質問主意書

第166回国会(常会)

質問主意書


質問第三一号

ETCシステムにおける新たな利用者負担の解消とORSEの廃止等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年五月七日

荒井 広幸   


       参議院議長 扇 千景 殿



   ETCシステムにおける新たな利用者負担の解消とORSEの廃止等に関する質問主意書

 私は新党日本の議員であるが、参議院で一人であるので無所属扱いとなっている。このため、国政一般について幅広く質疑を行うことができる予算委員会、決算委員会には割当がないことから、質問主意書という手法で政府の姿勢を問うものである。
 近年、有料道路自動料金収受システム、すなわちエレクトロニック・トゥール・コレクション・システム(以下「ETCシステム」という。)の利用・普及が目覚ましく拡大している。日本道路公団を始めとする道路関係四公団(以下「公団」という。)の民営化関係法案が成立した平成十六年頃は、ETCシステムの利用率は二十パーセント程度であったが今や三倍以上の六十七・七パーセントとなっており、ETC車載機のセットアップ台数も四百万台程度であったものが、四倍以上の千七百万台となっている。この急激なETCシステムの利用・普及拡大の背景には、公団の民営化の際に、世界一高い高速道路の通行料金の引下げが焦点となり、ETCシステムの利用に限って割引制度が導入された経緯がある。ただし、当初、全国平均で約一割とされていたはずの料金引下げが、なぜETCシステムの利用にのみ限られたのか、私は大いに疑問を持っている。それは、ETCシステムの利用については、高価なETC車載器、クレジットカードの発行に依存した決済システムの構築、財団法人道路システム高度化推進機構(以下「ORSE」という。)という各種手数料徴収を目的とした公益法人の存在など、その必要性を疑う不透明な部分が存在しているからである。それは、既得権益打破を高らかにうたった小泉改革の民営化の下、その陰で産官による新たな既得権益とも呼べる国民負担を強いるシステムが作り上げられてきた証左ではないかと考えている。この疑問を明らかにして、ETCの利用にまつわる不透明な部分を正し、日本の高速道路の料金収受体制を真に透明性のある公正・公平なものにしたいとの観点から、以下質問する。

一 当初、公団民営化の成果として全国平均で約一割としていたはずの料金引下げが、ETCシステムの利用のみに限られた経緯と理由について示されたい。

二 ETC車載器の現在の平均的な単価を明らかにされたい。また、ETC車載器のセットアップ台数は、累積で千七百万台であるが、ETC車載器にかかわったメーカーの売上額の累積額を明らかにされたい。

三 諸外国における有料道路の通行料金の電子決済の概要を示されたい。また、電子決済に使用する車載器一台当たりの利用者の購入額について日本との比較を示されたい。特に、シンガポールのように日本のETCシステムと同様の制度を採用する国での車載器一台当たりの額を示されたい。

四 諸外国において、有料道路の通行料金の割引制度の概要を示されたい。特に、電子決済を採用している場合に、電子決済以外の通行料金に対しても割引制度を導入している事例があれば示されたい。

五 平成十七年十月に公団が完全民営化されたが、その直後に、民営化された各高速道路株式会社はクレジットカードの発行を前提としないETCパーソナルカードを発行している。そもそも、民営化の成果とされる高速道路の料金引下げは、公団の民営化という改革の名の下に行われた「国策」であり、あまねく全国民に行き渡るべきものである。また、道路の通行から得られるサービスの質は、道路の公共性を考えると、国民のだれしもがひとしく受けることができねばならないと考える。
 しかし、ETCシステムの利用の前提として、クレジットカードの発行が必要となるならば、その発行自体が信販会社の審査にゆだねられ、単にETCシステムの利用負担を支払うかどうかだけの問題ではなく、民間会社が設けた非公開の基準により、民営化の成果による通行料金の割引やETCの利用によるサービスを享受できる国民と、そうでない国民を選別するものにつながるものと思われる。なぜ、政府は公団時代からETCパーソナルカードよりも先に、クレジットカード方式によるETCシステムを選択・導入・推進してきたのか、その理由を示されたい。

六 ETCを使って高速道路を通行すると、クレジットカードの金融機関の登録口座から利用金額が差し引かれるが、口座の引落し手数料等、金融機関がETCの利用・普及の拡大で得ている収入の年間額を示されたい。また、クレジットカードの年会費など、信販会社等カードの発行事業体が得る収入も示されたい。さらに、手数料等の負担は、すべてカード利用者が負うものであるのか明らかにするとともに、ETCパーソナルカードは会員費で年間千二百円掛かるというが、クレジットカードと比較して利用者の負担が少なくどちらが有利になるか示されたい。

