質問主意書

第166回国会(常会)

質問主意書


質問第五六号

ウラン兵器禁止及び同兵器が使用されたイラクの地域への医療支援等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年六月二十八日

福島 みずほ   


       参議院議長 扇 千景 殿



   ウラン兵器禁止及び同兵器が使用されたイラクの地域への医療支援等に関する質問主意書

 イラク戦争等で使用されたウラン兵器は、「非人道的、無差別殺傷兵器」として国際的にも非難され、その禁止を求める声が国内外で上がっている。また、ウラン兵器が一九九一年及び二〇〇三年の二度にわたって大量に使用されたイラクの地域では、現地の医師たちから「住民のがん・白血病の増加」などが報告され、ウラン兵器攻撃による劣化ウラン汚染を含む環境汚染が、その要因として指摘されている。これらの状況を踏まえ、「被爆国日本」の政府に対し、ウラン兵器に関連する外交政策、原子力の平和利用、イラク医療支援、在日米軍基地におけるウラン兵器貯蔵問題等について、以下質問する。

一 ウラン兵器の「危険性」の評価と外交政策について

1 劣化ウランは、日本国内では「原子力基本法」(第三条第二項)及び「核燃料物質、核原料物質、原子炉及び放射線の定義に関する政令」(第一条第二項)で核燃料物質として定義され、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」で規制されている放射性物質である。このことを踏まえ、政府は、その理由、手段、国内外の場所を問わず、劣化ウランがばらまかれ環境が汚染されることは、「環境と人々の健康に対して危険性がある」と考えるか、認識を示されたい。
2 「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令」によれば、日本国内では、三百グラムを超える劣化ウランを許可なしに使用することはできないことになっている。これは三十ミリメートル径の劣化ウラン弾、一本分にほぼ相当する劣化ウランの量である。このように、日本国内ではその使用が規制されている劣化ウランが、実際にイラク等で兵器として使用され、環境が放射能で汚染された。一九九一年の湾岸戦争では、約三百トンの劣化ウラン弾が使用されたことが二〇〇三年IAEAより報告されている。また二〇〇三年のイラクでの戦闘においては、一般市民の居住する都市部でもウラン弾が多数使用されたことが、英国政府の報告や、戦闘終了後に現地を訪れたマスコミやNGO関係者等の報告で確認されている。日本政府は、このような大量の劣化ウランが、一般市民の居住地域も含め、イラク等にばらまかれたことについて、それらの地域の「環境と人々の健康に対し危険性がある」と考えるか。もし、「現在も将来にわたっても、危険性はない」と判断するのであれば、その根拠を示されたい。
3 政府は、二〇〇七年五月八日のウラン兵器問題に関する国会議員・市民との話し合い(以下「二〇〇七年五月八日交渉」という。)において、「国内の劣化ウランは民生用で法的規制を受けるが、ウラン兵器は、国家間の問題であり、被害について、国際機関等から確定的な調査結果が報告されなければ規制はされない」との見解を示した。しかし、このことは、国内政策では発がんなどの晩発性障害等の潜在的危険性に基づいて規制し、外交・安全保障政策では晩発性障害が顕在化するまで規制しないという、劣化ウランによる人体への放射能毒性・化学毒性の評価と規制に関する「ダブル・スタンダード」ではないかと考える。「ダブル・スタンダード」でないというのであれば、その根拠を示されたい。また、被害について国際機関等から確定的な調査結果が報告されれば規制されるべきだとの見解なのか、明らかにされたい。
4 ベルギーは、第一次大戦の際に経験した毒ガス兵器の被害の教訓の上に、対人地雷(一九九五年)、クラスター爆弾(二〇〇六年)などでも世界に先駆けて禁止する国内法を制定し、国際的にもその禁止に向けた外交努力を行ってきた。そして、同国の国防委員会では、米国メリーランド州の「陸軍放射線生物学調査研究所」などからすでに報告されている、劣化ウランの発がん性、遺伝的毒性、生殖毒性等についての基礎的な研究結果についても考慮され、審議がなされ、「予防原則」の観点から、ウラン兵器の製造・売買・輸送・配備・使用等を禁止する国内法を採択し、同法案は引き続き国会で可決された(二〇〇七年三月)。このようなベルギーの動きを、国際的な軍縮を進める観点から、日本政府はどのように受け止めているのか明らかにされたい。
