第166回国会(常会)
質問第四三号 一九九七年六月八日のJAL七〇六便事故についての事故原因究明に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 平成十九年五月二十三日 福島 みずほ
参議院議長 扇 千景 殿 一九九七年六月八日のJAL七〇六便事故についての事故原因究明に関する質問主意書 一九九七年六月八日、香港発、名古屋行きのJAL七〇六便が、名古屋空港へ着陸するために高度五千百メートルを降下中、異常な機首上げとそれに続く異常振動に遭遇した。特に後部客室において大きなマイナスG(加速度)が発生し、八名が軽傷を、機体後部にいた四名が重症を負い、うち一名が一年八箇月後に亡くなった。事故機の型式は、マグダネル・ダグラス社(現在は合併してボーイング社)製造のMD11型機である。航空事故調査委員会(以下「事故調査委員会」という。)は、一九九九年十二月に本件事故についての事故調査報告書(以下「報告書」という。)を公表した。報告書は、事故の原因は「機長が自動操縦装置に逆らって操作した為に、異常な機首上げが発生したため」とした。また、異常な機首上げの後に発生した異常振動については、「機体特性とパイロットの操縦能力の限界によって生じた可能性もある」とした意見が一九九七年九月五日付けの「建議」として示されている。 本件事故について、操縦に当たっていた機長は業務上過失致死傷罪により起訴されたが、二〇〇七年一月九日名古屋高等裁判所が控訴を棄却し、検察官は上告を断念したため、機長の「無罪」の判決が確定した。報道によると、遺族は「それでは一体何が原因で妻は死ななければならなかったのか」と、マスメディアに対してコメントしている。当該機長自身も、判決日当日に「誤った事故調査に基づく、誤った起訴であった」との声明を公表している。本件事故については、事故調査委員会の報告書と刑事裁判によっても、結局真の事故原因は何であったのかを明らかにすることはできず、事故防止対策もどのように講じられたのか明確ではない。 そこで、以下のとおり質問する。 一 報告書は、「MD11型機の特徴として、水平尾翼の小型化(DC10型機に比べて三十パーセント小さくなっている。)、後方CGコントロール(燃料を移送して、機体の重心を後方に保つ機能)によって、飛行性能の改善が図られたが、高空における縦安定性が弱くなるという弱点を抱えている」としている。しかし、このような機体特性が事故原因にどのように関連していると考えたのか、報告書の結論は明確ではない。この点に関する政府の明確な見解を示されたい。 二 本件事故の事故原因について、事故調査委員会は報告書中、別添11-1において「当該振動はPIO(操縦士が航空機を安定させようと操縦する結果発生する操縦士の意図に反した機体の振動現象)に陥ったことが関与した可能性がある。このようなこと(PIO)に起因する事故が再発することのないよう早急に対策をとる必要がある。」と「建議」の形で言及している。この点は、本件事故調査の最重点課題であったはずであるが、どのような調査が行われ、これに対してどのような対策が採られたのか明確でない。報告書別添11-3には、製造会社及び運航会社により講じられた主要な措置が掲載されているが、いずれも機体の操縦方法に関するものに限定され、機体特性の設計に関わる問題点の指摘、対策は講じられていない。この点に関して、政府においてどのような検討が行われたのか、製造会社及び運航会社により講じられた主要な措置が航空安全確保のため必要かつ十分なものであると考えているのか、十分でないと考えているとすれば、それはどのような点かを明らかにされたい。 三 二〇〇四年八月に開催されたAtmosphere Flight Mechanics Conference(AAIA PaperNo.2004-4702)において、David H.Klyde氏外の研究報告「Evaluation of Wavelet‐Based Techniques for Detecting Loss of Control」がなされた。同報告は、振動について、PIOとそうでないものの判別基準を示した上で、本件事故についてはPIOであることを断定している。このような評価について、政府は同意するのか。同意しないのであれば、根拠を示して明らかにされたい。 四 本件事故では「急激な機首上げ」と「その後の振動」がなぜ発生したのか、その振動のメカニズムを明らかにすることが根本的な課題であった。この振動のメカニズムの解析のためには、「正確な操縦室のGデータ」又は「IRU(慣性基準装置)のGデータ」が必要であったと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。 五 事故調査委員会が計算で求めている操縦室のGデータが報告書別添4図として示されている。