質問主意書

第168回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三七号

フィリピンにおける政治的殺害に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十月二十九日

福島 みずほ   


       参議院議長 江田 五月 殿



   フィリピンにおける政治的殺害に関する質問主意書

 フィリピンでは、現グロリア・マカパガル・アロヨ大統領が就任した二〇〇一年から今日までの六年間、合法左派政党の活動家、教会関係者、ジャーナリスト、その他の社会活動家の政治的殺害や強制失踪の報告が後を絶たず、犠牲者の数は増える一方である。そうしたフィリピンの人権状況に対し、国内及び国際社会の懸念と関心が高まる中、二〇〇六年十二月、二〇〇七年五月、また、七月に行われた日比首脳会談、あるいは、外相会談において、日本政府からも「政治的殺害」について言及がなされ、正式な外交上の会談でフィリピン政府に「フィリピンの人権状況についての日本国内の強い関心」が伝えられた。しかし、フィリピンの市民活動家への深刻な人権侵害の状況は現在も一向に改善される兆しはなく、フィリピンの人権団体によれば、アロヨ政権下で起きた超法規的殺害の犠牲者数は、今年七月三十一日までで八百八十六名にも上っており、取組の有効性については疑問の声が挙げられている。フィリピン国内法(第六九八一号)に基づいた、犠牲者の家族や殺害事件の目撃者の適切な保護もなされていない状況が続いている。
 日本はフィリピンにとって、最大のODA供与国である。ODA白書によれば、二〇〇四年度の援助額は五十七億四千四百万円で、累積額は二兆四千五百二十一億円に上る。ODA大綱では、その援助実施四原則にもあるとおり、「途上国における民主化の促進」及び「基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払う」旨が明記されており、重大な人権侵害が行われている国への援助供与には慎重であるよううたっている。
 こうした状況を踏まえ、以下質問する。

一 本年七月、日比外相会談の場で、麻生外相(当時)が、「政治的殺害」について「事態解明に向けての一層の努力を要請した」ように、フィリピンにおける「政治的殺害」の問題は一向に解決しておらず、「殺害」は依然として続いている。そのような人権状況にあるフィリピンへのODA供与を現時点で進めることは、フィリピン政府に対し、日本政府が現在のフィリピンにおける人権状況に満足しているという誤った認識を与えるおそれがあるとともに、日本政府のODA大綱に反すると思われる。本年七月に日本政府はフィリピン政府との間で、無償資金協力二案件の交換公文に署名し、また、第二十七次円借款案件のうち二案件につき円借款供与を正式に決定(プレッジ)したが、現在のフィリピンにおける「基本的人権及び自由の保障状況」について、どのような認識を持ち、ODA供与の決定を下したのか、日本政府の見解を示されたい。

二 現在、対フィリピン第二十六次円借款パッケージのうち唯一交換公文が行われていない「アグノ川統合灌漑事業」については、同事業に反対していた農民リーダーが暗殺されるなどの人権問題のほか、様々な地元での環境・社会問題が未解決のままであると思われる。質問一にあるように、他案件については本年七月にODA供与プロセスが進められたにもかかわらず、同灌漑事業の円借款供与のプロセスについては進行していない。その理由を明らかにされたい。

三 本年十月五日、参議院本会議において、福田内閣総理大臣は、軍事政権による市民への弾圧が起きているビルマへのODAについて、「同国への経済協力を更に絞り込むことも検討」、すなわち、見直しを検討する旨、答弁しているが、政治的殺害が多発するフィリピンへのODA供与について、日本政府の見解を示されたい。

  右質問する。