質問主意書

第166回国会(常会)

答弁書


答弁書第四三号

内閣参質一六六第四三号
  平成十九年六月一日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員福島みずほ君提出一九九七年六月八日のJAL七〇六便事故についての事故原因究明に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員福島みずほ君提出一九九七年六月八日のJAL七〇六便事故についての事故原因究明に関する質問に対する答弁書

一について

 お尋ねの点については、運輸省航空事故調査委員会(現在の国土交通省航空・鉄道事故調査委員会。以下「委員会」という。)が、平成九年六月八日の日本航空株式会社所属ダグラス式MD―一一型JA八五八〇が三重県志摩半島上空を飛行中に発生した航空事故(以下「本件事故」という。)について作成した航空事故調査報告書(以下「報告書」という。)の第4「原因」において、「急激なピッチ・アップが発生し、その後もピッチ変動が繰り返されたことについては、MD―一一型機の自動操縦装置の特性並びに同型式機の縦安定特性及びピッチ変動が発生した際の回復操作に関し、操縦士が十分に習熟することができなかったことが関与した可能性が考えられ」と明記しているところである。

二について

 委員会は、本件事故の調査の過程において、機体のピッチが反復して大きく上下に変動したのは、自動操縦装置が切れた後、操縦士が反復して操舵を行った結果、いわゆるPIO(Pilot Induced Oscillation)に陥ったことが関与した可能性が考えられたことから、同様の現象による事故を防ぐため、平成九年九月五日付けで当時の運輸大臣に対して、御指摘のように建議したものである。
 この機体のピッチが反復して大きく上下に変動した原因の調査については、報告書の別添2に記載されているとおり解析が行われている。
 また、同建議を受け、運輸省航空局(現在の国土交通省航空局。以下「航空局」という。)は、平成九年九月八日に、日本航空株式会社に対し、MD―一一型機の自動操縦装置の特性に関する操作上の注意事項を再度周知徹底するよう指導するとともに、日本航空株式会社を含む国内の定期航空運送事業者八社及び国際不定期航空運送事業者一社に対し、運航するすべての型式の航空機の自動操縦装置の特性についての教育訓練の見直しと充実を図るよう指導している。
 また、同建議において、御指摘の「機体特性の設計」についてMD―一一型機に耐空性を損なう欠陥があったとの指摘はされておらず、また、委員会の調査の結果、報告書においてもそのような結論は出ていないことから、政府としては「機体特性の設計」に問題があったとは認識していない。
 同建議及び航空局の指導を受け、本件事故後にMD―一一型機の製造会社及び運航会社により講じられた措置は、報告書の別添十一―三に掲載されているとおりであるが、これらの措置は同建議の内容に対応した再発防止策として、必要かつ十分なものであったと考えている。

三について

 御指摘の研究報告については、政府として承知しておらず、それによる評価についてお答えする立場にない。

四、七及び十について

 委員会は、慣性基準装置(以下「IRU」という。)により計測された、加速度データ(以下「Gデータ」という。)を含め、調査の過程で入手したデータのうち、事故原因を究明するために適切と考えられるものに基づいて報告書を作成しているところであり、政府としては、十分な事故調査が既に行われていると考えており、再調査する必要があるとは考えていない。

五及び九について

 操縦室における垂直加速度については、委員会は、IRUにより計測されたGデータを含め、調査の過程で入手したデータのうち、一秒間に記録する回数の多いデジタル式飛行記録装置(DFDR)に記録されていたGデータに基づいて計算し推定したものが精度が高く、事故原因を究明するために適切であると考えたことから、これに基づいて報告書を作成したところである。
 また、委員会は、IRUにより計測されたGデータを含め、調査の過程で入手したデータのうち、事故原因を説明するために適切と考えられるもののみを報告書に掲載し、公表しているところである。

六及び八について

 お尋ねについては、承知している。

十一について

 御指摘の「この推定結果には位相に関して考慮されていないという初歩的な欠陥が指摘されている」が具体的に何を指すのか明らかではないため、お尋ねについてお答えすることは困難である。
 なお、委員会は、調査の過程で入手したデータのうち、事故原因を究明するために適切と考えられるものに基づき適切と考えられる方法により、操縦室における垂直加速度を推定しているところであり、政府としては、その推定結果は十分信頼できるものと考えている。

