質問主意書

第166回国会(常会)

質問主意書


質問第一六号

米印原子力協力に対する日本の政策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年三月八日

福島 みずほ   


       参議院議長 扇 千景 殿



   米印原子力協力に対する日本の政策に関する質問主意書

 昨年十二月、米国議会は米国とインドの原子力協力(以下「米印原子力協力」という。)の実施に関する法案を可決し、米国によるインドに対する核関連の輸出と協力が開始されようとしている。
 インドは一九九八年に核実験を行い、核兵器不拡散条約(以下「NPT」という。)に加盟しないまま「核保有国」宣言を行い、現在でも核兵器開発を続けている。これに対して日本を含む国際社会は、インドを核保有国としては容認せず、NPTへの加盟と国際的核軍縮・不拡散努力への合流を一貫して求めてきた。それにもかかわらずインドは、包括的核実験禁止条約(以下「CTBT」という。)に署名せず、兵器用の核分裂性物質の生産を継続し、核開発を続けている。さらに、日本が毎年提出している国連総会における核兵器廃絶決議には、反対投票を繰り返している。原子力の平和利用は、それを軍事転用しないという誓約及びそれに対する国際的検証措置と引換えに初めて認められるというのが、NPTを始めとする世界的な核不拡散体制の大前提である。インドに対して原子力協力を行うことは、インドの「核保有国」としての地位を容認し、NPTを始めとする世界的な核不拡散体制を揺るがす危険性をはらんでおり、米印原子力協力に対しては、国際的な懸念の声が高まっている。
 こうした中、被爆国であり、国際的な核軍縮・不拡散を外交の優先課題の一つとして掲げてきた日本がどのような態度をとるかは、世界的な注目の的となっている。去る十二月十五日のインドのシン首相との会談において安倍内閣総理大臣は、この問題に対する日本の立場は「検討中」と述べるにとどまったが、「政府は米印原子力協力を支持する方向で調整している」、「支持の方針を固めた」といった報道がなされている。仮に日本が支持するとなれば、それはNPT体制を柱としつつCTBT推進や兵器用核分裂性物質生産の国際的禁止を求めてきた日本の核軍縮・不拡散政策に大きく矛盾する可能性が高いと言える。
 こうした状況にかんがみ、以下質問する。

一 日本政府の立場について

 米印原子力協力に関し、日本政府の立場は「検討中」とのことであるが、その内容を含め、立場を明らかにされたい。

二 米印原子力協力をめぐる主な論争点について

1 米印原子力協力とNPT体制の整合性について、政府の見解を示されたい。
2 インドの核軍備の現状について、政府の認識を示されたい。また、インドは兵器用核分裂性物質の生産を続けていると言われており、インドに対してウラン燃料の供給が行われれば、インドの核軍拡につながる可能性があり、それは、南アジアにおける軍拡競争と地域の不安定化をもたらすとの懸念が指摘されている。この点について、政府の見解を示されたい。
3 米印原子力協力によって、インドに対して課せられる保障措置について、政府の認識を示されたい。また、インドの核施設が保障措置下に置かれるというが、再処理施設などは保障措置外に置かれるため、インドは核兵器開発を継続できるという指摘がある。この点について、政府の認識を示されたい。

三 世界への影響について

 インドに「核保有国」としての地位を事実上認めるような措置をとれば、国際条約に従わず核開発を強行したとしてもいずれは核保有国として容認されるのだという誤ったメッセージを他の国々に与えかねない。このことは、北朝鮮に対して核兵器開発を放棄することを求め、イランに対して核兵器能力の断念を求めている日本を始めとする国際社会の努力に矛盾する可能性がある。また、パキスタンと中国の原子力協力の可能性など、南アジアの核問題を更に混乱させる可能性がある。
 これらの点を踏まえ、インドに対する原子力協力がNPT体制に与える影響について、政府の見解を明らかにされたい。

四 今後の日程等について

 今後、原子力供給国グループ(NSG)で米印原子力協力問題に関する討論が行われることになると思うが、具体的なスケジュール及び日本政府としての対応の方針を明らかにされたい。

  右質問する。