質問主意書

第166回国会(常会)

質問主意書


質問第五三号

北見道路に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年六月二十七日

紙 智子   


       参議院議長 扇 千景 殿



   北見道路に関する質問主意書

 北海道開発局(以下「開発局」という。)は、北見市南部の丘陵地帯を縦貫し切り開いて、国道三十九号線に並行する新たな高規格道路「北見道路」を、トンネル五本、橋梁八箇所を有する、延長十・三キロメートルにわたる自動車専用道路として建設する計画である。同計画は一九九七年に事業化、二〇〇一年に環境影響評価を行い、二〇〇四年に一部建設着工した。しかしながら、予定地にはこの地域ではわずかとなった自然林に四百四十種の自生植物が生い茂り、各所に湧水の出る市民の憩いと散策の場があり、国の天然記念物オジロワシの営巣・繁殖、我が国固有種で絶滅危惧Ⅱ類、清流でしか生息できないニホンザリガニが確認されるなど、市街地近郊にありながら多様で豊かな自然が現存している。北見で最大級かつ全道でも五指に入る胸高周囲五・五メートルのミズナラのほか、周囲三メートル以上の巨木も多数存在する。
 周辺住民は道路建設による自然破壊を懸念するとともに、高速道路の必要性にも疑問を投げかけ、粘り強い運動を続けているが、昨年十二月、開発局事業審議委員会(以下「委員会」という。)は事業再評価を行い、継続を決定した。以下、北見道路事業再評価原案準備書(以下「準備書」という。)等の問題点及び自然環境への影響調査等について質問する。

