質問主意書

第166回国会(常会)

質問主意書


質問第四五号

保険会社による保険金不払問題の実態解明と抜本的対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年六月四日

荒井 広幸   


       参議院議長 扇 千景 殿



   保険会社による保険金不払問題の実態解明と抜本的対策に関する質問主意書

 平成十七年二月の金融庁による明治安田生命に対する行政処分以来、生命保険、損害保険を問わず、保険会社各社によるいわゆる保険金の不払事案の発覚が後を絶たない。平成十七年十月二十四日の参議院行政監視委員会における私の追及に対して、すべての保険金、給付金の不払事案に係る再検証を要請しており、漏れはないとした答弁は、全くの欺瞞であったことが判明した。ここに至るまで保険金不払の実態を放置した金融庁の責任は極めて大きく、国会軽視という問題以前に、監督官庁である金融庁自身がコンプライアンスを欠いていると言わざるを得ない。この際、金融庁はこれまでの監督の怠慢を反省した上で、「保険金等の不払」の全体像を把握し、その中にどのような「保険金等の支払に関する不適切な取扱い」があるかを、徹底的に実態解明しなければ、金融行政、保険業界の信頼回復に将来の禍根を残すこととなる。また、今般の保険金不払問題は、国民一般のリスク感性を無視した複雑な保険商品の設計・販売に走る保険業界の体質に根元的な原因がある。適合性の原則を踏まえた行為規制を保険会社に適切に課し、国民一般のリスク感性を踏まえた分かりやすい保険商品の設計・販売を促していかなければ、根本的な解決をみない問題と考える。
 金融庁の怠慢とも呼ぶべき失態により生じた今般の保険金不払問題は、本来、参議院において、財政金融委員会あるいは予算委員会、決算委員会、行政監視委員会などの場を通じて、徹底的に追及されるべき問題と考えるが、残念ながら我が新党日本は委員割当がないことから、本質問主意書をもって、金融庁の姿勢をただすとの観点から、以下質問する。

一 平成十七年二月以降、「保険金等の支払に関する不適切な取扱い」の実態に関しては、生命保険会社、損害保険会社各社が自主的に点検結果を公表し、また、金融庁も、生命保険会社、損害保険会社各社に対し、保険業法第百二十八条等に基づき、報告徴求を行っているところと承知しているが、その内容等を明らかにする必要がある。以下は、平成十七年の先の委員会質疑を踏まえ、細目にわたり確認を求めるものであり、当時の軽率な答弁に対する反省に立ち、誠意をもって答弁するよう求める。

1 平成十七年二月以降、「保険金等の支払に関する不適切な取扱い」の実態に関し、金融庁が行った報告徴求について、その徴求日、対象保険会社、報告徴求の内容、報告期限、報告結果(不適切な取扱いの内容、件数、金額)を示されたい。その際、報告徴求の内容及び結果については、報告徴求に当たり点検の対象となる契約の範囲、実施期間、点検方法及び点検結果に対する対応等を明示されたい。また、報告結果が判明していない場合、その理由といつまでに明らかにされるかを示されたい。
2 1で示された報告徴求とは別に、金融庁において、保険会社に対し保険契約の点検要請等を行っている場合には、その内容とその結果について、点検の対象となる契約の範囲、実施期間、点検方法及び点検結果に対する対応等を1と同様に示されたい。また、保険業法第百三十二条及び第百三十三条に基づく行政処分に際し、「保険金等の支払に関する不適切な取扱い」の実態を把握している場合についても、その内容を同様に示されたい。さらに、金融庁が把握している保険会社各社が自主的に行った点検結果について、報告徴求等により金融庁が直接把握している以上の部分(点検の対象となる契約の範囲、実施期間、点検方法及び点検結果に対する対応等)があれば、その内容を同様に示されたい。
3 1及び2以外により、金融庁が保険金の不払の実態等について、把握している情報があれば、その内容を1及び2に対する答弁と同様に整理して、示されたい。
4 生命保険、損害保険を問わず、保険契約全体を調査対象として、保険契約者等に対する直接確認を担保する形で、保険事故の発生により保険金・給付金の支払を受けることが可能であるにもかかわらず、保険金等が支払われていない「保険金等の不払」事案がないか、そのうち個別の事情を勘案して不適切な取扱いがなされたと判断される「保険金等の支払に関する不適切な取扱い」事案がないか、改めて報告徴求・検証すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

二 一の結果等を踏まえ、「保険金等の支払に関する不適切な取扱い」の発生状況について、統計的に示すべきと考える。例えば、生命保険協会の「生命保険の動向」によれば、個人保険、個人年金保険、団体保険の保険契約件数は、平成十七年度末で一億八千九百十三万件となっているが、これらのうち、「保険金の不払」事案及び「保険金等の支払に関する不適切な取扱い」事案の件数、割合がどれだけあるかを示すべきではないかと考える。

1 このような形で、生命保険、損害保険を問わず、保険契約全体に対する「保険金の不払」事案及び「保険金等の支払に関する不適切な取扱い」事案の発生状況を統計的に示すことは可能であるか。可能である場合には、どのような形でいつ示すことが可能となるのか、示されたい。可能でない場合、その理由を示されたい。
2 「保険金等の支払に関する不適切な取扱い」の発生状況については、個別会社の実態を踏まえた傾向、例えば、「ある会社については、特定の地域、支店、部署で、一定の要因により、不適切な取扱いが頻発している」といった傾向を指摘することができるか。あるいは、「保険金等の支払に関する不適切な取扱い」は、恒常的、組織的な要因により、遍在しているものか。その傾向を可能な限り具体的に示されたい。

