質問主意書

第166回国会(常会)

質問主意書


質問第五四号

国家公務員の人事評価、標準職務遂行能力、再就職(天下り)規制等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年六月二十八日

吉川 春子   


       参議院議長 扇 千景 殿



   国家公務員の人事評価、標準職務遂行能力、再就職(天下り)規制等に関する質問主意書

 第百六十六回国会(常会)に提出された国家公務員法等の一部を改正する法律案(以下「本法案」という。)は、「能力実績主義の人事管理」として、国家公務員の勤務条件に重大な影響を及ぼす新たな人事評価制度の構築等が規定されている。また、「再就職規制の見直し」として、現行の事前規制を廃止するとともに、再就職あっせんについては各府省によるあっせんを禁止して、内閣府に設置する「官民人材交流センター」が一元管理するとしている。現在、国家公務員は憲法第二十八条に保障された労働基本権が制約されており、そのことから、勤務条件に関する事項は労働基本権の代償機関である人事院の権限とされているところである。労働基本権制約が現状維持のまま、勤務条件に関する権限が内閣総理大臣の権限に移るとなれば、憲法上の問題が生じることとなると考える。また、「再就職規制の見直し」に関しても、事実上の「天下り」の自由化であり、国民の批判にこたえるものとはなっていない。
 よって、以下質問する。

一 人事評価と勤務条件の関連性について

1 本法案第二十七条の二(人事管理の原則)は、「職員の任用、給与その他の人事管理は、(中略)人事評価に基づいて適切に行われなければならない」としている。人事評価の結果によって給与が決定されるとすれば、人事評価は勤務条件そのものであり、任用(昇任)と給与(昇格)は連動することから、任用もまた勤務条件と密接に関連するものである。つまり、人事評価制度の設計やその基準は勤務条件であると考えるが、政府の見解を示されたい。
2 政府において現在実施中の「新たな人事評価制度」の試行について、「今後の行政改革の方針」(二〇〇四年十二月二十四日閣議決定)では、「適材適所の人事配置」、「効果的な人材育成」の評価手法の開発・定着の観点からとしている。また、「行政改革の重要方針」(二〇〇五年十二月二十四日閣議決定)では、「人事管理の基盤的ツール」として活用可能な評価システムの構築に向けてとしている。これらは、本法案に規定する「人事評価」とは目的が異なるものではないか。政府の見解を示されたい。

二 「標準職務遂行能力」等について

 本法案第三十三条は、任免の根本基準として「任用は人事評価、その他の能力の実証に基づいて行う」とし、第三十四条では、任用にかかわる「採用」、「昇任」、「降任」、「転任」、「標準職務遂行能力」の定義を行っている。そのうち、「標準職務遂行能力」については、「職制上の段階の標準的な官職の職務を遂行する上で発揮することが求められる能力として内閣総理大臣が定める」とし、その「標準的な官職」は、「職制上の段階及び職務の種類に応じ、政令で定める」とされているものの、具体的なイメージを含めて不明かつ疑問点が多い。
1 「標準的な官職」を本省、管区、地方出先機関ごとに定めるとすれば、その機関ごとの官職の上下関係しか明らかにならず、機関を越える異動がある場合、それが昇任か転任か判断できないと考えるが、政府の見解を示されたい。
2 各行政分野の専門性の向上がますます重要となっている中で、「職制上の段階」に着目した「標準職務遂行能力」は、ゼネラリスト優位の人事管理を温存させる結果となり、専門性の向上の障害となると考えるが、政府の見解を示されたい。
3 「職制上の段階」と「標準職務遂行能力」は、給与法上の級別標準職務表、級別定数等とどのように関連するのか。また、「標準職務遂行能力」の実証は、昇格運用や査定昇給とはどのように関連するのか。それぞれ明らかにされたい。
4 「能力の実証」による昇任というものの、上位の職制段階に求められる能力は、評価できない能力評価(現に任命されている官職での能力の発揮度を評価)との矛盾が生ずるが、政府の見解を示されたい。
5 国家行政組織法上の職制上の序列は、国家公務員法上の任用の職務の段階とは異なることから、職階制(法)を廃止するなら、実際の職務の複雑、困難、責任の度に応じた法制上の位置付けが必要ではないか。政府の見解を明らかにされたい。

三 本法案附則の「準備行為等」等について

1 本法案の附則は、施行期日について基本的には二〇〇八年十二月三十一日までの間に政令で定める日から施行としているが、附則第三条の「準備行為等」では、「採用昇任等基本方針」の策定や人事評価の実施にかかわる必要な行為は、公布の日から二年以内とし、施行日以前であっても行うことができる規定になっている。つまり、労働基本権が制約されている下で、勤務条件に直結する政令や規則、基準等の策定・設計を政府が一方的に決定することなく、当該職員の代表である労働組合の関与を担保する労使協議システムの構築が不可欠であると考えるが、政府の見解を示されたい。
2 国家公務員法第七十八条第四号は、判例で確立している「整理解雇の四要件」に比べて相当に緩く、公務員の権利保障の観点から雇用関係の終了事由として再検討すべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

四 再就職(天下り)規制について

1 「天下り」に対する国民の批判は、高級官僚が幾つもの「天下り」先を転々とし、何度も高額な退職金をもらい続けていることと、官製談合等の温床になっていることである。本法案は、こうした「天下り」の弊害をなくすことができるのか。できるというのであれば、その根拠を示されたい。
2 本法案第百六条の四は、「再就職者による依頼等の規制」を定めているが、「離職後二年間」に限って、再就職者による依頼等の経済活動を規制するものとなっている。本法案はこうした「行為規制」を置いているのに対し、現行法は、私企業からの隔離として、第百三条第二項で離職後二年間の再就職を規制(期間規制)している。本法案は、この項を削除し、期間規制を撤廃することとしているものの、同じ「二年間規制」であっても、行為規制と期間規制では意味が異なると考えるが、政府の見解を示されたい。また、事務次官や局長経験者の言動の及ぼす影響は離職後も極めて大きく、再就職者からの依頼等を「離職後二年間」制限しても、何の意味も持たず、官民癒着は温存されるのではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。
3 本法案第十八条の二は、退職管理に関する権限を内閣総理大臣の権限とするとともに、本法案第百六条の五は、再就職に関して「再就職等監視委員会」を内閣府に設置するとしているものの、人事行政の公正の確保の権限は人事院の権限であると考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。