一 準備書及び同説明資料の内容について

1 北見道路の事業費、総費用について
(一) 開発局は、事業化当初から北見道路の事業費を四百億円と説明しており、国土交通省道路局(以下「道路局」という。)は、平成十八年三月末時点の「高速自動車国道に並行する自動車専用道路」に関する資料で、北見道路の「最新の事業費」を四百四十億円としている。一方、準備書では、開発局は全体事業費三百二十三億円、総費用三百十五億円とし、この数値を費用対便益比の算出に使用している。事業費四百億円、最新の事業費四百四十億円、全体事業費三百二十三億円、総費用三百十五億円のそれぞれについて、①その内容、構成する費目(工事費、用地費、補償費、維持管理費、調査費、設計費、事務費、職員給与、営繕費、機械費等)、②費目ごとの積算額、③どのようにコスト削減が図られたか、それぞれ明らかにされたい。
(二) 道路局資料(平成十八年三月)の北海道各路線の「総費用」とそれぞれの路線の事業再評価時の「総費用」とを比較すると、音威子府バイパス、釧路外環状道路、美幌バイパスの金額は両者とも一致している。黒松内道路(延長四・七キロメートル)の「最新の事業費」は、道路局資料では百八十億円に対し、平成十九年度再評価結果では「総費用」百八十一億円(事業費百六十八億円と維持管理費十二億円)と一億円増となっている。通常「総費用」とは、「事業費」と「維持管理費」を合わせた額であり増額は妥当と考えられる。しかし、北見道路だけが「最新の事業費」四百四十億円から、「事業費」については三百二十三億円と百十七億円の減額、「総費用」については三百十五億円と百二十五億円もの減額が生じているが、それぞれその理由を示されたい。
2 北見市内の「渋滞の状況」及び北見道路の交通量について
 開発局は、従来、北見道路の必要性を示すため、国土交通省道路交通センサス(以下「センサス」という。)平成十一年度データを使用して市内「渋滞」状況を説明してきた。しかも、市内三箇所の観測地点(三輪西六号、大通西一丁目、端野町三区)のうち、大通西一丁目だけが混雑時平均旅行速度時速二十キロメートル以下の時速十九・九キロメートルであったことから、これを取り上げ「渋滞状況」にあると説明してきた。
(一) 昨年六月、平成十七年度センサスは、大通西一丁目で時速二十一・二キロメートルとなるなど、三箇所の調査地点すべてで混雑時平均旅行速度が時速二十キロメートルを超え、混雑が緩和したことを示した。ところが準備書説明資料では平成十七年度センサスのデータは取り上げられておらず、混雑緩和の説明もない。道路状況の説明には、従来から使用していた定点観測データを継続的に使用することが有効であり、この場合は「内々交通や方向別等の分析」も必要ないにもかかわらず、なぜ平成十七年度センサスを使用しなかったのか、その理由を明らかにされたい。
(二) 開発局は、警察庁交通課が計測し日本道路交通情報センター(以下「センター」という。)が保有する二〇〇四年一月から十二月のデータを利用して、北見市内は「混雑または渋滞が発生」とする資料を作成した。これまで使用していないセンターのデータをここで利用した理由を示されたい。また、センターは、道路設置者の要望により、月単位の最新データの提供が可能だが、二〇〇六年十二月の委員会への資料準備に最新データを使用しなかったのか明らかにされたい。
(三) 開発局は、北見道路の交通量を八千百台/日から九千二百台/日と説明している。一方、北見-帯広間の北海道横断道路が全面完成した場合、交通量は四千台/日とされている。北海道横断道路の一部とされる北見道路の交通量の算定根拠を、北海道横断道路との比較により示されたい。また、北海道横断道路が全面完成した場合の足寄-北見間の費用対便益が一・三三となり、北見道路の費用対便益が二・三となる根拠について、北海道横断道路との比較により示されたい。
(四) 総便益七百三十六億円、走行時間短縮便益六百二十八億円、走行経費減少便益七十二億円、交通事故減少便益三十七億円の意味する内容とそれぞれの算出根拠を示されたい。
(五) 国土交通省の道路事業の交通量予測は各地で大幅に見込みを下回っている。北見道路に関する交通量見込みが今回の予測を大幅に下回った場合、その説明責任はどこが負うのか明らかにされたい。
3 「主要な観光地のアクセスの向上が期待される」ことについて
 準備書説明資料は、札幌から旭川を経て知床に至る観光ルートを図示し、北見道路は「道内周遊観光の利便性向上が期待される」としている。しかしながら、既に旭川・紋別自動車道が先行し遠軽までは七割近く完成しており、北見道路を待つまでもなく、また利用する必要もなく、旭川・紋別道路の完成区間と国道を利用して、遠軽からルクシ峠を経て知床へ入る方が時間短縮になっていると考えるが、政府の認識を示されたい。
4 「三次医療施設へのアクセス向上が見込まれる」ことについて
 準備書説明資料では、オホーツク圏とほぼ同面積であるという岐阜県との比較を図示し、委員会で「三次医療圏が岐阜は六つだが、オホーツク圏は一箇所」、「一つの病院がカバーする面積はこれくらい差がある中で病院へのアクセスに非常に寄与する」と説明している。
(一) 北見道路がオホーツク圏からの北見赤十字病院へのアクセスに「非常に寄与する」とし、圏内全域二十二市町村から同病院への搬送実績(千四百五十八件/年)を図示するのであれば、あわせて北見道路が二十二市町村からの搬送にどれだけ時間短縮になるかを示すべきと考えるが、政府の認識を示されたい。
(二) 国土交通省北海道局は私の事務所に対し、北見道路完成後、同道路を利用して北見赤十字病院に搬送する見込みの自治体は、四市町(訓子府、陸別、紋別、網走、搬送実績は計三百三十六件)とみていることを明らかにした。しかし、委員会ではそうした説明はなく、オホーツク圏全域からの救急搬送が同道路を利用するとの印象を与えている。こうした資料等は北見道路の事業効果の説明として不適切と考えるが、政府の認識を示されたい。
5 「北見道路の整備により削減される自動車からのCO2排出量」について
(一) 準備書説明資料は、北見道路整備により削減されるCO2排出量を、四百三十t-CO2/年としている。この算出根拠について明らかにされたい。
(二) このCO2排出量の算出には、北見道路を通行する見込みの八千百台/日から九千二百台/日の車両から排出される新たなCO2量は考慮されているか、明らかにされたい。また、この排出量についても明らかにされたい。
(三) 開発局は北見道路の建設による樹木伐採本数は約三万本としているが、政府は地球温暖化防止対策として森林のCO2吸収源としての役割に着目しており、道路建設による樹木伐採がCO2吸収量に与える影響、量についても言及すべきと考えるが、政府の認識を示されたい。
6 道路事業の評価方法の見直しについて
 現在の道路事業の評価方法は、総費用(工事費、用地費、補償費、維持管理費)を総便益(走行時間短縮、走行経費減少、交通事故減少)で除した数値で表すのみであり、道路事業により増加が予想される騒音、交通量増加によるNOx、PM(粒子状物質)は全く考慮されていない。また貴重な自然環境や自然景観が損なわれる点は無論のこと、近年、問題視されているロードキルも含め希少野生動植物が失われること、市民が静かな森林や水辺を散策する楽しみ、安らぎを失うことの重大性の評価もない。こうした現在の評価方法は市民が生活する上で、かけがえのない価値を持つ事物を捨象した極めて一面的で妥当性を欠くものであり、評価の在り方を抜本的に見直すべきと考えるが、政府の認識を示されたい。

