質問主意書

第168回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三八号

最低賃金に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十月二十九日

福島 みずほ   


       参議院議長 江田 五月 殿



   最低賃金に関する質問主意書

 様々な労働法制の規制緩和や就業形態の多様化等により、正規雇用者の割合が減少し、パート・アルバイト、派遣社員などの非正規雇用者が急激に増加している。このような非正規雇用者が直面している問題として、低賃金、低収入であるがために生活に困窮するという現実が挙げられる。特に、昨今では、フルタイムで働いても生活保護水準以下の賃金しか得ていないワーキングプアと呼ばれる雇用者が増加傾向にある。こうした傾向によって、格差の拡大とその固定化が憂慮される事態となっている。
 また、最低賃金の額が生活保護の給付額を下回る逆転現象が起きている地域が広範に見られるという問題も指摘されている。これでは、労働者の働く意欲を失わせ、このままでは労働に対するモラルの低下が懸念される。これらの状況を改善する一つの方策として、最低賃金法を抜本的に改正することによって、最低賃金の大幅な引上げを実現し、公正で安定した雇用の実現を図る必要がある。
 しかし、政府から提出されている最低賃金法の一部を改正する法律案(以下「本改正案」という。)では、最低賃金を実質的に意味のある水準にまで引き上げることができるのか、また、最低賃金法が労働者の生活の安定を確保するためのセーフティーネットとして十分に機能するか、極めて疑問である。
 そこで、以下質問する。

一 最低賃金の原則について

1 最低賃金法第三条では、最低賃金を定める際に、「労働者の生計費、類似の労働者の賃金及び通常の事業の賃金支払能力を考慮」するとしている。
(一)「労働者の生計費」とは何か。どのような労働者の生計費を参考にしているのか、それぞれ明らかにされたい。
(二) 前記(一)において、仮に、若年単身労働者の生計費を参考にしているのであれば、その理由と具体的に何歳の労働者の生計費を参考にしているのか明らかにされたい。
(三) 前記(二)の年齢の労働者の生計費を参考としている理由を明らかにされたい。
2 平成十九年度の地域別最低賃金改定の際に考慮した労働者の生計費を示されたい。
3 現在の地域別最低賃金の水準では、自立した生活を保障できる賃金とはなっておらず、労働者の生計費を考慮して決めるとする原則に反していると考えられるが、政府の見解を示されたい。
4 「類似の労働者の賃金」とは何か。その考え方と具体的な算定方式を明らかにされたい。
5 「通常の事業の賃金支払能力」とは何か。これを把握するために使用するデータや調査等について、その出所を含めて明示し、支払能力の算定方式を示されたい。
6 最低賃金を定める際に、「労働者の生計費、類似の労働者の賃金及び通常の事業の賃金支払能力」それぞれの項目について、具体的にどの程度、どのような方法で考慮し、最低賃金を算定しているのか、分かりやすく説明されたい。

二 目安制度について

1 中央最低賃金審議会が地域別最低賃金額改定の引上額の目安を示す、いわゆる目安制度の趣旨、意義及びその効果はいかなるものか明らかにされたい。
2 目安制度には法的な根拠はあるのか明らかにされたい。
3 中央最低賃金審議会の目安審議において、具体的にどのような資料及びデータが使用され、引上額の目安が設定されているのか明らかにされたい。
4 提示された目安額には、地方最低賃金審議会に対する拘束力があるのか。引上額の目安が低すぎると、たとえ拘束力がなくとも、地方最低賃金審議会での審議の際に、わずかな引上額の目安に捕らわれ、地域別最低賃金の大幅な引上げがなされにくいのではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。

三 最低賃金の水準について

1 労働者の平均賃金と最低賃金との格差はどの程度か。全国平均と都道府県別のそれぞれについて、示されたい。
2 最低賃金の在り方について、平成十九年五月十日に私が提出した「最低賃金及びパート労働者に関する質問主意書」(第一六六回国会質問第三三号)に対する答弁書で、日本の最低賃金の水準は、フランスや英国と比較し六十パーセント程度であることが明らかとなっている。このように低い水準にとどまっている現状を、政府はどのように認識しているのか。また、その原因を、政府はどのように分析しているのか。それぞれ明らかにされたい。
3 最低賃金を審議する際に用いられる「未満率」、「影響率」の定義をそれぞれ明らかにされたい。また、近年の地域別最低賃金の未満率、影響率を見ると全国平均では、ほぼ一パーセント台で推移しているが、これでは地域別最低賃金が低賃金労働を規制していく上で十分な効果を発揮していないと考えられるが、政府の見解を示されたい。

四 地域別最低賃金と生活保護の整合性について

1 平成十九年度の地域別最低賃金額改定状況を、全国平均と都道府県別にそれぞれ示されたい。
2 本改正案では、地域別最低賃金の審議において、労働者の生計費を考慮する際に生活保護に係る施策との整合性に配慮することとしている。しかし、生活保護制度では様々な給付形態があり、この整合性とは具体的に、最低賃金の水準と生活保護のどの保護の種類や給付水準とを比較検討することとなるのか、基準となる年齢、家族構成などを含めて明らかにされたい。
3 平成十九年度の地域別最低賃金の額を生活保護水準まで引き上げるためには、今後、さらに地域別最低賃金をどの程度引き上げる必要があるのか。都道府県別に、必要な引上額をそれぞれ明らかにされたい。
4 3で明らかとなった差を埋めるための政府の施策を示されたい。
5 生活保護受給世帯のうち、二十歳代の単身者世帯数と生活保護受給全世帯に占める割合を都道府県別に示されたい。

五 地域別最低賃金の引上げの影響について

1 地域別最低賃金を七百円、八百円、九百円、千円に引き上げた場合において、都道府県別に、影響を受ける労働者数及び中小企業を含めた企業が負担することになる人件費への影響(人件費比率の上昇度合い及び上昇する人件費の総額)の試算結果を明らかにされたい。あわせて、その試算に用いた調査データ等を明らかにされたい。
2 1の労働者数及び試算を全国で見た場合の結果を示されたい。
3 本年十月五日の参議院本会議において、福田内閣総理大臣は、「最低賃金の大幅な引上げにより事業経営が圧迫され、かえって雇用が失われるおそれが大きい。」と答弁しているが、我が国において、最低賃金の引上げにより、雇用の抑制、企業業績の悪化、経済活動の停滞などが発生した事例はあるのか。ある場合、その事例を具体的に示されたい。また、事例がないならば、前記の答弁の根拠を示されたい。

六 中小企業への支援策について

 最低賃金を引き上げた場合に係る中小企業への支援として、現に講じている支援策にはどのようなものがあるのか。また、その支援策による実績、効果はどのようなものか。それぞれ明らかにされたい。

七 最低賃金の減額の特例について

 最低賃金の減額の特例について、本改正案では、「使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額を当該労働者に適用される最低賃金額とするものとすること」としているが、労働能力以外の「その他の事情」とはどのようなものを想定しているのか。また、「厚生労働省令で定める率」とは具体的にどの程度の率とするのか。それぞれ明らかにされたい。

  右質問する。