5 日本政府は、「ウラン兵器の健康影響評価について、国際機関等から確定的な調査結論が報告」されるまで、ただ、その「動向を注視する」だけでなく、「予防原則」の立場に立って、「ウラン兵器を禁止すべき」との立場をとり、積極的な国内外政策を展開すべきと考える。この点について、政府の見解を示されたい。
6 日本政府は、劣化ウランの兵器への利用においては、予防原則は認めないという立場を取るのであれば、劣化ウランの放射能毒性・化学毒性による環境や人々の健康への潜在的リスクはない、あるいは潜在的リスクは無視できるほど小さいと断言できるのか。あるいは、「潜在的リスクはあるが、環境・健康影響は顕在化せず、そのリスクは受容される」レベルだというのか。根拠も含めて具体的に見解を示されたい。
7 国連環境計画(UNEP)は、二〇〇三年「イラクの環境に関するデスク・スタディ」の中で、劣化ウラン弾の攻撃時に生じる劣化ウランのダストの吸入による兵士、住民の健康への影響、地中に埋もれた不発弾の腐食による地下水の汚染などの危険性を具体的に指摘している。また、「イラクの環境に関するデスク・スタディ」では、二〇〇三年三月から四月のイラク戦争での劣化ウラン弾使用による汚染場所周辺において、「ダストの吸入は、ウランの化学毒性と放射能毒性による健康への危険性を引き起こす可能性がある。」と指摘している。「国際機関の報告、動向を注視している」という日本政府は、UNEPが指摘したこのようなウラン兵器による環境汚染の危険性を認めているのか。また、どのように評価しているのか、見解を示されたい。
8 日本政府も参加した一九九二年の「国連環境開発会議」(地球サミット)で、国際的に国家間で確認され採択された「環境と開発に関するリオ宣言」には、「重大あるいは取り返しのつかない損害のおそれがあるところでは、十分な科学的確実性がない」場合でも対策を遅らせてはならないという「予防原則」が明記された。この原則に基づく「予防的アプローチ」は、「地球サミット」の行動計画である「アジェンダ21」でも確認されている。「アジェンダ21」では、特に、低レベル放射性廃棄物についても「予防的アプローチ」を考慮し、「ロンドン・ダンピング条約」において、その海洋投棄のモラトリアムから禁止へと、速やかに進めるよう各国に促した。そして、一九九三年の同条約締約国会議では、放射性廃棄物の海洋投棄は、二十五年ごとの見直しを条件に「全面的に禁止」された。さらに、日本政府も署名している国際条約である「生物多様性条約」、「気候変動枠組み条約」、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」なども、この「予防的アプローチ」に基づいて締結されたものである。日本政府は、二〇〇七年五月八日交渉において、放射性廃棄物でもある劣化ウランを利用したウラン兵器の使用については、「国家間の問題でもあり、国際機関等から確定的な調査結果が報告されなければ規制はされない」との見解を述べているが、前記の諸条約等では、国家間の問題においても「予防原則」に基づいて環境や健康にリスクのある物質や行為を実際に規制・禁止している。日本政府が、ウラン兵器の使用においては、「国家間の問題」という理由で、「予防原則」を認めないとするならば、前記の国際条約や文書を承認してきたこれまでの日本政府の国際的な立場と矛盾する。この点について、政府の整合性ある説明と見解を明らかにされたい。また、国家間の問題である劣化ウラン(放射性廃棄物)の海洋投棄は健康被害の確定的な結果がなくても禁止されているが、同様に国家間の問題である劣化ウランの兵器としての使用では「健康被害の確定的な調査結果が報告されなければ規制はされない」という日本政府の見解は、どのように正当化できるのか明らかにされたい。
9 諸外国の動きを注視するだけでなく、「被爆国日本」の政府としても、放射能汚染と被爆をもたらすウラン兵器の国際的禁止のために、積極的な役割を果たすべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
10 国連では、一九九六年、一九九七年、二〇〇二年の国連人権委員会、二〇〇二年の「戦争と武力紛争による環境収奪を防止する国際デー」に際するアナン国連事務総長の声明において、ウラン兵器は「非人道的兵器」「無差別殺傷兵器」のひとつとして具体的に列挙され、非難されている。このことについて政府はどのように評価しているのか。このような国連人権委員会、国連事務総長の見解には賛同せず、日本政府はウラン兵器を「非人道的・無差別殺傷兵器」とは認めない立場を取るのか明らかにされたい。