七 ETC利用の手数料については、電子決済の手数料のほかにも、セキュリティ面の手数料が掛かる。その手数料を徴収する団体として、ORSEという公益法人が設立されている。平成十一年八月に定められた「有料道路自動料金収受システムを使用する料金徴収事務の取扱いに関する省令」で、ORSEの業務内容として、①情報安全確保規格の提供を代行すること、②対価を得て識別処理情報の付与を行うことが定められている。既に、各高速道路株式会社がETCパーソナルカードを発行しており、ETCシステムの開発、情報管理等については、以後、民営化された各高速道路株式会社で行うことも可能であると考えるが、政府の見解を示されたい。また、JRのスイカや私鉄・バス事業者が採用するパスモは、民間会社が運営している。仮に、ORSEを存続すると言うのであれば、民営化された各高速道路株式会社が、ORSEの業務を行うことが不可能である理由を示されたい。

八 ORSEに事業を行わせることを明記した省令を制定した理由をその経緯とともに明らかにされたい。

九 ORSEは高度なセキュリティ対策が必要だとしているが、ORSEが提供する情報安全確保規格は、いわゆるセキュリティの評価として国際標準規格(ISO一五四〇八)では、どのような評価を獲得しているか示されたい。また、識別処理情報についても同様に示されたい。

十 電子決済の技術は、日進月歩で発展してきている。スイカやパスモは、現金をチャージさえすれば使用可能で、利用者側の負担もデポジット料金五百円を使用開始の際、一回支払うのみで、使用しなくなったときは事業者にカードを返せばデポジット料金は戻ってくるシステムになっている。こうしたものを目の当たりにすると、高価な車載器を買わされ、電子決済の度に別に料金を金融機関から差し引かれ、情報安全管理と言ってはORSEから手数料を差し引かれる現在の有料道路の決済システムは、利用者に過度の負担を強いているものと思わざるを得ない。ETCシステムの利用を、現金をチャージするだけの無記名カードに切り替えれば、公団時代のプリペイドカードのように個人情報や鍵情報など識別情報の管理の必要性から、公益法人までも設立する必要はないと考えるが、政府の見解を示されたい。

十一 平成十七年度の事業報告書を見ると、平成十一年度からの鍵情報発行数は千四百七十万件とのことである。その鍵の種類については、車SAM鍵情報やETCカード用鍵情報があるとされるが、それぞれの一件当たりの発行手数料の額について、鍵情報の種類ごとの収入額、さらに全体額を年度ごとに示されたい。

十二 ORSEが、何に基づいて対価の額を決定しているのか示されたい。事業報告書を見ると、手数料収入は予算段階よりも決算段階で多くなっているケースが見受けられる。仮に、実費を勘案して決定しているならば、予想を上回るETCシステムの利用・普及が促進された場合、結果として手数料を高く取り過ぎる結果になると思うが、政府の見解を示されたい。

十三 セットアップ情報の手数料について、現在は「キャンペーン」と称して徴収していないようであるが、これまでの年度ごとの徴収の経緯と、徴収しないことに至った理由を示されたい。

十四 事業報告書では、有料道路事業者等に対し路測機用の鍵を四百八十三件発行したとあるが、この路測機用の鍵の発行手数料を示されたい。

十五 スマートインターチェンジの設置について、国土交通省に鍵情報を発行したとしているが、一件当たり得た対価を示されたい。また、平成十六年からの社会実験でORSEに支出されている国費の内訳を示されたい。

十六 そのほかにORSEが徴収している手数料があれば、一件当たりの額、件数、これまでの収入を示されたい。

十七 ORSEは、セットアップ事業者と契約を結ぶ際に、その登録店数に応じて保証金を取っているが、その内容や使途を示すとともに、保証金の根拠についても明らかにされたい。また、セットアップ事業者に対し、契約更新料、年間契約費など別途徴収しているものがあれば示されたい。さらに、この保証金収入は収支計算書にどのように反映されているか示されたい。

十八 ORSEの平成十七年度決算書を見ると、収入の予算額と決算額の増減が激しい。①鍵使用料収入の予算額は約八億二千万円であるが、決算額は約十四億七千万円と約六億五千万円増えている。②セットアップ収入の予算額は約十億二千万円であるが、決算額は約四億五千万円と約五億七千万円減っている。③受託収入の予算額は約五億八千万円であったが、決算額は約十三億九千万円と約八億一千万円も増えている。④ETCリース等支援事業収入の予算額は四十七億五千万円であったが、決算額は約四十二億二千万円と約五億二千万円減っている。このように収入項目ごとに予算額と決算額が半分以上も上下するような年間の財務見通しを立てる団体が、健全な財政運営を行い得る団体であるのか、政府の見解を示されたい。

十九 ORSEの調査研究事業の内容について発注者と発注内容の内訳を示されたい。特に、ETCの社会実験関係が多いのではないかと推測するが、仮に発注者が国である場合、競争入札によるものか、随意契約によるものか、その内訳とともに示されたい。