十二について

 委員会は、MD―一一型機の自動操縦装置の設計変更の検討を含め、所要の処置をMD―一一型機の製造会社に講ぜしめるよう、当該製造会社を監督する米国の連邦航空局に対して勧告しているが、米国の連邦航空局は、検討の結果、当該自動操縦装置の設計変更の必要はないとの結論に達しており、政府としては、当該設計変更は行われていないものと認識している。
 また、航空機の設計改善に係る耐空性改善通報は、航空機の製造会社を監督する国の航空当局が国際民間航空条約の規定に従って各国に通知した航空機の耐空性を継続するための情報(以下「AD」という。)について、各国の航空当局が当該航空機を使用する事業者等へ周知するものであり、MD―一一型機の製造会社を監督する米国の連邦航空局から、当該設計変更に係るADが発行されていないことから、航空局は、耐空性改善通報を発出していない。

十三について

 御指摘の提案については、政府として承知しておらず、お答えする立場にない。

十四について

 委員会は、報告書にあるとおり、御指摘の「スポイラー展開と振動との因果関係」を考慮するまでもなく、「コントロール・コラムに加えられた機首上げ及び機首下げ方向の操縦入力と同機の縦安定特性の相互関係が、機体のピッチ変動を持続させる状態で継続したことによりピッチ変動が繰り返された」と推定できており、お尋ねについては、調査を行っていない。

十五について

 お尋ねの本件事故時に日本国内で登録されていたMD―一一型機十機についての購入価格については、航空会社等民間企業の経営情報に関わることであり、政府としてお答えする立場にないが、登録記号、登録年月日及び所有者は次のとおりである。
 登録記号八五八〇 平成五年十一月三十日 ダイヤモンドリース株式会社、三和ビジネスクレジット株式会社、長銀インターナショナルリース株式会社及び日航リース株式会社
 登録記号八五八一 平成五年十二月九日 芙蓉総合リース株式会社、ケーシーエスリース株式会社、三井リース事業株式会社及び日航リース株式会社
 登録記号八五八二 平成六年四月五日 日本航空株式会社
 登録記号八五八三 平成六年八月二十三日 ダイヤモンドリース株式会社、三和ビジネスクレジット株式会社、長銀インターナショナルリース株式会社及び日航リース株式会社
 登録記号八五八四 平成六年九月十六日 興銀リース株式会社、住商リース株式会社、オリックス株式会社、たくぎんリース株式会社、住信リース株式会社及び日航リース株式会社
 登録記号八五八五 平成七年四月二十日 ダイヤモンドリース株式会社、オリックス・エアクラフト株式会社、三和ビジネスクレジット株式会社及び日航リース株式会社
 登録記号八五八六 平成七年四月十一日 日本航空株式会社
 登録記号八五八七 平成七年六月三十日 ダイヤモンドリース株式会社、芙蓉総合リース株式会社、クリエイトファイナンス株式会社、株式会社日本リース、長銀インターナショナルリース株式会社及び日航リース株式会社
 登録記号八五八八 平成八年四月五日 ダイヤモンドリース株式会社、三和ビジネスクレジット株式会社、長銀インターナショナルリース株式会社、株式会社日本リース、セントラルリース株式会社及び日航リース株式会社
 登録記号八五八九 平成九年三月七日 ダイヤシリーン有限会社、有限会社ジェーエルソレイユリース、ウラヌス・リース有限会社、鶴鵬有限会社、エルシーエルロータス有限会社及びハニカムリーシング有限会社

十六から十八までについて

 お尋ねの本件事故当時に日本国内で登録されていたMD―一一型機十機についての売却時期、売却相手、売却価格、売却後の使用目的及び売却理由については、航空会社等民間企業の経営情報に関わることであり、政府としてお答えする立場にない。また、当該航空機の売却は、航空会社等民間企業の経営判断によるものであり、国の指示によるものではない。なお、政府としては、事故機を含むMD―一一型機に欠陥があったとは認識していない。

十九について

 政府としては、事故機を含むMD―一一型機に欠陥があったとは認識していない。
 また、報告書において、事故機に「急激なピッチ・アップが発生し、その後もピッチ変動が繰り返されたことについては、MD―一一型機の自動操縦装置の特性並びに同型式機の縦安定特性及びピッチ変動が発生した際の回復操作に関し、操縦士が十分に習熟することができなかったことが関与した可能性が考えられ」るとされているが、この点については、本件事故発生後から、MD―一一型機の製造会社及び運航会社による再発防止策が実施されており、必要な措置は講じられていたと承知している。