二 日本の原子力「平和利用」と劣化ウランについて

 日本での原子力の「平和利用」のための不可分の一工程としてウラン濃縮過程で生じた劣化ウランは、たとえ国内に存在しなくても、日本の原子力利用の一部である。「原子力基本法」の「平和の目的に限る」という基本方針を厳守するのであれば、直接的には国外において国内法の規制が及ばないとしても、「原子力基本法」の根幹となる基本方針が、我が国の原子力利用の全工程において貫徹するように努めるべきである。したがって、政府は日本の電力会社が米国に委託しているウラン濃縮過程で発生した劣化ウランについても、平和目的に限って利用されることを確保するべきである。また、英仏に再処理委託している使用済核燃料についても、電力会社は、英仏に貯蔵されている減損ウランを欧州等で再濃縮しウラン燃料に製造し直す計画(一部は実施済み)だが、その結果として生み出される劣化ウランについても、平和目的に限られることを確保するべきである。二〇〇七年六月八日付けの「原子力委員会では、引き続き、国内外での原子力の研究、開発及び利用が平和目的で行われるよう、努めてまいります。」という、劣化ウラン兵器について追加の質問に対する内閣府・原子力政策担当室の文書回答も踏まえ、原子力の「平和利用」を行う日本の電力会社を指導・監督する責任のある政府として、この点についての具体的な施策を示されたい。

三 ウラン兵器攻撃を受けたイラクの地域への医療支援について

1 政府はバスラなど、ウラン兵器攻撃を受けたイラクの地域への医療支援について、二〇〇七年五月八日交渉において、「ジャパン・プラットフォーム等を通じ、NGOとも連携してイラク支援していく」と回答した。この点について、具体的に今後の支援のスケジュールなどを示されたい。
2 イラク医療支援については、ベーシックな医療支援と合わせて、現場のニーズに沿った細やかな支援も必要であると考える。現状では、民間支援団体に頼っているがん・白血病治療の医薬品支援などについて、政府としても支援を行っていくべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

四 嘉手納など在日米軍基地のウラン兵器貯蔵問題について

1 政府は、二〇〇七年五月八日交渉において、「米軍が在日米軍の戦闘能力や特定の弾薬の保管場所は公表しない方針なので、政府としては聞かない。米側が安全に管理していると言っている。」との見解を繰り返し述べている。「日米安保条約」に基づく「日米地位協定」では、在日米軍の戦闘能力や特定の弾薬の保管場所、また、それらが具体的にどのように管理されているのかを聞くことは禁止されてはいない。日本政府の意思で「聞かない」というのであれば、その理由を示されたい。
2 政府は、二〇〇七年五月八日交渉において、「在日米軍基地にウラン兵器が現在保管されていないという証明はない」ことを認めている。たとえ米軍が安全管理に万全を期していても、保管庫での火災、戦闘機の墜落などの事故は起こりうると考えるが、政府は「百パーセントそのような事故の可能性はない」と断言できるのか。断言できないのであれば、米軍にウラン兵器貯蔵の現状公開を求め、沖縄県民を始め、在日米軍基地周辺の住民の安全と健康を確保するための「防災対策」など、具体的な対策をとるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。さらに、在日米軍基地からのウラン兵器の速やかな撤去を米国政府に求めるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
3 米軍横須賀基地への米原子力空母の配備計画に際し、二〇〇七年三月、横須賀市と在日米海軍司令部、横須賀基地司令部の間で「防災協定」が締結された。外務省は、二〇〇七年六月十四日、参議院外交防衛委員会における答弁で、その後の日米政府間、実務者会議で、「原子力空母に関連して発生し得る事象については、自治体、在日米軍、政府の情報共有に関する体制づくりが重要だ」として、事故時の「防災対策」について米政府と協議している。嘉手納基地等の劣化ウラン兵器についても、同様に、米軍基地内の保管庫での火災、戦闘機の墜落などの事故の可能性を考え、米軍、自治体とも協議の上、その保管の現状把握と事故時の適切な対策を取るべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。