタンツインターナショナル」(以下「PCI」という。)など関係先を家宅捜索した。PCIは、多額の政府開発援助(ODA)事業を受注している大手コンサルタント企業であるが、そこでも既に同様の手口での不正経理が発覚している。私は二〇〇五年二月二十二日の参議院決算委員会で、PCIによるODAの再委託を利用した水増し請求問題を初めて取り上げ、これは参議院の内閣に対する警告決議となって、会計検査院が異例の三年越しの会計実地検査を行い、本年九月に参議院は最終報告を受け取ったばかりである。それによると、PCIは架空の現地下請会社との再委託契約を装うなどの手口により、独立行政法人「国際協力機構」(JICA)から四年間に総額一億円を超える不当な金額を受け取っていた。ODAにおける不正経理問題が参議院で取り上げられていた頃から、既にこの遺棄化学兵器処理事業においても不正経理の疑惑がささやかれており、私はかねてより内閣府に対して警告を発してきたつもりである。
 そこで、以下質問する。

一 中国における遺棄化学兵器処理事業には、これまでいくらの国費が投入され、そのうちパシフィックコンサルタンツグループ企業及びPCIの参加する共同事業体が受注した額は、再委託、再々委託費を含め、総額はいくらか。把握している限り明らかにされたい。

二 私の資料要求に対して二〇〇五年六月十四日に内閣府が提出した資料によると、担当室は二〇〇〇年から二〇〇三年までPCIの参加する共同事業体(以下「PMC」という。)と毎年直接業務委託をしていたが、二〇〇四年以降は、株式会社遺棄化学兵器処理機構と業務委託契約を結び、株式会社遺棄化学兵器処理機構からPMCに再委託がなされている。二〇〇三年度PMCが内閣府から直接委託を受けた事業費は三十八億五千四百万円、二〇〇四年度、二〇〇五年度にPMCが株式会社遺棄化学兵器処理機構から再委託された事業費はそれぞれ三十四億六千万円、三十七億六千七百万円と同規模の金額であることから、PMCが委託された業務内容はほぼ同内容と推定されるが、二〇〇四年度からPMCとの直接委託関係をなぜ解消しなければならなかったのか明らかにされたい。

三 二〇〇四年度からの実施体制の変更について、二〇〇五年四月十五日の「衆議院議員今野東君提出遺棄化学兵器処理事業に関する質問に対する答弁書」(内閣衆質一六二第四七号)(以下「前回答弁書」という。)で、「業務を一体的に処理させることが適当であると考えられたことによる」と答弁しているが、一体的に業務を処理すべきは、担当室と同じ名称の紛らわしい民間会社ではなく、担当室自身なのではないのか。政府の認識を示されたい。

四 機構はこれまで何社と再委託契約を結んでいるか。年度ごとに再委託先の件数及び機構の受注総額に占める再委託額の割合をそれぞれ示されたい。

五 二〇〇四年度以降、機構が内閣府から受託している「遺棄化学兵器処理事業総合管理業務」と、機構からPMCが再受託している「遺棄化学兵器処理事業総合コンサルティング業務」とは具体的に何が異なるのか。それぞれの業務内容の詳細が分かるよう、予算細目と細目ごとの予算額をつまびらかに示されたい。

六 政府はPCIに対して当該業務の一部が再委託(又は再々委託)されていることを知らなかったとのことだが、PMCと直接委託関係を維持していれば、PMCからの委託先はすべて把握できていたのではないか。内閣府担当室の業務委託先が、遺棄化学兵器処理事業の一部を別の会社に再委託する場合は、内閣府に対してどのような手続を採ることになっていたのか明らかにされたい。また、再委託先が再々委託する場合はどのような手続が求められているのか明らかにされたい。

七 私は二〇〇五年の六月時点で、PCIへ再委託されているとの情報をつかみ、内閣府に対して警鐘を鳴らしてきたが、内閣府は一貫して、その事実はないと回答してきた。本当に担当室の職員の誰一人も知らなかったのか。昨今の厚生労働省における肝炎情報のずさんな情報管理への国民の批判を踏まえ、再度全職員に十分聞き取りを行った上で回答を示されたい。

八 PMCによる無断の再委託契約ないし再々委託契約の有無について、政府はこれまでどのような調査、確認の方法を取ってきたのか明らかにされたい。また、PMCに電話で照会し、再委託はない旨の回答をうのみにしてきただけだとすると、あまりにずさんな対応ではなかったのか。政府の認識を明らかにされたい。

九 報道によると、パシフィックコンサルタンツグループ企業のPPMという会社が再委託(又は再々委託)していたとのことだが、現時点で、株式会社遺棄化学兵器処理機構及びPMCは、PPMが業務の一部を受託していたことを内閣府に対して認めているのか明らかにされたい。

