質問主意書

第166回国会(常会)

答弁書


答弁書第六四号

内閣参質一六六第六四号
  平成十九年七月十日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員加藤修一君提出我が国の環境政策における予防原則と第三十四回主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)に向けた我が国主導による具体的な国際的環境保護施策の確立等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員加藤修一君提出我が国の環境政策における予防原則と第三十四回主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)に向けた我が国主導による具体的な国際的環境保護施策の確立等に関する質問に対する答弁書

一について

 第一の点については、各国が水銀の排出抑制等の措置をとることを担保する上で、条約等の法的拘束力のある枠組みはより効果的であり、これが実現可能であれば、我が国としても理想的であると考えている。今後、国際連合環境計画において、条約制定、自主的取組等の国際的な水銀対策の選択肢が検討される中で、我が国としては、多くの国の参加の下に効果的な対策がとられるような枠組みの確立に向け、国際的な議論に積極的に参加してまいりたい。
 第二の点については、水銀以外にも、鉛やカドミウム等の有害金属に関する国際的な対策について、国連環境計画等において議論されているところであり、我が国としても、今後ともこうした議論に積極的に参加してまいりたい。
 第三の点については、小児環境保健については、「子どもは小さな大人ではない」という認識の下、小児の環境リスク評価の取組を行ってきたところである。
 この結果、小児は有害な環境に対して大人とは異なる特有のばく露経路があること、成長の途上にあるため身体の機能が未熟であること等が明らかになってきた。化学物質のばく露など小児を取り巻く環境が小児の健康に与える影響について明らかにするには、疫学調査の推進が重要である。
 今後、小児環境保健疫学調査に関する検討会を開催し、疫学調査の実施に向けて検討を進めてまいりたい。
 第四の点については、御指摘の「子ども環境リスク削減法(仮)」については、まずは、小児の環境リスク評価に関する調査研究、情報収集を推進することが重要であると考えている。

二の1について

 予防的な取組方法の考え方については、平成十八年四月に、「予防的な取組方法の考え方に関する関係府省連絡会議」を設置し、国際的な議論の動向の把握等について情報交換等を行い、一定の整理を行ったところである。この結果を踏まえ、今後、個々の施策において、予防的な取組方法の考え方の反映を図ることとしている。

二の2について

 昨年八月に取りまとめられた「小児の環境保健に関する懇談会」の報告書において提言された今後の対応策と研究推進の方向性に基づき、環境省としては、小児を取り巻く環境と健康との関連性に関する疫学調査の推進を始め、小児等の脆弱性を考慮したリスク評価を行うための重点プロジェクト研究等を推進してまいりたい。
 関係省庁間の連携については、平成十七年十月に設置された「人体に影響のある化学物質に関する関係省庁連絡会議」等において、情報共有・連携が図られているところであり、今後とも連携を進めてまいりたい。

二の3について

 第三次環境基本計画においては、「SAICM」のドバイ宣言の指摘も踏まえ、今四半世紀における環境政策の具体的な展開の中で重点的に取り組むべき事項として、「化学物質による人への健康影響について、妊婦や胎児等の感受性の高い集団への影響について評価方法の開発を進める」ことが掲げられたところであり、また、本年六月に閣議決定された二十一世紀環境立国戦略の中で「小児等の脆弱性を含め、安全性情報の収集・把握及びモニタリングの強化」を図ることが明記されたことを踏まえ、環境省としては、更に積極的に小児環境保健に関する取組を進めてまいりたい。

三の1について

 御指摘のとおり、国連機関の環境機能強化は重要であり、機能の合理化・効率化等、改革のための行動を機敏に起こす重要性を認識している。我が国としては、環境分野における国連活動の一貫性と実効性を向上させるために、国連組織内のスクラップアンドビルドを念頭に、費用対効果や財政的裏付けを含め詳細に検討し、まずはUNEPの枠内で実施可能な方策を検討する必要があると考えている。いずれにせよ、我が国は、国際社会が地球環境問題に取り組むための体制強化に積極的に取り組んでいく所存である。

三の2について

 中国の環境問題は、我が国及び我が国を含む地域にも直接影響を及ぼし得る重要な問題であり、我が国としてもその動向を注視し、改善に向け種々の協力を実施してきている。
 本年四月、温家宝中国国務院総理の来日時に、環境保護分野での協力は、共通の戦略的利益に立脚した互恵関係の基本的内容として協力の重点分野に位置付けられ、「日中環境保護協力に関する共同声明」を発表した。
 今後とも、我が国の有する高い技術、知見、経験を生かしながら、環境分野において日中間で具体的にいかなる協力を行っていくかについて、御指摘の考え方も踏まえつつ、検討していく考えである。