事故調査委員会は、別添4図において操縦室のGを「計算にて推定」したとしている。なぜ、計算によってデータを推定する必要があったのか。より、直接的なデータはないのか明らかにされたい。 六 「生の操縦室のGデータは存在する、それを見た、存在すると聞いた」と証言する「日本航空乗員、航空安全会議(航空労働者の航空安全に関する組織)関係者」が複数名存在する。具体的には、「操縦室床下に設置されているIRUという機器には加速度計があり、当該Gデータが保存されている」との証言がある。事故調査委員会は、IRUに加速度計が設備されていることを認識しているか、また、このようなデータが存在することを知っているか明らかにされたい。 七 本件事故の調査の過程でこのIRUのGデータを取得しているか明らかにされたい。 八 六において、データの存在を知らないとすれば、国において、当該データを保有している可能性が高い日本航空に対して、当該データの保有の有無を確認し、もし保有しているならば、これを入手した上で公表するべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。 九 事故調査委員会が、生の操縦室のGデータに近いと考えられるIRUのGデータを報告書に記載するよう努力しなかった理由を示されたい。また当該Gデータが存在し、事故調査委員会、あるいは日本航空によって公表されなかったとするのなら、その理由を明らかにされたい。 十 IRUのGデータが存在する場合、事故原因についての新たな重要データが明らかになったものと考えるが、このデータを使い、事故当時の状況把握と、事故の本質である振動部分の解析を行うために本件事故の再調査を行うべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。 十一 事故調査委員会は、別添4図において操縦室のGを「計算にて推定」したとしている。しかし、この推定結果には位相に関して考慮されていないという初歩的な欠陥が指摘されているが、政府の見解を示されたい。 十二 報告書四十五頁には「自動操縦装置をオーバーライドした結果ディスコネクトしても、急激な機体の姿勢変化をもたらさないよう、自動操縦装置を設計変更すること」を勧告しているが、このような設計変更は行われているのか。行っているとすれば、その具体的内容を示されたい。行っていないとすれば、これに対応する耐空性改善命令を発出しなかった理由を明らかにされたい。 十三 日本航空機長組合は、二〇〇〇年四月十九日付け機長組合ニュースの「機長組合作成七〇六便事故調査報告書」において、「飛行中はINBOARDSPOILERが作動しない機構とすること」を求めている。これは、遠藤浩氏(航空宇宙技術研究所特別顧問(当時)・理学博士)が、機長組合作成のCD中で「今回の振動は、水平尾翼がスポイラー後流の中に入ったり出たりしたことによって生じたのではないか」と解説されていることに基づく提案とも考えられる。このような提案は、事故の経緯に照らして、合理的なものであると考えるが、この点に関する政府の見解を明らかにされたい。 十四 スポイラーの展開によって今回のような振動が生じる可能性があるとするのならば、それはまさにMD11型機の飛行特性の欠陥と言えるのではないか。スポイラー展開と振動との因果関係を徹底的に調査すべきであると考えるが、この点についてはどのような調査が行われたのか。調査が行われているのであれば、その内容を明らかにされたい。また、調査が行われていないのであればその理由を示されたい。 十五 本件事故時に、日本国内で型式証明を受けていたMD11型機は十機であったと承知しているが、これらの機体について、その保有者、登録番号、登録年月日、購入価格を明らかにされたい。 十六 これらの機体が、いつ、誰に売却されたかを明らかにされたい。また売却の価格、売却後の使用目的(旅客輸送に使われているか、貨物輸送に使われているか)を明らかにされたい。 十七 すべての機体が、二〇〇二年から二〇〇四年までの短期間の間に、またDC10型機の退役の前に全機売却されているとの調査結果がある。このような集中的で不自然な売却の理由を明らかにされたい。またこれらの売却は国による指示によるものか明らかにされたい。 十八 以上の経緯を総合すれば、日本の航空安全当局と航空機メーカー、運航会社が、事故機の欠陥を隠蔽しつつ、旅客輸送用途以外に使用するという条件付きで、欠陥航空機を第三者に売却したことになるのではないか。政府の見解を示されたい。 十九 日本の航空安全当局が本件事故発生から売却まで、MD11型機について旅客輸送のための使用を停止しなかった措置は、同型機の飛行特性の欠陥を知りながら、旅客運送のために使用することを認め、本件事故と同種事故が発生する危険性のある状態を放置し、これを是正しなかったこととなるのではないか。政府の責任ある見解を示されたい。 右質問する。 |