質問主意書

第166回国会(常会)

質問主意書


質問第七七号

電磁波対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年七月五日

紙 智子   


       参議院議長 扇 千景 殿



   電磁波対策に関する質問主意書

 技術革新の進展、中でも新しい通信技術の開発とともに、生活環境中には送電線や家電製品といった超低周波電磁界のものから、携帯電話など高周波電磁界のものまで多種多様な電磁波発生源が日々増加している。こうした電磁界の健康への影響については一九九〇年代以降、各国の疫学研究が送電線付近の住民に小児白血病が増加することを報告し、WHO(世界保健機関)も一九九六年から調査研究「国際電磁界プロジェクト」を開始、二〇〇一年にはWHOの研究機関であるIARC(国際がん研究機関)が超低周波磁界を「人間にとって発がん性があるかもしれない(グループ2B)」に分類している。さらにWHOは二〇〇五年、「皮膚症状、神経衰弱症、自律神経系症状」などの特徴をもつ「電磁波過敏症」の存在を「症状が電磁界曝露と関連するような科学的根拠はない」としつつも公式に認めた。WHOは先月中旬、これまでの疫学研究結果を支持し、これらの確立した電磁波の急性影響と同様に慢性影響の存在の疑いがあることから、予防的アプローチが必要とし各国に対策を求めた。
 そこで、我が国の電磁波をめぐる現状及び今後求められる対策等について質問する。

一 電磁界・電磁波をめぐる我が国の現状について

1 各省庁の研究実績について
 電磁界についての行政対応は、対象周波数、対象環境によって、また電磁界曝露による健康影響、環境影響等により、経済産業省、総務省、厚生労働省、環境省、文部科学省等がそれぞれ所掌し、また調査研究を行っている。そこで、これまで電磁界・電磁波研究に対し各省が研究費を支出した研究実績について、各省庁の各研究ごとに、研究開始年度・終了年度、研究名、研究機関、研究者名、役職名、研究費をすべて示されたい。また、すでに各省庁で決定している次期研究があれば示されたい。さらに、各省横断的に行っている調査研究があれば同様に示されたい。
2 電磁界・電磁波対策について
(一) 国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)は一九九八年に電磁界への曝露限界を定めるガイドラインを定めている。この国際基準、もしくは前記研究に基づいて各省が作成した超低周波・高周波の電磁波・電磁界の基準、規制値について示されたい。また我が国の規制値、基準値より厳しい値を採用している国や地域があれば示されたい。
(二) 政府は一九九六年度から電磁界関係省庁連絡会議を設置しているが、その設置目的及び会議がこれまでにとった対策を年度ごとに示されたい。
3 電磁界・電磁波に係る問題をめぐる支障、訴訟について
(一) 総務省は平成十七年四月二十六日塩川鉄也議員の質疑に対し、「携帯基地局の建設をめぐって周辺住民と携帯電話業者との話し合いがスムーズに進んでいないケースが平成十七年三月末現在、二十件程度」と答弁している。この数を年度別、自治体別に示されたい。また、総務省は紙智子事務所に対し、近年トラブルが増加傾向にあると説明しているが、現状の件数も同様に示されたい。
(二) 携帯電話事業者が携帯基地局建設に際して、周辺住民から電磁界に関する健康影響、もしくは景観等の理由により訴訟及び調停申し立てがあった件数はそれぞれ何件か。そのうち係争中のものは何件か(一)と同様に示されたい。
(三) 経済産業省は平成十九年五月二十五日岩國哲人議員の質疑に対し、「電力会社が、送電線、変電所、配電線の建設等に際して地域住民などと電磁界に関する健康影響等の理由により訴訟及び調停申し立てがあった件数は平成九年度から現在までに十八件あり、現在も係争中のものは二件と電力会社から承っている」と答弁している。家電製品(電子レンジ、IH器具を含む)からの電磁波に関連して健康影響等の理由による訴訟、調停申し立て件数を(一)と同様に示されたい。