四について

 地球環境問題は、人類の将来に直結する問題であり、我が国外交の重要課題の一つである。我が国は、国際的なルール作り及びODAを通じた環境分野での開発途上国支援を中心として、この問題の解決に積極的に取り組んでいる。御指摘の点も踏まえ、環境外交において、我が国がイニシアティブを発揮し続けていくため、今後とも鋭意努力してまいる所存である。

五の1について

 深刻な干ばつ又は砂漠化に直面する国(特にアフリカの国)において砂漠化に対処するための国際連合条約(平成十年条約第十一号)は、砂漠化の影響を受ける国が砂漠化等に対処するために国家行動計画を作成し及び実施すること、また、そのような取組を先進締約国、国際機関等が支援すること等を主な内容としており、締約国である中国にも適用されるが、同条約は化学物質による汚染等を対象とするものではない。

五の2について

 我が国への黄砂の飛来は例年四月にピークがあり、気象庁の全国九十八か所の観測によると、平成十九年は四月に延べ二百十日、五月に延べ二百二十四日、黄砂が観測された。
 環境省では、我が国に飛来する黄砂の物理的、化学的な性状を解明するため、黄砂のサンプリング調査を実施しており、平成十五年三月から平成十八年三月までの調査結果は次のとおりであった。
 (1)物理的性状としては、黄砂は、表面に凹凸がある非球形状の粒子であり、日本に飛来する黄砂の粒径はおおむね四マイクロメートル付近にピークをもつ分布であることが判明した。
 (2)化学的性状としては、黄砂が飛来していないときと比較して、黄砂飛来時には、浮遊粉じん中、アルミニウムやカルシウム等の鉱物由来と考えられる金属元素の濃度が高くなった。
 (3)大気汚染物質については、硫酸イオンやフッ化物イオン等の人為発生源由来の汚染物質を吸着したと考えられる黄砂もあったが、黄砂が飛来していないときと比較して、黄砂飛来時に汚染物質の濃度が高いとは言えず、黄砂による大気汚染への明らかな影響は確認できなかった。
 なお、黄砂の飛来形態は様々であり、また、右の調査期間中に大規模な黄砂の飛来がなかったことから、今後も調査を継続する必要があると認識している。

五の3について

 黄砂の及ぼす健康被害に関して、御指摘の中国及び韓国の報告は承知している。一方、黄砂の発生源から距離の離れた我が国においては、黄砂の健康被害に係る疫学的調査や研究はこれまでほとんど行われていない。このため、本年三月に開催された日中韓三カ国黄砂局長級会合における合意に基づき今後実施される黄砂対策に関する共同研究の中で、知見の集積に努めてまいりたい。

五の4について

 第一及び第二の点については、疫学的調査研究は、御指摘のとおり重要であるが、現在のところ、黄砂の健康影響に関する研究成果がほとんどない状況であることから、まずは文献調査等必要な知見の集積を図ってまいりたい。
 第三の点については、環境中の複数の種類の物質による複合影響としては、様々な場合を想定し得ることから、複合影響にかかるリスク分析の方法論について一概に論じることは困難であるが、花粉と大気汚染物質の複合影響や、同一の物質に水や大気等複数の経路を通じてばく露することによる影響(複数媒体影響)等について調査研究を行ってきており、それらの調査の結果、現在の我が国における一般的な大気汚染の状況がスギ花粉症を増加させるという明確な因果関係は認められていないことや、動物実験では、複数媒体ばく露により、単一媒体ばく露を上回る影響が観察される物質も存在すること等が明らかになっている。

五の5について

 海洋法に関する国際連合条約(平成八年条約第六号)では、第十二部において、海洋環境の保護及び保全に関する一般的義務を定めるとともに、海洋汚染防止に関する国際的な規則については汚染源ごとに別途定めることとしている。これに対応する形で、個別の国際約束が作成されており、例えば、船舶等からの投棄を防止する国際約束としては、廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(昭和五十五年条約第三十五号。以下「ロンドン条約」という。)等があり、海洋汚染の防止に関する様々な国際約束に基づき、各国が所要の国内措置を講じている。また、ロンドン条約等の海洋汚染の防止に関する国際約束の締約国会合や我が国、中国、韓国及びロシアが参加する北西太平洋地域海行動計画(North-West Pacific Action Plan, NOWPAP)等の活動を通じて、海洋汚染等に関する情報の共有を図っているところである。いずれにせよ、我が国としては、これらを含む様々な枠組みを通じて環境の保全に係る国際社会のルール作りに積極的に関与していく所存である。