二 自然環境、希少野生動物への影響調査、フォローアップについて

 北見道路予定地は、希少野生動物が生息できる自然が湧水地と一体となって多様で豊かな生態系を維持しており、道路建設に伴う自然環境への影響を多面的に調査し、フォローアップを続けることが必要である。
1 国の天然記念物オジロワシの営巣地は、工事区域から四百メートルという至近距離にある。営巣地周辺ではトンネル工事に続き、橋梁工事のための杭打ちなどが相当な騒音を発生させており、オジロワシが営巣放棄する危険性が懸念されている。「北見道路整備における環境保全対策を考える懇談会」(以下「懇談会」という。)は、営巣地付近の清流音が工事騒音を弱めるとしてオジロワシの生息には「影響がない」と断定している。しかし、道路完成後の排気ガス、騒音、照明などが影響を及ぼさないという根拠は示していない。懇談会が「オジロワシの生息に影響がない」とした科学的根拠を示されたい。
2 ニホンザリガニは、湧水域付近に住み着き落葉広葉樹を食す生態があり、建設工事により多数の広葉樹が伐採されれば、ニホンザリガニの生態系をも破壊する懸念がある。開発局は、オジロワシやニホンザリガニ、また水質等のモニタリングや、モニタリングを供用開始後五年程度行うかなど継続時期について「懇談会に諮り、意見を聴きながら対応」と説明している。今後、懇談会を開催する際は委員にオジロワシとニホンザリガニの専門家を入れて、モニタリングの結果を科学的に検証できるようにすべきと考えるが、政府の認識を示されたい。
3 山間部や丘陵を貫通する道路建設は、地下水脈を断ち切ることになり、高尾山トンネル工事や大阪箕面のトンネル工事など各地では、水枯れ、水位低下などの重大な環境破壊を引き起こしている。北見道路予定地も周辺に多数の湧水を有することから、トンネル工事による影響を把握し続けるため、まず建設予定地及び周辺の湧水箇所の分布状況と水量等の現状把握及びオジロワシに影響を与える常呂川の水質、水量、水位などの調査を継続し、データを公表すべきと考えるが、政府の認識を示されたい。
4 委員会では、モニタリングの基準を最初に定めることの重要性が指摘されているが、モニタリング対象ごとの基準及びどのようにして定めているかを明らかにされたい。また、今後のモニタリングと工事との関連では、オジロワシの営巣への影響、ニホンザリガニの生息数の変化、湧水箇所の水位・水量低下など科学的なラインを定め、影響が出た場合は直ちに工事を中止すべきと考えるが、政府の認識を示されたい。

  右質問する。