質問主意書

第166回国会(常会)

質問主意書


質問第七〇号

朝鮮・韓国人軍人・軍属の遺骨問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年七月四日

岡崎 トミ子   


       参議院議長 扇 千景 殿



   朝鮮・韓国人軍人・軍属の遺骨問題に関する質問主意書

 日韓両国政府が取り組んでいる朝鮮・韓国人軍人・軍属の遺骨返還は歴史的に重要な意義があるが、日本政府において解決を迫られている問題も多い。今年一月、韓国メディアが、「日本の強制動員韓国人遺骨、偽物と確認」(YTNTV一月十五日)、「日本祐天寺の徴用韓国人遺骨、一部が『でたらめ』」(東亜日報一月十六日)等と報道した。また、千鳥ヶ淵戦没者墓苑には朝鮮人についての銘記がなく、韓国人の遺骨を故意に収集せず、現地に放置したと誤解する人々がいる。「偽物」、「故意に放置した」等の遺骨に関する誤解を解き、遺族の心情に配慮した遺骨返還となるように、政府は全力を挙げなければならない。
 以下、朝鮮・韓国人軍人・軍属の遺骨問題について質問する。

一 祐天寺の遺骨返還について

1 祐天寺にある遺骨の状況について
 祐天寺の遺骨について、預かっている遺骨の総数、そのうちの兵士の遺骨数、軍属の遺骨数、「旧民間徴用者」の遺骨数を明らかにされたい。また、その本籍が韓国のものの数、朝鮮民主主義人民共和国のものの数、さらに、そのうち遺族が判明しているものの数を、それぞれ明らかにされたい。
2 「韓国人遺骨、偽物」報道について
 前記の報道によれば、今年一月、韓国政府の調査によって、遺骨名簿に名前がある七人が生還していたことが明らかになった。
(一) 七人が生還していたことは事実であるか明らかにされたい。
(二) 事実であるならば、このようなことが起きた理由、さらに、七人が死亡したとされた状況について、それぞれ明らかにされたい。また、この件に関し、韓国政府とどのような協議をしたのか。その後の経緯について明らかにされたい。
(三) 祐天寺には浮島丸事件の遺骨二百八十体が安置されているが、浮島丸事件訴訟中の遺骨返還についての訴外協議(一九九五年)において、遺骨は、死亡者の数五百四十九人(朝鮮人五百二十四人、日本人乗組員二十五人)に「分骨」したものであると説明した。今回の遺骨返還に当たり、政府は遺族に対して、このような遺骨の状況について説明し理解を求める必要があったと考えるが、政府は、遺族に対しそのような説明を行っているか明らかにされたい。
(四) 前記の韓国の報道により、日本の信用は著しく失墜したが、政府は国民に何の説明もしていない。大多数の国民は、このような報道があったことを何も知らず、政府の対応も知らない。もし韓国人からこの件について問われた場合、日本人は何も答えられない。このようなことでは、未来志向の遺骨返還にはならず、韓国人遺族と国民の不信が増すことになる。政府は国民に対し積極的に説明すべきだと考えるが、見解を明らかにされたい。
3 浮島丸事件の遺骨について
(一) 一九九二年に国に対し、公式陳謝と賠償を求めて提訴した浮島丸事件訴訟では、翌一九九三年に遺族が遺骨返還を求めて追加提訴し、国との間で訴外協議が行われた。一九九五年の訴外協議は、国が謝罪を拒否したことなどで決裂し、裁判に戻った。その後、国は裁判で遺骨返還を認めたものの、遺族たちは、謝罪のない遺骨の受取りを拒否したと京都新聞が報じたが、それは事実であるか明らかにされたい。
(二) 前記の訴外協議で、遺族たちは遺骨収集の経緯を文書で説明するように求め、国は前向きに検討すると応じたと聞くが、それは事実であるか明らかにされたい。
(三) 浮島丸事件については、大量虐殺の疑惑が持たれていることでもあり、浮上した遺体の仮埋葬と、二回にわたって行なわれた船体引上げ、遺骨収集については、文書により遺族に説明すべきである。そうでなければ、死亡者数について遺族の理解は得られないであろうと考えるが、政府の認識を示されたい。
4 慰霊祭について
(一) 祐天寺の遺骨返還に当たっては、日本国内において慰霊祭を日本政府の責任において執り行うことが必要と考えるが、政府の認識を示されたい。
(二) 遺骨返還に当たっては、遺族の心情と韓国の国民感情への配慮が不可欠であり、日本国民の追悼の気持ちが伝わるようにしなければならない。そのためには、政府は、慰霊祭に遺族を招へいし、尊い命を失わせてしまったことへの謝罪と哀悼の意を表明すべきであると考えるが、政府の認識を示されたい。
(三) 慰霊祭には内閣総理大臣を始め関係大臣とともに、なるべく多くの市民と在日韓国・朝鮮人が参列できるようにしなければならないと考えるが、政府の認識を示されたい。
(四) 遺骨返還と慰霊祭は、死亡者一人一人を追悼できる慰霊祭でなければならない。そのためには、返還される遺骨について、出身地、生年月日、動員年月、死亡年月日、死亡した場所、所属部隊名、陸海軍いずれの兵士か軍属かなど死亡者の情報等が遺族に説明され、日本国民にも明らかにされなければならないと考えるが、政府の見解を示されたい。
5 遺族に対する記録の提示と説明について
 日本政府は、韓国政府に日本政府作成の留守名簿(陸軍)や海軍軍属身上調査票等の個人資料を渡しているが、遺族はこれらを受け取っても、記載されている事項の意味が分からないとの声がある。死者に対する責任を果たし、遺族の心情に配慮した遺骨返還のためには、以下の記録を提示し遺族に説明すべきであると考える。
(一) 政府の責任で「在隊の記録」を作成翻訳し、遺族一人一人に提示すべきであると考えるが、政府の認識を示されたい。
(二) 留守名簿(陸軍)や海軍軍属身上調査票等について、日本政府として翻訳し、遺族に説明が必要であると考えるが、政府の認識を示されたい。
(三) 遺骨が祐天寺に安置されるまでの経緯の記録は存在するのか、明らかにされたい。また、それらの記録が存在するならば、翻訳して遺族に渡すべきと考えるが、政府の認識を示されたい。
6 葬祭料について
(一) 日本の戦争で亡くなった方の遺骨を、葬祭料も付けずに返すような非礼な行いは、日本の文化にはない。遺骨を受け取った遺族の葬祭費用は、日本政府が弔意として負担すべきものと考えるが、認識を示されたい。
(二) 韓国人BC級戦犯の遺骨返還に当たり、厚生省は遺族に三十万円を渡した前例もある。政府はこの事実を認識しているか明らかにされたい。
7 供託金資料の提示について
 政府は朝鮮・韓国人戦死者、戦傷死者のほとんどに、遺族扶助料や未払給与等を算定し供託した。したがって、この度遺骨が返還される人々についても、その多くに供託金があると思われる。しかし、日本政府は、請求権協定において供託金を公表せず、その支払いについて韓国政府との間で何らの取り決めもなさないまま供託金を消滅させてしまった。そのため、遺族たちのほとんどは、遺族扶助料等の算定を全く知らなかったのである。二〇〇六年、韓国政府が供託金の支払いを含む支援法案を国会に提出し、遺族たちが初めて供託金のことを知るようになった。しかし、大半の遺族が未だ供託金額が分からない状況である。日本政府に問い合わせて、供託金額を確認した遺族もいるが、同じ戦死者でも、供託金額には数倍もの開きがある。また、戦前に遺族扶助料等が支払われた場合は供託金がないが、遺族たちはどうしてこのような違いがあるのか、全く分からないでいる。一部の遺族は、これらを記した供託金台帳と思われる資料を韓国政府から提示されている。しかし、日本語で書かれた資料を遺族が理解することはできない。日本政府はこれらの資料や、供託金についての説明を韓国政府に任せているようだが、他国政府が算定したものを、遺族に合理的に説明することの困難さは、察して余りあるものである。
 今回の遺骨返還に当たっては、供託金資料を提示し、日本政府が説明すべきであると考えるが、政府の認識を示されたい。