十 無断の再委託(又は再々委託)が事実とすれば、契約違反に当たるとの報道があるが、その場合、委託元である株式会社遺棄化学兵器処理機構及びPMCに対してどのようなペナルティを課すことが可能なのか明らかにされたい。

十一 仮に株式会社遺棄化学兵器処理機構は、PPMとの直接の業務委託契約関係がなく、PMCからPPMへの再委託を知らなかったと主張した場合、機構にはいかなるペナルティも課せられないのか明らかにされたい。

十二 内閣府に専門の担当室を設けていながら、なぜ一民間企業である株式会社遺棄化学兵器処理機構に、ほとんどすべての事業を随意契約で発注してきたのかということについて、前回答弁書では「機構は、処理事業に有用な調査手法や技術上の情報等を有しており、業務の委託先として機構以外への代替は困難である」と答弁しているが、担当室に専門性はないのか。また、機構が有している調査手法や技術上の情報等のうち、他の企業に代替が困難なものは具体的にどのようなものを指しているのか明らかにされたい。

十三 私はかねてより「業務を一体的に処理させる」、つまり丸投げの発注形態には問題があると内閣府に指摘してきたが、何年にもわたり随意契約で多額の委託費を支払い続ける状況は、不正を産みやすいことは誰にでも分かることである。これまで国の責任として、委託事業の進捗状況や実施体制、業務委託費の使い道などの経理内容等について、どのような頻度で、いつ、誰がどのような方法で監査や会計検査、現地視察を行ってきたのか。それぞれ具体的に明らかにされたい。

十四 今回の不正は、なぜ起きたと考えているか。またこのような不正を見逃してきたことについて、政府に責任はあったと考えているか、それともなかったと考えているか。政府の認識を明らかにされたい。

十五 中国における遺棄化学兵器処理事業は、今後何年間続くことになると考えているか。また、今後どのくらいの費用がかかると考えているのか。推定可能な範囲で明らかにされたい。

十六 今回の不祥事を受け、再発防止策として、政府はどのような方策を考えているのか明らかにされたい。

十七 今後の遺棄化学兵器処理事業について何点か明らかにする必要がある。

1 遺棄化学兵器処理事業については、今後もパシフィックコンサルタンツグループ関連企業への業務委託を継続するつもりか明らかにされたい。
2 遺棄化学兵器処理事業については、今後も民間委託を随意契約によって続けるつもりなのか明らかにされたい。
3 遺棄化学兵器処理事業を内閣府が担当する限り、専門家もおらず、担当室の人数も少ないことから、民間への丸投げ状態を続けざるを得ず、かつODAのようなチェック機能も働かないと私は認識している。遺棄化学兵器処理事業については、防衛省が国内において異なる処理方式を採用しているようだが、政府は今後も内閣府に中国でのこの事業を担当させるつもりか明らかにされたい。

十八 担当室が二〇〇〇年度以降、機構及びPMC以外に直接委託している業務はどのような内容で、委託額はいくらか。年度ごとに委託先名、金額、内容をそれぞれ明らかにされたい。

十九 担当室には何人の職員がいて、それぞれどのような専門性を有しているのか。また、業務委託以外に自前で行っている業務内容を明らかにされたい。

二十 外務省及び内閣府の職員が、株式会社遺棄化学兵器処理機構やPCI、あるいはその他のパシフィックコンサルタンツグループ傘下の企業の関係者とゴルフを行ったり、金銭や物品の贈与を受けるなど国家公務員倫理規程に抵触する行為を行った事実はないか。昨今の防衛省不祥事に対する国民の強い批判を踏まえ、職員に十分聞き取りを行った上で回答を示されたい。

二十一 株式会社遺棄化学兵器処理機構には、国際協力銀行元管理部長が天下りしているとの情報があるが、外務省や内閣府から機構に天下った者はいるのか。いるのであれば、年度ごとの人数、氏名、退職前の役職をそれぞれ明らかにされたい。

二十二 本年十月二十八日付けの朝日新聞によると、中国の遺棄化学兵器処理事業をめぐり不正に流用した疑いがある約九千万円は、PPMが都内の弁護士名義の口座に振り込んだとされている。この弁護士は、流用に関与した疑いで事情聴取される可能性があると報道されている荒木民生PCI元社長が関係している民事上の争いにおいて、「山田慶一」氏の代理人を務めている。この「山田慶一」氏は二〇〇三年に当時の日本道路公団藤井総裁を陰で操る不動産ブローカーとして報道されているが、株式会社遺棄化学兵器処理機構及びPPMと、「山田慶一」なる人物との関係について、政府が把握している限りの情報について明らかにされたい。

  右質問する。