二 今後の電磁波対策について

1 超低周波電磁界及び家電製品について
 今回のWHOの勧告を受けた今後の超低周波電磁波対策について送電線、家電製品等をそれぞれ示されたい。また超低周波以外の電子レンジ・IH器具対策についても示されたい。
2 高周波電磁界の携帯電話基地局について
(一) WHOはすでに二〇〇〇年のファクトシートNo.一九三「携帯電話とその基地局」において、「基地局の設置に関する地域との話し合い」を提起し、「立地決定には景観や住民感情に留意するべきで、幼稚園、学校、遊び場の近くに基地局を選ぶ際には特別な配慮が必要」と指摘している。しかしながら、現状では依然として住民への説明を行わない携帯電話事業者や、説明会を開催したという事実だけで住民の反対を押し切って建設を強行する例も少なくない。総務省は二〇〇四年から携帯電話事業者に対し近隣住民に理解を得るよう努力を要請する文書を発出しているが、法的強制力がないことから事態は変わっていない。総務省として、事業者に対する現状の対応が適切かどうか、認識を示されたい。
(二) 今後、トラブルや訴訟をできるだけ回避するために、総務省として携帯基地局の新設、改変について事業者向けのガイドラインを作成すべきではないか。その内容として、最低限、事前の住民説明会開催の義務化、建設・改変前の住民同意、標識の設置などを明確にすべきではないか。
(三) 我が国では携帯電話基地局の設置場所、事業者名、周波数などは総務省サイト内の「無線局免許情報検索」でインターネット公表されているが、位置情報については無線局の物理的な破壊活動の誘発、営業情報保護、プライバシー保護などを理由に市町村名までとなっている。しかしながら、諸外国では米国、英国、ドイツ、フランス、アイルランド、オランダ、オーストリア、イスラエルが基地局情報等のインターネット公表を行っており、基地局アンテナの位置を地図上に表示することも可能である。今回のWHO勧告では政府や事業者に超低周波電磁界の積極的な情報公開を促している。総務省として携帯電話基地局についても住民が情報にアクセスしやすいよう位置情報を含め全面的に公開すべきではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。
3 送電線を利用した高速電力線通信が実用化されたが、使用周波数帯の現状を示されたい。また短波放送、アマチュア無線との混信、家電製品への影響、被曝量の増加が懸念されているが、実態把握及び対策を示されたい。
4 WHO勧告では、電磁波をめぐる政策決定に地域住民を含むすべての利害関係者を関与させるべきと提起しており、今後、超低周波電磁波対策を始め、携帯電話等高周波電磁波対策についても、専門家、医師を始めこの問題に関心のある市民を関与させるべきと考えるが政府の見解を示されたい。

三 電波防護指針、研究体制の見直し及び予防原則の徹底について

1 EUの出資のもとにEU七カ国、十二研究所が共同研究したREFLEXプロジェクトは二〇〇四年、培養細胞に電磁場を曝露したところ、携帯電話(高周波)でも低周波磁場でも培養細胞のDNAが切断されたという研究結果を発表している。その内容は、現在の電波防護指針の局所SARの許容値2W/kgよりかなり低いSARレベルでDNAの損傷が増加し、染色体レベルの異常が生じたもので、現在の電波防護指針以下の曝露でも細胞に遺伝子損傷等の影響があり得ることを示したものである。政府はこの研究結果をどう受け止めるか。電波防護指針が依拠しているICNIRPガイドラインは電磁波の急性影響を防護する基準であり、今回WHOが慢性影響を示唆したことから、これらEUの研究成果にも鑑み、電波防護指針見直しを検討すべきではないか。政府の見解をそれぞれ明らかにされたい。
2 REFLEXプロジェクトはEUの出資で行われた共同研究であり各国政府及び行政機関から独立した研究プロジェクトである。これに対し総務省の生体電磁環境研究推進委員会の調査研究は「特定の省庁の権益、利害関係からの独立性を有していない」との批判がある。こうした批判をどう受けとめるか。また今後、電磁界・電磁波研究について行政機関からの科学的独立性が担保される体制を政府として検討すべきではないか。政府の見解を示されたい。
3 WHOでは今回の勧告以前の各ファクトシートにおいても電磁波対策について予防的アプローチの重要性を指摘している。予防的アプローチについての政府の所見、また予防的アプローチによりとりわけ子ども、高齢者等に配慮する必要性について、政府の見解を示されたい。

  右質問する。