二 千鳥ヶ淵戦没者墓苑について

1 遺骨のない遺族に対する説明について
 朝鮮人兵士と軍属の総数は約二十四万人であり、そのうち約二万二千人が「戦没者」である。これまでに収集された遺骨は合計すると、遺髪、遺爪等を含めても約一万二千百体である。つまり、半数近くの約一万体の遺骨は、海に眠るか、戦場に残されたと考えられる。このように遺骨のない遺族に対して、日本政府はどのような説明をしてきたのか。また、今後どのように説明するのか、それぞれ明らかにされたい。
2 「同胞」や「日本人」の遺骨収集について
 第十三回国会において、衆議院は「海外諸地域等における戦没者の遺骨収容及び送還等に関する決議」、参議院は「戦没者の遺骨収容並びに送還に関する決議」を行ったこと等により、海外各地で戦没者の遺骨収集が行われている。収集された遺骨の中には、日本人の遺骨とともに多くの朝鮮人、台湾人の遺骨が含まれているものと考えられるが、政府の認識を示されたい。
3 千鳥ヶ淵戦没者墓苑における朝鮮人・台湾人についての銘記について
 一九五九年には千鳥ヶ淵戦没者墓苑が竣工し、氏名を判別できない遺骨を日本人の遺骨として千鳥ヶ淵に埋葬したが、朝鮮人・台湾人については何も銘記されていない。朝鮮人・台湾人についての銘記が必要だと考えるが、政府の認識を示されたい。
4 朝鮮人・台湾人の慰霊碑建立要求について
(一) 韓国政府は千鳥ヶ淵に韓国人の銘記と、慰霊碑の建立を求めていると聞くがそれは事実であるか明らかにされたい。
(二) 中部太平洋のギルバート諸島では、タラワ島に約四千四百人、マキン島に約千三百人の日本軍が投入され、両島を合わせ約五千五百人が戦死した。相当数の朝鮮人が海軍軍属として陣地構築に動員されていたが、せめてその人数を記してその死を悼むべきである。
 太平洋戦争犠牲者光州遺族会会長の李金珠さんは、夫がタラワ島で戦死したが、遺骨はもちろん帰っていない。李金珠さんは韓国政府に千鳥ヶ淵のことを訴え、韓国政府が朝鮮人の銘記と慰霊碑の建立を要請していることを知ると、「千鳥ヶ淵での慰霊祭を見届けてから、安心して夫のもとへ行きたい」と語っている。日本政府は、一九五二年の閣議了解を始め、長い間、朝鮮人戦死者の遺骨収集を国の義務として行ってこなかった。そのことを謝罪し、その意味を込めて慰碑を建立すべきだと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。