質問主意書

第166回国会(常会)

答弁書


答弁書第五六号

内閣参質一六六第五六号
  平成十九年七月六日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員福島みずほ君提出ウラン兵器禁止及び同兵器が使用されたイラクの地域への医療支援等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員福島みずほ君提出ウラン兵器禁止及び同兵器が使用されたイラクの地域への医療支援等に関する質問に対する答弁書

一の1について

 劣化ウランは、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号)第二条第二項に規定する「核燃料物質」に含まれるものとして、同法による規制の対象となっている。
 劣化ウランが人体の健康に及ぼす影響については、放射線の影響と重金属毒性の二つに分けられる。放射線の影響については、体の外からの影響は一般的に小さいと考えられ、劣化ウランを体内に摂取し、体内に留まるような場合には、内部被ばくによる影響の可能性が考えられる。また、重金属毒性については、劣化ウランが体内に摂取され、吸収されるような場合には、化学的毒性による影響の可能性が考えられる。

一の2、3、5、6、8及び9について

 劣化ウラン弾の影響による健康被害等についてはお尋ねにあるイラク等での人体への影響調査を含め、国際機関による調査等が行われているが、これまでのところ国際的に確定的な結論が出されているとは承知していない。我が国としては、関係の国際機関等の動向を注視しているところであり、現段階では、お尋ねにあるような規制を行う等の政策を行う考えはない。

一の4について

 ベルギー王国政府は、国際機関における調査等において劣化ウラン弾が健康被害をもたらすという有力な証拠は確認されておらず、また、科学的な証拠が存在しないことから劣化ウラン弾禁止について国際的なコンセンサスは存在しないとの立場であると承知している。
 「千九百三十三年の武器に関する法律の修正法案」が本年四月十八日にベルギー王国において成立したことは承知している。他方、同法案は官報掲載から二年後に発効する旨規定されており、ベルギー王国政府は、同期間に、劣化ウラン弾の健康被害等に関する国際的な科学調査の進展を注視する立場であると承知している。

一の7について

 「イラクの環境に関するデスク・スタディ」は、国際連合環境計画(以下「UNEP」という。)の関係者がイラク国外において机上研究の一環として行った調査に基づくものであると承知している。
 イラクにおける劣化ウラン弾の使用による環境及び健康への潜在的リスクに関する同スタディの記述は、UNEPがバルカンで行った調査結果に基づくものであり、同スタディにおいて、イラクにおける劣化ウラン弾の使用による健康リスクに関しては、イラクにおいて別途の調査が行われることが重要である旨指摘していると承知している。
 また、UNEPは、同スタディにおいて、劣化ウラン弾等使用による環境への汚染のレベルや影響については明らかではないと説明していると承知している。
 こうした点も踏まえ、我が国としては、劣化ウラン弾の使用の影響による健康被害等については、国際機関等による調査の動向等を引き続き注視していく考えである。

一の10について

 国際連合人権委員会の下に設けられていた差別防止・少数者保護小委員会が、千九百九十六年八月二十九日に劣化ウランを含む兵器等、大量破壊兵器又は無差別に影響を与える兵器の製造及び拡散を制限するよう各国に求めること等を内容とする「人権、特に生命に対する権利の享受のための必須条件としての国際平和と安全に関する決議」を採択し、同決議をフォローアップするものとして、千九百九十七年八月二十八日には「人権、特に生命に対する権利の享受のための必須条件としての国際平和と安全に関する決議」を、また、二千二年八月十二日には「人権と大量破壊兵器又は無差別に影響を与える兵器、或いは不必要な傷害又は苦しみを与える兵器に関する決議」を採択したことは承知している。
 また、二千二年十月二十八日の「戦争と武力紛争による環境収奪を防止する国際デー」に際し、アナン国際連合事務総長(当時)が声明を発出し、「劣化ウラン弾のような新技術が、環境に対し現時点では解明されていない脅威を与えている」旨述べたことは承知している。
 これらは、いずれも劣化ウラン弾の影響による健康被害等につき必ずしも確定的な結論を述べたものではないと承知している。

二について

 昭和三十七年四月四日の原子力委員会決定では、我が国から外国に供給する核原料物質等が、平和目的に限って利用されることを確保することが必要であるとされている。
 このため、政府としては、我が国から外国に移転される核物質については、濃縮により生じた劣化ウランも含め、移転先国政府から平和的利用の保証を得ている。

三の1及び2について

 本年一月二十六日に行われた第百六十六回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説で述べたとおり、政府としては、非政府組織(以下「NGO」という。)とも連携した政府開発援助の活用等により、イラク支援を進めていく方針である。御指摘の医療支援についても、この方針にのっとり、NGOからの具体的な申請に基づき検討していく考えであり、現段階で具体的なスケジュール等が確定しているわけではない。

四の1、2及び3について

 アメリカ合衆国軍は、平素より即応態勢を維持するため、緊急事態に備えて、種々の装備、物資を保有しており、劣化ウラン弾についても、このような観点から我が国における一部の施設及び区域に保管されているものと承知しているところであるが、劣化ウラン弾の保管が、保管場所における火災の可能性を含め様々な状況を想定して厳重に行われるべきことは当然であり、政府としては、アメリカ合衆国政府に対し、劣化ウラン弾の管理に万全を期すよう求めてきているところである。これに対し、アメリカ合衆国側からは、劣化ウラン弾については、厳重な管理基準の下、安全な管理に万全を期しており、訓練においては劣化ウラン弾は使用されていないとの説明を受けていること等から、劣化ウラン弾について、その保管場所等を聴取したり、その撤去を申し入れる等、現時点で、新たな措置をとる必要があるとは考えていない。