五の6について

 黄砂については、我が国としても防護林の植林支援等による対策に引き続き取り組んでいくとともに、酸性雨等の越境大気汚染については、我が国を含む東アジア諸国の間で東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)を通じたモニタリング及び情報交換を実施している。また、これらの諸国の間で、同ネットワークの設立基盤を強化すべく、必要な合意文書の作成について議論を進めているところである。

六について

 海岸については、海岸法(昭和三十一年法律第百一号)第二条の二の規定により定められた海岸保全基本方針において、国民共有の財産として「美しく、安全で、いきいきした海岸」を次世代へ継承していくことを海岸保全の基本的な理念とし、その環境の整備及び保全等を図ってきているところである。また、海岸整備等を実施する上での長期計画である「社会資本整備重点計画」(平成十五年十月十日閣議決定)に基づき、動植物の生息生育環境の保全、親水空間の創出に配慮した養浜や人工リーフ等の海岸保全施設の整備など、防護・環境・利用の調和のとれた海岸づくりを推進してきているところである。
 さらに、平成二十年度を計画初年度とする次期の「社会資本整備重点計画」の策定に向けて、所要の調査の実施を含めて、より一層の防護・環境・利用の調和のとれた海岸づくりを推進するための施策等の検討を進めているところである。

七の1及び2について

 政府は、気候変動による悪影響への適応を含む地球規模の問題への取組を政府開発援助(ODA)の重点課題の一つとするなど、これまで、民間部門の活動もいかしつつ、ODA等の様々な政策手段を通じて、開発途上国における気候変動対策を積極的に支援してきている。こうした分野に係る開発途上国に対する今後の支援の在り方については、御指摘の点や、先般、安倍内閣総理大臣により表明した気候変動に関する提案「美しい星50」も踏まえつつ検討していく考えである。

八の1について

 ヘッジファンドについては市場の効率性に貢献する一方、その活動の拡大に伴う、潜在的なリスクもあると認識しており、政府としては、先のハイリゲンダム・サミット首脳宣言で示されたように、ヘッジファンド業界による健全な実務慣行の強化や、ヘッジファンドの取引の相手方となる金融機関等によるリスク管理の強化、各国監督当局間の協力等を通じて、適切に対応していく必要があると考えている。

八の2について

 お尋ねにある「通貨取引税」は投機的な為替取引に課す税と考えるが、このような税については、二千一年にフランス、二千四年にベルギーで、他のすべての欧州連合加盟国での実施を条件として施行する旨の立法がなされているが、実施はされていないものと承知している。また、お尋ねにある「国際連帯税」はいわゆる航空券課税と考えるが、この航空券課税については、航空券課税により得られた資金を配分するユニットエイドによれば、フランスを含む二十八か国が導入している又は導入を表明していると承知している。

八の3及び4について

 お尋ねはいわゆるトービン税に係るものと考えるが、このトービン税については、従来から、サミット財務大臣会合や経済協力開発機構において、課税の効果に対する疑問や、様々な実務上の問題点が指摘されている。例えば、二千一年のG7財務大臣から首脳への報告「国際金融システムの強化及び国際開発金融機関」では、トービン税の提案について、①市場の流動性を制約することによって、市場の変動を抑制するよりもむしろ増大させる可能性があること、②大きな為替の評価減が予測される中で生じる突然の資本流出に対しては、重く課税したとしても、信頼に足る防御になる可能性は低いこと、③投機的な資本移動とその他の短期の貿易金融などを含む取引とを区別することは不可能である、それゆえ、トービン税は国際的な資本移動に重大なゆがみを生じさせ、資本形成率と成長率を低下させるであろうこと、④租税回避を誘発する可能性が高いこと及び⑤グローバルな執行が困難なため、トービン税は資本移動をより規制の少ない地域に向かわせ、国際金融システムの不安定性を増大させるおそれがあること、といった問題点が指摘されている。
 政府としては、こうした指摘を踏まえ、トービン税の導入については、仮にある程度の税収が見込まれる場合であっても、慎重な検討が必要と考えている。

八の5について

 政府としては、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成のためには、民間資金を含めた幅広い開発資金の動員が必要と認識しており、そのためのフランスの取組に注目している。ただし、開発資金の調達については、各国がそれぞれ可能な形で手当てすることが適当と考えている。

八の6について

 政府としては、「美しい星50」の中で、温室効果ガスの排出の抑制と経済成長を両立させようとする志の高い開発途上国を広く支援するため、単に従来行っている途上国支援の資金を振り向けるのではなく、ある程度の長期で相当規模の新たな資金メカニズムの構築を検討し、他の先進国や国際機関にも同調を呼びかけ、国際的に協調して行うことを提案したところである。政府としては、その具体化に向け、検討を進めていく考えである。