三 「保険金等の支払に関する不適切な取扱い」の実態解明に関するこれまでの金融庁及び保険会社各社の取組では、どのような不払の事案に不適切な取扱いがあるのか、その態様、原因を十分に解明するに至っていない。単に保険会社側の対応にとどまらず、保険契約者等からみて、保険金不払を認容する原因が何かを分析した上で、対策を講ずる必要があると考える。

1 金融庁は、「保険金等の支払に関する不適切な取扱い」について、「付随的な保険金の支払漏れ」、「保険金等の不適切な不払」、「保険金等の不適切な未払」の三類型に分類していると承知しているが、これ以外に「保険金等の支払に関する不適切な取扱い」と判断される類型はないのか。例えば、金融庁の分類する「保険金等の不適切な不払」については、「請求を受けた保険会社が、不適切な判断により保険金等を支払っていなかったこと」とされているが、保険会社が不適切な判断を保険契約者等に提示・説明したことにより、請求が行われなかった場合など、保険契約者等の請求等の行為がない場合も、「保険金等の支払に関する不適切な取扱い」と判断される場合があると考えるが、政府の見解を示されたい。
2 「保険金等の支払に関する不適切な取扱い」があった場合、保険事故の発生により保険金の支払を受けることが可能であるにもかかわらず、保険金が支払われていないのであるから、保険契約者等は、支払を受けることができることを知らない、あるいは、支払を受けることができないと思ったということとなる。「保険金等の支払に関する不適切な取扱い」について、保険契約者等が不払を認容した理由・動機・原因について、どのように分析しているか。また、不適切な取扱いについて、保険契約者等の事情を踏まえた類型化は可能か。可能であれば、その類型を示されたい。
3 保険契約は、保険金支払を目的に締結される契約であることから、そもそも保険契約者が保険金の支払可能性を誤認して契約したような場合には、顧客の知識、経験、契約を締結する目的等に照らして不適当と認められる保険契約が締結されたこととなり、いわゆる適合性の原則に違反するものと考えるが、政府の見解を示されたい。

四 保険契約は、保険契約者等に対し、リスクに関する感性を要求する金融商品である。すなわち、保険契約が提供する保障(補償)内容と自分の期待する保障(補償)内容との一致点と相違点とを、保険契約者等が自己責任で正確に判断できなければ、本来、購入することのできない金融商品である。しかしながら、現状の保険商品は、消費者ニーズへの対応の名の下、商品設計がいたずらに複雑化されており、それが今般の保険金不払問題の構造的要因となっている。
 保険商品は、国民に対し、安全と安心を提供するものであり、そのセーフティネットに遺漏は許されない。大方の保険商品が適切に販売され、大方の国民が保険商品という安心を入手できるというだけでは足りず、その陰で安心を享受することのできない人たちに対して、目配りをすることによって、初めて成熟した国家と言える。すべての国民が、必要とする安全・安心な保険商品の提供を受けることができるよう保険業法を始めとする関連金融諸法令を抜本的に見直す必要がある。

1 そもそも保険業法第一条の目的規定は、「保険業を行う者の業務の健全かつ適切な運営及び保険募集の公正を確保すること」を直接の目的として定めており、結果として「保険契約者等の保護」、「国民生活の安定」が図られるに過ぎない構造となっている。これでは、保険会社の健全性が保険契約者の保護より優先されてしまい、ましてや保険に入れない人々を救うことはできない。「保険業の公共性にかんがみ」、保険業法の目的規定に「国民が簡易に利用できる保険の提供」と「福祉の増進」を明示すべきである。この点に関し、政府の見解を示されたい。
2 保険契約者等の個々のリスク感性に応じた適切な保険商品を提供するため、保険業法及び保険業法施行規則上、社内規則等の整備に関する義務にとどまっている適合性の原則について、保険契約時及び保険事故発生時に顧客の知識、経験、契約を締結する目的等を踏まえた説明義務を保険会社に課すとともに、国民、消費者一般のリスク感性を踏まえた保障(補償)内容の分かりやすい保険商品の設計・販売を進めるべきである。これらの点に関し、政府の見解を示されたい。
3 保険広告の適正化に関しては、平成十八年二月の「保険会社向けの総合的な監督指針」の改訂にもかかわらず、その後も、厚生労働省が、高額療養費制度についての正確な説明を求めるなど、誤解・不適切な印象を与える広告が氾濫し、問題は全く解消していない。そもそも、保険加入のニーズを必ずしも感じていない者に対して、その必要性をいかに認識させるかという問題は、教育機関、行政、NPO等の中立的な第三者が担うべき金融教育の分野に属する問題であって、保険会社による営利目的の広告によって、意図的にその必要性・ニーズが喚起されるようなことは、決してあってはならないことと考える。保険の必要性を国民に喚起する役割は、中立的機関による金融教育の分野にゆだね、不当に保険加入を勧誘する営利の保険広告を抜本的に規制する必要があると考えるが、この点に関する政府の見解を示されたい。併せて、保険販売チャネルとなる保険募集人、代理店、仲立人あるいは銀行等の金融機関窓口職員についても、同様の観点から、基本的な保険ニーズについて中立的な説明・勧誘が担保されるよう資格・要件の見直し、研修の強化等を図るべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。