二十 ORSEの徴収する各種手数料については、事業計画書、事業報告書には掲載されていない。対価を取ると省令で定めた公益事業において、その対価は情報開示資料として詳細に公表すべきではないかと考えるが、公表に至っていない理由を示されたい。

二十一 諸外国において、ORSEのような公益法人を設立し、ETCシステムのような自動料金収受システムの利用にかかわる鍵情報、車載器のセットアップ情報、路測機用の鍵等について、対価を徴収している事例があれば示されたい。また、諸外国においてはどのような事業体が利用者に識別処理情報等を付与しているのか示されたい。

二十二 ORSEの総資産ついては平成十五年度末には四十五億円であったものが、平成十七年度末には七十一億円と急激に拡大している。剰余金に当たる正味財産も二十五億円から三十三億円と確実に増えている。既にこの法人の事業は公益事業の枠を超えて、営利事業と性質を異にしないものに成り変っていると考えるが、政府の見解を示されたい。

二十三 このように築かれたORSEの財産は、利用者の不要な負担の上に築かれたものであり、利用者還元すべきものと考えるが、政府の見解を示されたい。

二十四 ORSEは公益法人であるにもかかわらず、その役員には、直接利害関係の係る民間企業出身者(OB)及び在職中の者がいるが、その理由を示されたい。

二十五 ORSEの十七名の役員の内訳を見ると、常勤役員五名のうち公務員出身者は三名(国土交通省出身二名、警察庁出身一名)、非常勤役員十二名のうち公務員出身者は三名(経済産業省(旧通商産業省含む)出身二名、国土交通省出身一名)の合計六名である。これらの者の役員報酬規定について示されたい。また、各省庁からの役員採用の人数は実績として固定化されたものとなっているか明らかにされたい。

二十六 ORSEの非常勤役員に、財団法人道路新産業開発機構の役員がいる。同財団は、ORSEの設立支援をした団体である。同財団の役員名簿を見ると、三名の常勤役員は全員が国土交通省(旧建設省)出身で占められており、非常勤役員も含めた二十名の役員のうち半数が国土交通省(旧建設省)出身となっている。また、同財団の賛助会員を見ると、金融、マスコミ、電気産業、自動車産業、建設産業、電気・ガスなど大企業の名が並んでいるが、会員費を徴収しており、その収入だけで二億円以上に上る。
 賛助会員の特典の一つに「国土交通省道路事業予算説明会」とあり、その内容は「道路関係予算概算要求額の決定後、賛助会員を対象に、国土交通省担当者による予算説明会を実施(毎年九月下旬開催)。道路関係予算の政府案決定後、予算概要を提供。」とある。これは、特典という会費支払のインセンティブを形成する公益法人の広告まがいの行為に、政府が積極的に関与していることを示すものではないかと考える。こうした事務費用の負担者及び負担額を明らかにするとともに、どのような根拠で行われているのか、政府の見解を示されたい。

二十七 公益法人改革において、平成十八年にいわゆる「公益法人改革三法案」が成立し、平成二十年中に施行となるが、同法において、公益法人の公益性の判断を統一的かつ明確な基準の下、民間の有識者の意見に基づき行政庁が認定するとある。ORSEや財団法人道路新産業開発機構のように、そもそも有力OBが天下りをしていること自体が認定の判断を左右することはないのか、政府の見解を示されたい。また、仮にそうした団体が一般財団法人に移行するとしても、受託事業等をこれまでどおり発注し、天下りを続ければ、不透明な関係は続くのではないか。そうした部分を断ち切らずに改革と呼べるのか、政府の見解を示されたい。

二十八 これまで見てきたように、ETCシステムの利用・普及の拡大の陰で、多くの既得権益が形成されてきており、その既得権益を維持するための様々な手数料とそのための理由を意図的に作り上げ、ETC利用者の負担で支えている構造となっていると私は思う。割引を行う陰で新たな手数料を払い、そうした機会費用を含めると今までどおり世界一高い料金を払い続けるという「道路関係四公団の民営化」の真の姿が見て取れると思われ、高速道路の料金徴収期間が四十年以上も続くこととなる。既にETCパーソナルカードも導入されており、民営化による企業経営の自由度を増すためにも、各高速道路株式会社にORSEの業務を即時に移管すべきではないか、そして、財団法人道路新産業開発機構という天下り公益法人の支援により設立され、不要な手数料の温床となっている、正に「天下りの、天下りによる、天下りのための」機関である公益法人ORSEを即刻廃止すべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

二十九 今後の行政改革、特に公益法人改革においては、こうした考えに基づいて公的な観点から対価を徴収するものについては、真に公平・公正な負担関係を構築できるよう、ETCシステムで指摘したように利用者である国民の負担による収入を目当てとした既得権益構造が生じないよう、その制度の在り方に常に注意を払い、負担額、支払方法及びその根拠について、常に明示する体制を構築すべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。